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怪異から論理の糸を縒る  作者: 板久咲絢芽
3-2 肝試しと大掃除 side B
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13 家に帰り着くまでが


「戻りました」

「ただいま戻りました」

「おかえりー、(なお)くんもありがとう」

「まあ、今回は俺が持ってきた案件だし」


帰り着いた玄関で、にこにこと出迎(でむか)えてくれたのは紀美(きみ)本人だった。

こうして、如何(いか)にもおじさんな直人(なおと)と、都会のライブハウスとかで簡単に似たような若者を見かけられそうな見た目の紀美(きみ)が並んでいるのを見ると、二人の年齢というものを考えた時に何か時空が(ねじ)れているのではないか、宇宙の神秘なのだろうか、と織歌(おりか)は感じてしまう。

(ひろ)やロビンはもう慣れたと言わんばかりなのだが。


「いやあ、それも助かるよ。おかげで食いっぱぐれる心配もないもの」

紀美(きみ)くん、ほんと割と深刻なことでも笑顔で言うよね……一時期は本当にお祖母(ばあ)さんの遺産を切り崩すしかなかったのに」


(あき)れたようにそう言った後に、だから世話焼いちゃうんだけどさあ、と直人(なおと)は言う。

それを聞いても、少し困ったように眉尻(まゆじり)を下げただけで紀美(きみ)はにこやかなままだ。


「でも、今は全然マシだよ?」

「ああ、うん、さっき(ひろ)ちゃんから初めて聞いたんだけど、織歌(おりか)ちゃんの関係でそっちの伝手(つて)とかもできつつあるとか……」

「一応、僕は邪道だから、基本的には正道の余所(よそ)に回してるよ? いやあインターネット活用しようって言い出したお偉いさんには感謝だねえ……というわけで、(なお)くんが案件回してくれる余地は、まだあるわけでーす」


紀美(きみ)からそう言われて、直人(なおと)が少し嬉しそうに見えるのはおそらく気のせいではないだろう、と織歌(おりか)は思った。

これはロビンと(ひろ)が、(あき)れたような視線を直人(なおと)に送っているが(ゆえ)の判断である。


「……ネットの活用については同意見ではあるけど、もうちょっとセンセイ自身が振り分けしてもボクはいいと思うんだよね」

「わたしも全面的に同意です」


(さら)に、ぼそりとロビンと(ひろ)紀美(きみ)にきっちりと(くぎ)を刺しにかかる。


確かに、余所(よそ)に回す判断をしているのは紀美(きみ)自身ではない。

窓口の織歌(おりか)が、紀美(きみ)よりも先にロビンと(ひろ)に情報を渡して、その時点で(さば)かれた結果なのである。

そうでもしないとこの変人(センセイ)はいつか過労死する、とはロビンの言。

ただ、それでも、直人(なおと)余所(よそ)から回される案件は、直接紀美(きみ)に渡されるので、どうしようもない。


それも基本、ロビンと(ひろ)紀美(きみ)自身が出ることが余りないようにコントロールしている。

結果として、紀美(きみ)は弟子二人を前に正座させられていることも少なくない。

師匠の威厳とは、と織歌(おりか)の頭の端をいつもの考えがスライディングしてきて、そのままフェードアウトする。


「……というわけなので、まあ、()()()()に回してもらう余地はある」

「ロビンくんも(ひろ)ちゃんも容赦(ようしゃ)ないのに、紀美(きみ)くんも相変わらず強いね……」


それでもここでめげない(あた)りが、紀美(きみ)である。

その根っこがお人好(ひとよ)しによるところというのは、散々(さんざん)ロビンや(ひろ)がぼやいているので、織歌(おりか)(すで)に知るところだ。

逆にその善性があるから、こうして(した)われているとも言えるのだが。


「というわけで、またなんかあったら連絡頂戴(ちょうだい)ね」

「ああ、うん。久々に話もしたいし、次はそういうの抜きで遊びにでも来るわ」


それを聞いたロビンと(ひろ)が互いに目配(めくば)せしている。

たぶん、本当に遊びに来るだけだよな? 本当だな? みたいに圧をかけて直人(なおと)牽制(けんせい)する意味合いでしているのだろう。

実際、直人(なおと)が少しだけ申し訳なさそうな視線をこちらに向けた。


「それじゃあ、俺は今日はこれで」

「うん、おやすみー。ありがとね」


そんな挨拶(あいさつ)()わして直人(なおと)が出ていくと、少ししてから車のエンジン音が去って行った。

そして、振り返った先でロビンと(ひろ)からじっと見つめられた紀美(きみ)は、最初こそそれを気にせず振る舞おうとして、それから挙動不審になり、眉を八の字にして気まずそうに口を開く。


「……えっと、善処はします」

「期待はしないけど、頼むよ、センセイ」


ロビンの言葉に、紀美(きみ)(しぶ)いのか()っぱいのかよくわからない表情を浮かべた。

どちらにせよ、耳に痛い事であるには違いないし、今まで刺された同様の(くぎ)を可視化すればたぶんヤマアラシのようになっているだろう。


織歌(おりか)も、遅くまでごめんね」

「いえ、お役に立てたのなら何よりなので」


そう、織歌(おりか)としてはそれ以上もそれ以下もない。

すると、後ろから両肩にぽん、と手が置かれた。

振り返れば、妙に生ぬるい目をした(ひろ)織歌(おりか)を見つめている。


「……織歌(おりか)には今度、ああいう手合いのさばき方、教えますね」


(ひろ)の言葉で(さっ)したらしい、ロビンが(あき)れたような顔をする。

その(あき)れの矛先(ほこさき)は、きっとあの四人組(彼ら)なのだろうけれど。

すると、ぱん、と紀美(きみ)が一つ手を叩いた。


「何はともあれ、丸くは収まったわけだし……織歌(おりか)、今日はもういいよ。(ひろ)から報告は聞くし、お疲れ様」


紀美(きみ)がやや強引に()めたのは、なんだかんだ今現在パトロン的存在になってる織歌(おりか)の父親の事を考えてだろう。

(ひろ)がいる分、男親の恐怖を知っているからだろうが、実のところ織歌(おりか)の父親は良い方向で放任主義であるので実はそこまで心配ない。

なんなら、紀美(きみ)への心象は良い方である。


「はい、それでは本日はごきげんよう」

「うん、また明日」

「敷地内とはいえ、気をつけてくださいね」

「おやすみー」


口々に言われた言葉を笑顔で受け止めて、玄関を出ると、少しばかり気を引き締めた織歌(おりか)はそのまま家路(いえじ)を急ぐのだった。


一旦ここで終了。

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