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怪異から論理の糸を縒る  作者: 板久咲絢芽
閑話1 コックリさん(事後処理)
84/209

7 不審者が言うことにゃ5

「コックリさんにどういう漢字を当てるかは知ってる?」

「それは知らない」

「キツネ、イヌ――(けものへん)に俳句の句の(いぬ)――、タヌキ。それで狐狗狸(こっくり)さん」


なるほど、それらの霊を呼び出しているという前提なのか、と晴人(はると)はその当て字に納得する。


「キミはキツネ、イヌ、タヌキのそれぞれにどういった印象を持ってる?」

「え……キツネもタヌキも、昔話で人を化かす動物でしょ。イヌは、なんというか、そんなあんまり幽霊とかってイメージないなあ」

「んー、まあ一般的にはそうか、そうなるか。(けものへん)(いぬ)天狗(てんぐ)()羊頭狗肉(ようとうくにく)()なんだけど、日本でこの字を(もち)いることは少ないし、犬自体については人と共にある動物って印象が強いしね」


ちなみにこれは比較的ワールドワイドね、と付け加えるようにおにーさんは(つぶや)く。


花咲(はなさ)(じい)さんの犬、桃太郎の犬、猿神(さるがみ)退治の犬。どれをとっても犬はそのお話上の善側であって、同時にその善は()()()()()()の側である。メソアメリカ系の昔話だとイヌ科のコヨーテが、文化英雄(ぶんかえいゆう)(けん)トリックスター、つまりは人に文明的な何かを(もたら)すものとして描かれたりする。ヨーロッパには人の代わりに生贄(いけにえ)にされた犬の話がある一方、犬の怪異の話もある。とはいえ、日本においては忠犬ハチ公のように、その忠実さにフォーカスが当たることが多い。これは儒教(じゅきょう)の影響が関係してそうかな……まあ、だから、日本人であるキミがコックリさんにおける犬に対して違和感を覚えるのは正しい」


立て板に水というより、ウォータースライダーなのではないだろうか。

頭の中でおにーさんの言葉が射出(しゃしゅつ)された勢いのまま、ぐるぐる、ぐるぐる、遠心力に任せて回る感覚を覚えながら晴人(はると)はとりあえず、おにーさんの最後の言葉だけ頭の中に留めた。


「で、キミはキツネとタヌキにはそんなに違和感はない?」

「……うん、人を化かす動物だから、そういうのもあるのかなあ、とは思う」


ふむふむ、とおにーさんはどこかご機嫌(きげん)晴人(はると)の言葉を聞いている。


「そうか、そうか、うんうん。まあ、()()一般的感覚からするとそうなるよね」

「……おにーさん、その()()っての、単なるジェネレーションギャップのことじゃないよね?」


なんかの(ふく)みが乗っているのはわかっても、なんのつもりなのかはよくわからない。

けど、このおにーさんは人間びっくり箱みたいなものだと思い始めていたから、もう何が飛び出してきても変な驚き方はしない自信があった。


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