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怪異から論理の糸を縒る  作者: 板久咲絢芽
閑話1 コックリさん(事後処理)
80/209

3 不審者が言うことにゃ1

「そんな恐山(おそれざん)にはイタコがいる。彼女達は死者の霊を呼び出し、自身の身体にその霊を宿らせて、そして語るのさ。それが口寄(くちよ)せ。そして、イタコはあくまで恐山(おそれざん)(あた)りでの名称であって、そうした口寄(くちよ)せを行う非公式な神職女性は、古くは定住も放浪も全国的に存在したんだ」


また一口、おにーさんはお茶を飲む。

不思議と晴人(はると)は続きが気になっていた。


「特に東北に残る(ほとけ)おろしが顕著ではあるけれど、各地の葬送儀礼、つまりは人が死んだ際の行事において、葬儀から一定期間が経った節目に口寄(くちよ)せをさせる行事が残っていた事が日本民俗学の祖、柳田國男の調査資料から読み取れる。そんな日本で、霊を呼び出す遊び自体が簡単に生まれると思う? たとえ動物霊だからと言ったって、狐なんて何もしなくても人に()くとされたし」

「ええっと、そもそも霊を呼び出すのって特別だけど、変わったことじゃなかったってこと?」

「そう。こうした専門職は一般のヒエラルキー外に置かれたから、普通の時には卑下(ひげ)されるか、(うやま)われるか、両極端なんだけど。まあ、だからといって信仰の(かなめ)だから、完全な禁忌(きんき)になるほどの素地(そじ)はないが、ごっこ遊びレベルの真似事(まねごと)ならまだしも、それ自体が遊びにまでなることはない」


そんな風に話すおにーさんは一体何者なんだろうと、ふと晴人(はると)は思う。

立て板に水とか滔々(とうとう)と、という言葉がぴったりな語り口である。


「それにさ、猿は日吉(ひえ)山王権現(さんのうごんげん)、鹿は春日権現(かすがごんげん)、蛇は弁財天(べんざいてん)とか、日本では動物が神使(しんし)、神様の使いとして(あつか)われる時点で、動物霊が必ずしも下級というわけじゃないんだよ。でも、コックリさんの上では、それが必ず下級のものとして雑に(あつか)われる」

「あのさ、おにーさん、何?」


(しゃべ)りなれているから劇団員、とかにしてはちょっと語る内容がニッチすぎる気がする。

マジシャンにしたって、こんな知識は不要なはずだ。


「……」


おにーさんは黙って晴人(はると)の方を見て、それからちょっと考える素振(そぶ)りを見せてから、にやりと笑って口を開いた。


「キミには、何に見える?」

「……最初は売れないバンドマンかなって思ったけど、それにしてはアクセサリーとかまったくないなって。十円玉消して見せたからマジシャンかなって思ったけど、マジシャンがこんな知識必要なのか、こんなに(しゃべ)るもんなのかって思って。じゃあ劇団員かなって思ったけど、やっぱりそんなニッチな知識なんて必要ないよねって思って……でも大学の先生にしては、格好から何から、やたら胡散臭(うさんくさ)いなって」


なんというかアホらしくなって来たので、晴人(はると)が思ったことを(あら)(ざら)い全部言うと、最初はにこにこと聞いていたおにーさんだったが、次第(しだい)に目が泳ぎ出した。


「……そっかあ、うん、やっぱり胡散臭(うさんくさ)いかあ。そっかあ」


行動もやり口も、警戒に(あたい)するだけの不審者かと言われると微妙なのだが、胡散臭(うさんくさ)さだけはどうやっても(ぬぐ)えそうにない。


「で、なんなの?」

「んー、本当のこと言うとたぶんその胡散臭(うさんくさ)さに拍車がかかるから、後で教えるよ」


そう言って、微妙な表情を浮かべたおにーさんはまたお茶をぐいっと一口飲んだ。


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