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怪異から論理の糸を縒る  作者: 板久咲絢芽
閑話1 コックリさん(事後処理)
81/209

4 不審者が言うことにゃ2

「で、本当に古くからなら、動物霊ってだけで下級なのがおかしいってとこまで話したんだっけね。まあ、その時点で文明開化、明治維新後、西洋的学問の受け入れによるパラダイムシフト(価値観の転換)の事後にできたものだって推測できるわけ」

「幕府とかじゃなく?」

「うん。幕府による影響なら単なる行為の禁止だけのはずだ。仏教においても動物より人が優位であるという考えはあっても、それは(ゆえ)に慈悲を持てということであって、人こそが中心であり、圧倒的優位であるというのは、どちらかといえばキリスト教の正道的な考えだからね」


とはいえ、その後ろに、民間信仰レベルは別として、と小さく例外が付け加えられたのを、晴人(はると)は聞き逃しはしなかった。


「本来なら、キリスト教は幽霊を否定して(しか)るべき世界観の宗教だ。そもそも論としては仏教もそうだけど、日本における仏教は古くから入ってきてて、明治の神仏分離があるまでどうにか辻褄(つじつま)合わせて共存してた状況だから、コックリさんの禁忌(きんき)化に影響を与えるとは考えにくい。これは西洋の民間信仰とキリスト教の関係もそう。何事も体系化の固着前に合流すれば余地というものがあるわけだね。そして、そうなってくると、もう後から入ってきたものだけが怪しいわけだ」

「……やっぱり、それ、一般的には無駄知識だよね?」

「そこ、否定できないな~」


晴人(はると)の手心ない指摘に、おにーさんはまたからからと笑う。


「日本で生まれたんじゃないのはわかったけど、じゃあ、なんで鳥居を書くの?」

「そりゃあ、日本ナイズドされたからでしょ。そもそも、コックリさんってじゃあ何って言ったら、西洋の心霊ブームで発生した交霊会とテーブルターニングから派生したウィジャ盤の亜種なんだから」

「ウィジャ……?」

「英語だとウィジャボード。ハート型の車輪の付いた板、プランシェットに参加者が手を置いて自動筆記させたり、アルファベットを書いた紙を敷いて、プランシェットが指した文字から質問の答えを読み取る……まさしくコックリさんと同じだね。テーブルターニングも、道具がプランシェットから三本の棒を立つように(たば)ねた上に天板(てんばん)を置いた小さなテーブルに変わるだけで同じ。この(あた)りは似たような交霊術としては、中国の扶箕(ふき)扶鸞(ふらん)がそうだけど、生まれた時代的にはどっちかっていうとそっちが派生元でウィジャ盤になった感じ。時代的にはシノワズリ(中国趣味)の影響もあるかもね。交霊会は(まじ)わる霊の会と書く通り、呼び出した霊との交流を目的とした会。西洋においてはコックリさんと同じく遊びとしての側面を持っていたけど、実際のところ、さっき話した日本の(ほとけ)おろしとか、信仰に(もと)づいた儀礼としての祖霊(それい)や精霊との交霊会は世界的に分布している」


――だからこそ、オカルティストにとっては超有名人の、かのアレイスター・クロウリーですら、軽率(けいそつ)なウィジャ盤の使用には警句を発してた、というからねえ。

そんな(つぶや)きが後に続いた。

がしかし、立て板に水の立て板とは、こうも九十度で立てられたものなのだろうか、と晴人(はると)は少し思う。


「でも、普通に霊なら、なんで鳥居なの?」

「日本的にどこから霊が来て(しか)るべきか、と考えた時に現世と神域を(へだ)てる鳥居が出てくるのは何もおかしくないよ」

「いや、神様とユーレイは別じゃん……」

「……なんか思ったこと全部言ってから辛口だね、キミ」


むう、とおにーさんは不服そうな顔をする。

それを横目に晴人(はると)はコーラを三口ばかり飲んだ。


シノワズリ:chinoiserie。フランス語で「中国風の」。17世紀から最盛期とされる18世紀半ばぐらいまでヨーロッパで流行った中国趣味文化。19世紀半ばに再熱したらしく、ウィジャ盤やプランシェットの発生はこの再熱時期に近い。また、この再熱は時期的にはジャポニズムと影響しあってもおかしくないので、もしかしたら両者合わせて極東趣味とでもいう感じだったのかもしれない。

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