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怪異から論理の糸を縒る  作者: 板久咲絢芽
3-2 肝試しと大掃除 side B
74/209

11 ふいんき(何故か変換できない)

medium (ミーディアム)という語が語彙(ごい)の山の中から発掘された上で霊媒(れいばい)という意味を付加された可能性がある、というのは理解しましたけど、複数形の形がというのはどういうことなんですか?」


二人の会話の途切れたタイミングで織歌(おりか)が切り込むと、それはですねえ、と(ひろ)が口を開く。


「言語において、使用頻度が高い語ほど、文法上の古態(こたい)を残しやすいんですよ。つまり例外として残りやすいんです。英語のbe動詞とか、三人称単数現在の-s(三・単・現)ってレベルじゃないでしょう」

「確かに、一人称単数ならam、三人称単数ならis、二人称単数と複数ではareで、原形はbeですもんね……」


つまり、複数形がmedia(メディア)と同じではなく、英語標準の-sである時点で、ラテン語由来であっても「霊媒(れいばい)」としてのmedium (ミーディアム)は使用頻度の高い語ではなかったということである。


「使用頻度が低いと、いざ使うとなった段で、どう使うんだっけがうろ覚えで、結果として時間経過による文法の確立と共に、より大多数のパターンへと集約していくんです。特に十九世紀(なか)ばというと、(すで)に確固とした英文法が成立してるので、変形として入る余地がそれに関わる界隈(かいわい)の知識上あったかどうか、という……」

「まあ、逆に使用頻度が高いと、ルール上の古態(こたい)が残る一方、言いやすいようにって方向で音韻(おんいん)が変化するのは起こりやすいよ。音便(おんびん)とか、連声(れんじょう)とか、音位転換(おんいてんかん)とか」

「昨今だと、音位転換(おんいてんかん)では()()()()が有名ですかね、何故か変換できないって話からネタ化したやつ」


雰囲気。

確かに漢字に(したが)って読めば()()()()なのであるが、発声としては()()()()の方が楽ではある。

なんというか、漢字に合わせると口の動き的に不自然な感覚になるというか。


「まあガチの話を出すと、上代(じょうだい)日本語から母という語は存在しますが、このハの発音は破裂音のパだったって話が有名なくらい、音韻(おんいん)というのは本来時間経過と共に、話しやすいよう、発音しやすいように変化していくものなんですよ。そもそもの骨格の変化とかもありますけど」

「何にしても体系化が進んで、それが固まると、齟齬(そご)が出た段階で問題視されるから、一定の体系化後は新しいものが生まれても、変化を許容するのは難しい……って前に紀美(きみ)くんも言ってたなあ」


やっぱり二人とも、織歌(おりか)の事を言えないのではなかろうか。

そう思いつつも、別の事で疑問を覚えたので織歌(おりか)は問いを投げる。


「でも、あの場でそこまで知っていたのは(ひろ)ちゃんだけですよね?」


であれば、それほどの強制力があるものだろうか。

そう思ったのである。


「そうですね、medium (ミーディアム)なんて知ってたのは間違いなくわたしだけでしょうが……そもそもとしてmedia(メディア)媒体(ばいたい)である以上、そこで()()()()()()が起きてしまう可能性はゼロではないですし、人としての層にそれが存在している以上、()()()()()()()()()()()自体はわたし達にはわからないんですよ」


(ひろ)はルームミラー()しに、先程(さきほど)よりも鋭い視線で織歌(おりか)()た。


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