4 日向の橘の小戸の阿波岐原
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「やっぱりさ、俺が見張っとくべきだった、とオジサンは思うわけよ」
「えー、でも窓口役な割に、そっち方面ダメダメじゃないですか、直さん」
迎えの車内で弘から事の顛末を聞いた運転手、正木直人が言うと、助手席の弘がずばりと一刀両断する。
された側の直人は、そのやたらとうっかりその筋にも見えそうな、ガタイのいい身体を少しばかり縮こめて口を開いた。
「そりゃ、オジサン、単に顔が広いだけのしがない一般人ですからねえ……だからこそ、君たちみたいなうら若いお嬢さん達を夜にこうして駆り出すのには申し訳なさがあるわけよ。でなきゃ、いくら紀美くんに持ち込んだからって簡単には車出さないよ」
「と言いつつ、直さんに送り迎えしてもらったの、両手両足で足りないぐらいに思いますけど」
正木直人。
紀美の数少ない一般人の友人で、なんなら同級生らしい。例に漏れず面倒見はとても良い。
紀美が動く案件は同業者からお鉢が回ってきたもの、最初から紀美が巻き込まれたもの以外は大体、この直人を経由して頼まれたものであることが殆どだ。
ロビン曰く、仲介料取ったり、中抜きしたりしない善意の塊、そこは保証できる、とか。
ちなみに直さん呼びは、紀美が直人を直くん呼びしているせいである。
まあ、そういう馴染みの人なので弘も容赦がない。
織歌としては、まだ距離感を測りかねているところがあるので、とりあえず大人しく後部座席で揺られている。
あきつは満足したらしく、あの後、自分が起点にしている層に引っ込んでしまい、姿を見せていない。
「まだ今回はマシな輩ってだけで、次同じような事があったら、やっぱりオジサン、見張りに立つわ」
「いや、それで直さんに被害がいったら、それはそれでめんどくさいんで、マジでいいです。先生も珍しく怒ると思いますし」
鋭さとしても断りとしても遠慮の一切ない返しを弘がすると、直人は肩を竦めた。
「でもさ、俺、一応前に紀美くんからは、そうそう変な事にはならないよって言われてんだけど」
「えー、それって根拠はなんなんです?」
それを聞いて、あ、と織歌は思い当たる。
「いや、紀美くん、そこまでは言ってくれなくてさ」
「名前、特に使われてる音や漢字、じゃないですか、弘ちゃん」
先程会った四人組の内、先行した二人が危うそうと織歌が判断した基準は、その実、名前だったからだ。
その観点から言えば、直人という名前はあの二人の真逆なのである。
「……あーなるほど、直がそうってことです?」
「はい。先程のあの四人の内、先行した津曲さん、勾田さんのお二人はどちらも名前にまがの音が含まれていたので、危険だなと私は思ったのですが」
「あのね、二人ともね」
赤信号で車が止まり、慣性の法則のままに少しばかり身体が揺れる。
「できたら、専門家じゃないオジサンにもわかるように話して……」
少しばかりわざとらしく拗ねたように言う直人に、弘が仕方ないなあ、と言うようなため息をついた。




