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怪異から論理の糸を縒る  作者: 板久咲絢芽
3-2 肝試しと大掃除 side B
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12 穏やかな混沌より荒々しき秩序

「先生の説は極論、別の層の何かがこちらの力場を起点に表出する時、こちらにある概念の皮を(かぶ)って現れる、です。おそらくは、その力場から手近なものを利用する傾向はあるとは思われますが……そもそもの()()()()()()()()を確認する(すべ)はわたし達にはない。だからこそ、前提条件で縛り上げた科学ではなく、得体の知れないオカルトなんです」


前提条件による再現性がない、と(ひろ)は言う。

なんだかんだと言いつつ、(ひろ)の根は生真面目(きまじめ)で、正義感や義務感というものが強く、若干巫山戯(ふざけ)たようなノリはどちらかといえばフリみたいなものである、というのは短い付き合いでも織歌(おりか)理解している。

おそらくは、(ひろ)の実家が実家なので、生来そういうの(霊能力)を持つ者として育てられたからではないか、と織歌(おりか)は推察する。


「西洋における悪魔召喚とか、そういう意味合いの印章(シジル)は再現性を(ねら)ったものではありますが、その保証はありません。何故なら(こた)える側にあるべき前提条件も、実施時における向こう側の前提条件の状況も、わたし達には確認する(すべ)がないからです。それこそ、かのエジソンが手掛けていたという霊界通信機が本物であれば、違ったかもしれませんが」


同じようにそうした家系でもその意識に(とら)われているとは言えない紀美(きみ)や、ただ見えるようになってしまったことがスタートラインだったロビンと(くら)べると、(ひろ)(ひろ)なりに、こうしてきっちりと科学との差を論理立てる傾向がある。

ある種、専門家としての矜持(きょうじ)なのかもしれない。


「わたしは別にユングの心理学を()してるわけではないですが、集合無意識という概念は(すで)に生まれてしまっている以上、()()()がそれを利用しないという保証もない。概念同士が意外なところで(ひも)づくのは、ウェブ百科事典の記事内リンクを六回辿(たど)れば、どんなに離れた項目であっても辿(たど)り着けるというのと同じです」

「あー、六次(ろくじ)(へだ)たり仮説(かせつ)だっけ?」


直人(なおと)の補足に、織歌(おりか)もあれのことかと合点(がてん)がいく。

誰でも知り合いの知り合いという伝手(つて)のリレーで、最大六人経由すればアメリカの大統領とだって繋がれるという、全てが一対多で結ばれたネットワーク上における、任意の地点から別の任意の地点に移動する時の移動回数の仮説である。


「だから、知っている事にも、知らない事にも留意(りゅうい)せねばならないんです。そして、できる限りの制御化に置こうとするためには、時としてデメリットになろうとも、知っている方がまだ安心できます」

「意図せぬ無害より、意図した暴走の方がマシってことですか?」

「端的に言えばそういうことです。対症療法がわかってれば、そっちに転んだ方が対応できないよりマシでしょう?」

「……霞堤(かすみてい)の理念みたいなこと言うね、(ひろ)ちゃん」


霞堤(かすみてい)

あえて任意の場所で氾濫(はんらん)させることで、他の場所を守る形式の、かの武田(たけだ)信玄(しんげん)も作ったとかいう話のある堤防のことである。

(ひろ)は隣の直人(なおと)の方をちらりと見てから、窓の(ふち)近くに(ひじ)を乗せて頬杖(ほおづえ)をついた。


「……何を絶対条件とするか、ですよ。絶対条件さえクリアできれば、最悪それ以外は切り捨てるだけの腹()もりでないと。だって、川や天候と同じどころか正確なメカニズムはわからない、本来的に制御できないものですから」


――全部を救うなんて、最初から傲慢(ごうまん)なんですよ。

(つぶや)くように付け加えられた言葉には、実感が乗っていた。


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