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怪異から論理の糸を縒る  作者: 板久咲絢芽
1-1 逆さまの幽霊 side A
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6 それは何か

「……じゃあ、ソレ、なんなんですか?」


思った以上に震える声が口から(こぼ)れた。

自殺した人の魂それそのものでない。

それなら、真由(まゆ)と目が合った人影はなんだというのだ。

今、織歌(おりか)とロビンに見えているソレはなんだというのだ。


「……さっきも行った通り、()()()()る力と、こちらでの何らかの志向性の相互干渉によって、こちらに影響を及ぼしてるのが()()だけど」


ロビンの声に(あき)れが混ざっているのがわかる。

でも、真由(まゆ)にはわからない。


「……何らかって、なんですか」

信仰(religion)想念(idea)(recog)(nition)願望(hope)文化(culture)物語(story)事実(backstory)文脈(context)……そういうものだよ。時として、というか多くが複合的だし、明確に何とは言えない」

「じゃあ……結局、()()はなんですか?」


握った手に力を込める。

得体の知れないソレが、まだ死者の霊、幽霊であった方がマシだったかもしれない。

真由(まゆ)はそう思い始めていたし、だからこそ、先程(さきほど)よりも胸を()めつけるような恐怖を感じていた。


「なんなんですか!?」


今、真由(まゆ)が背を向けている窓の向こう。

織歌(おりか)が見ているからには、真由(まゆ)には何も見えないのだろうけど、それでも。

そこに()()()()()()()()と、真由(まゆ)は知ってしまったのだ。

ロビンが、またため息をつくのが聞こえた。


「そうですねえ」


()わりに口を(ひら)いたのは織歌(おりか)だ。


真由(まゆ)さんは、何だったら納得(なっとく)できますか?」

「え?」


窓の方を見つめたまま、織歌(おりか)はほわほわした柔らかな声でその先を続ける。


「仮説は立てられます、いくらでも。さっきロビンさんが言った通りいろいろな要因が考えられるのですから」

「……」

「わからないなら望んだ仮説に押し込めばいいんです。辻褄(つじつま)さえ合えば、納得(なっとく)、できるでしょう?」

「オリカ」


ロビンの(あき)れ返った声が後ろからした。


「誰もがオリカみたいに、そう簡単に納得(なっとく)はしないよ」

「でも、実際のところ納得(なっとく)してもらわないと」

「そうだけど」


苦虫を()(つぶ)したようなという表現が似合う顔をしているんだとわかるような声で、ロビンがたじろいでいる。

先程(さきほど)言っていた鳥の(ふん)に爆撃されるような、小さな不幸で(つちか)っただろう(したた)かさで、織歌(おりか)は今この場を(せい)していると言えた。


「じゃあ、オリカは仮説、立てられてるの?」

「まあ、なんとか。というか、経験自体はロビンさんの方が多いじゃないですか」

「……その分、選択肢が多いんだけどね」


仕方ないと言わんばかりのため息をロビンがついた気配がする。

少し冷静さを取り戻した真由(まゆ)は、ロビンに若干の同情を覚えた。

真由(まゆ)と会ってから、この青年は(ぞく)に幸福を(のが)すとか言われるため息を何度ついただろうか。


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