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怪異から論理の糸を縒る  作者: 板久咲絢芽
閑話1 コックリさん(事後処理)
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2 事の始まり


鵜沢(うのさわ)くん」


放課後、帰り(ぎわ)晴人(はると)にそう話しかけて来たのは、クラスでも一番人気のある桜木ひなだった。

活発よりはお(しと)やかで、美人で大人びた高嶺(たかね)の花であるひなに話しかけられるなんて、何をもってしても凡人の域を出ない小学六年生の晴人(はると)にとっては、寝耳に水か、晴天の霹靂(へきれき)か、といったところだった。


「これ、今日中に使ってくれない?」


ひながそう言って渡してきたのは、くすんで茶色くなっている何の変哲もなさそうな、十円玉だった。


「僕?」

「うん、鵜沢(うのさわ)くんに、使って欲しいの」


ひなの後ろの方では女子グループのメンバーがじっとこちらを(うかが)っていて、うっかりひなの要求を(こば)もうものなら非難囂囂(ひなんごうごう)という言葉が待ち受けているのが見て取れた。

むしろ、こうして、様子を(うかが)っている間にも、彼女たちから晴人(はると)に向けられる信用度のゲージがじりじり毎秒ミリのレベルで削れているような気すらする。

そして、自分の後ろからはうらやましそうな男子たちの視線が背中に突き刺さる。これもうっかり断れば、非難が集中するだろう。


「……うん、わかった。ありがとう」


だから、晴人(はると)はそう言って、笑顔を作って受け取るしかなかったのだ。



「ふうん、なるほど。この十円玉にはそんな()()()()()()がついてたのか」


流石(さすが)に名前を出す事はしなかったが、事の次第(しだい)を聞いた黒カーディガンの人はよくわからないことを言いながら、手首を返して(つま)んだ十円玉を裏、表と(なが)めている。


「にしても、代償を自分で支払う気もないなんてねえ」

「なんのこと?」


晴人(はると)(たず)ねると、んーと少し悩むようにしてから黒カーディガンは口を開く。


「これ、たぶんコックリさんをやった後の十円玉だよ。コックリさんに使った十円玉は早く使ってしまうことがルールだから」

「え」

「正直、そんな小学生、(すえ)傾城(けいせい)傾国(けいこく)かファム・ファタールか、恐ろしくはあるけど……でも、はっきり言って、キミもみんなも、良いように(あつか)われてるよ? 知らされてないならなおさら。そして、これはキミは使わない方がいい」


そう言って、黒カーディガンは指で、ちんと澄んだ音を立てて十円玉を高く(はじ)き上げると、落ちてきたそれを片手でキャッチして、それからその手を開いて見せた。

出てくるだろう十円玉は出て来ず、何の変哲もなかった十円玉は、その手の中に影も形もない。


「……マジシャン?」

魔術師(マジシャン)、か……んー、まあ、そんなもんかな」


晴人(はると)の言葉に、黒カーディガンはいたずらっぽく笑ってはぐらかすと、晴人(はると)を通り過ぎて自販機の前に立った。

そして、ごそごそとズボンのポケットから財布を取り出す。


「というわけで、十円玉を失くしてしまったお()びに、()()()()()が好きな飲み物を(おご)ってあげよう」


止める間もなく、ちゃりん、ちゃりんと百円玉を二枚入れて、自称おにーさんは自販機の前を空けると、にっこり笑って晴人(はると)を見た。

晴人(はると)は少し戸惑いながらも、でも自販機から出て来るものだし、と思いながら、遠慮せずにコーラの五百ミリペットボトルのボタンを押した。

どかこん、と自販機が震えながら音を立て、ペットボトルが取り出し口に落ちて来る。

ちゃり、ちゃり、ちゃりんとおつりが落ちる音を聞きながらコーラを取り出して脇に退()くと、自称おにーさんは一旦おつりを回収した後、そのおつりと足りない分を再び投入口に入れて、五百ミリペットボトルのお茶のボタンを押した。

どかこん、とまた自販機が震える。

お茶を取り出した自称おにーさんはぺきっとボトルの(ふた)を開けると、唇を湿(しめ)らせるように一口だけ飲んだ。


「キミ、流石(さすが)にコックリさんが何かはわかってるよね」


その横でぷしっと晴人(はると)もコーラの(ふた)を開けると、おにーさんはそう言った。


「うん、動物とかの下級の霊を呼び出して、いろいろ聞くってやつでしょ? 怪談とかで出て来たりするもん」


興味がないので細かいルールは覚えてなかっただけである。

おにーさんはその不思議な色の目を少し笑うように細めて、首を(かし)げた。


「じゃあ、コックリさんが日本発祥じゃない可能性が高い事は?」

「……そうなの?」


コーラを一口飲んでから、思わず、ぱちくりと(まばた)きをする。

おにーさんは目を細めたまま(うなず)く。


「だって、日本なら、こんな禁忌(きんき)じみた遊びの(あつか)いになる必要性が本来ないもの。葬送儀礼の一環に口寄(くちよ)せがある地域がある国だよ?」

「……くちよせ?」


そう聞き返せば、おにーさんは少し考えるようにまばたきをしてから、また口を開く。


「青森の恐山(おそれざん)って聞いた事、ある?」

「ううん」

「日本三大霊場の一つって言われたりする場所なんだけど……あ、霊場は、そうだなあ、最近の流行(はやり)だとパワースポットって言い方が近いかなあ」


細かいニュアンスが異なると思うけどね、と若干のぼやきが混じった(つぶや)きが後に続く。


「まあ、そもそもが火山だから少し景観が一般的な山とは異なっていてね、それもあって誰が言い出したか、現世において地獄に最も近い場所とされるんだよ」


晴人(はると)は着地点がわからないなりに、ちびちびとコーラを飲みながらおにーさんの話を聞く。


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