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怪異から論理の糸を縒る  作者: 板久咲絢芽
閑話1 コックリさん(事後処理)
87/209

10 不審者が言うことにゃ8

「とはいえ、それは本来の話。平安後期から先、お稲荷(いなり)さんは仏教()しに入り、独自に進化した荼枳尼天(だきにてん)との同一視、つまりは習合(しゅうごう)が進んだ」

「だき、なんて?」

荼枳尼天(だきにてん)。本来はヒンドゥー教の黒き破壊の女神カーリーに付き従うとされる屍肉(しにく)を食らう鬼女ダーキニー。ダーキニー自体は()わば種族なんだけど、日本では荼枳尼天(だきにてん)という単一の神として扱われる。そして、荼枳尼天(だきにてん)はその屍肉(しにく)を食らうという、つまり死者と関わるところから、仏教の曼荼羅(まんだら)において閻魔(えんま)との関連性が浮上して、閻魔(えんま)紐付(ひもづ)いていた野干(やかん)という獣との関連性ができあがった。この野干(やかん)はジャッカルを意味するシュリガーラを中国で漢字に音写したものなんだけど、どうやら身近な屍肉(しにく)を食らう獣と見なされたっぽいんだよね。それが日本ではキツネとされた。」

「じゃ、ジャッカル? 違わない? キツネと全然違わない?」


晴人(はると)のツッコミにおにーさんは、はっはっは、と笑う。


「全然違うよ、うん。でも、そう言えるのは(すで)に僕らがキツネもジャッカルも()()()()からであって、そもそも音写した中国の時点でジャッカルの存在が()()()()()()()んだよ。まして屍肉(しにく)を食らう獣なんて、(とら)えようとするヤツはそうそういないはずだから、姿もろくに伝わらず、性質だけが伝播(でんぱ)する。そうなると性質が同じ身近な別物を指すようになるか、伝説上のものと化すんだよ。野干(やかん)身近なもの(前者)パターン。伝説(後者)パターンで有名なのは、イルカやクジラの仲間のイッカクの牙がユニコーンの角とされたやつじゃない?」

「……日本の中だとジャッカルっぽかったのが、キツネってこと?」


狼ではないのか、と思わなくはない。

ペットボトルの小さな口からコーラの真っ黒な水面(みなも)(のぞ)き込みながら、晴人(はると)はそう思う。


「そうしてキツネと結びついた荼枳尼天(だきにてん)外法(げほう)と呼ばれつつも、平安末期から鎌倉以降にかけて、ちゃんと(まつ)れば福を(もたら)す一方、(まつ)り方を間違えれば(たた)る、加護の強さも気性の荒さも抜群の女神となっていった。『古今著聞集(ここんちょもんじゅう)』では時の右大臣、藤原(ふじわらの)忠実(ただざね)が何らかの願いを(かな)えるために荼枳尼天(だきにてん)修法(しゅほう)をさせてるし、『源平盛衰記(げんぺいじょうすいき)』の中では(たいらの)清盛(きよもり)荼枳尼天(だきにてん)の別名の貴狐天王(きこてんのう)に出会ったとされている。外法(げほう)、つまりは正道から(はず)れたものと思われていても、キツネ繋がりで宇迦之御魂(うかのみたま)と習合して、お稲荷(いなり)さんとして成立するにしたがい、外法(げほう)とも呼べなくなった」


そこまで言って、おにーさんはお茶を口に(ふく)む。

おにーさんの持つお茶は三分の一しか減っていない。


「そうして進化していって、全国的に街道(かいどう)の整備や治安の一定化が達成され、それまでの不安定な情勢よりも商売に(てき)した江戸時代までくると、現代と同じ、(あきな)いの神としての側面を得たお稲荷(いなり)さんになったわけ。農民に対しての豊穣(ほうじょう)とは(すなわ)ち繁栄であるとすれば、商人に対しても拡大解釈で適用できる」


――で、話を元に戻そうか。

そうおにーさんがにこやかに言って、晴人(はると)は本来はコックリさんの話をしていたのだと思い出した。


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