13 完全など世にはない
「でもさ、唐国ちゃん、学部・学科が問題なら卒業したらいいわけ?」
「いや、それだってわたし肯定してないですし、それだけに限らないんですけど……」
げんなり、と弘の顔に書いてあるのが悠輔には見えた。
「恭弥、大人しく言うこと聞いとけよ。学部・学科は履歴書書く以上ついて回るから、事実上一生ついて回るもんだろ」
見かねて、そう助け舟を出すと、恭弥は、あー、と納得の声らしきものをあげた。
もう少し考えてほしいものである。
「ありがとうございます。そういうことですし、それ以外にもありますが、これについては口が裂けても言いません」
「じゃあ何、一生気を付けろっていうの? こっちには霊感なんてないのに」
深雪が唇を尖らせて言った。
弘の顔に浮かんだ、げんなりの文字が、よく文字色を虹色にされがちなポップな字体と思えるほど強烈になる。
これは、ああ言えばこう言う、と思われてても仕方がない。
「だから、自分から首を突っ込むなとだけ言ってます。言っときますけど、わたしは別に暗に仕事増やすなっつってんじゃないんですよ。むしろ、基本収支でいえば赤字寄りですから、増やされるなら、儲けとしては、それはそれなんですよ」
聞いてて、なんかこう、世知辛い。
とても、世知辛い。身につまされる。
「避けられる命の危機ぐらい自分で避けろと言ってるんです。君子危うきに近寄らず。それぐらい大学に入る程度の頭があれば、ご存知でしょう。その時に運良くわたし達のような者がいるとは限らないわけですし」
きっぱりと弘はそう言った。
悠輔としては納得しかないし、反論をする余地もない。
「そう言われりゃそうだけど……そっちの二人には言わねえの?」
恭弥の言葉に弘は盛大なため息をついた。
「それこそ言うに及ばずなんですよね。あなた方二人がいなければ、藤代さんも島田さんもここには来なかったわけですし、あなた方のようなクリティカルな属性も持っていないので」
これは流石に二人とも旗色が悪いと思ったらしく、気不味そうにしている。
「ああ、そうだ」
やや不機嫌が含まれた声を弘が出す。
「勿論、今回の件を吹き込んだという先輩ですが……安全性という点をクリアするなら、縁切るのが一番手っ取り早いでしょうねえ」
どうやら、弘は恭弥を詰めた結果、あの先輩達の内、誰かから吹き込まれたということを聞き出したらしい。
しかし、まあ簡単に言ってくれるものである。
「まあ、交友関係とリスクを天秤に掛けた上で、己のリスク管理方針に則っていいようにしてください。そこまでわたしは面倒は見ません」
「あ、そこ絶対ではないんですね……」
都子がそう言うと、弘は軽く肩を竦めてみせた。
「だって、どっちにしろ煩わしいには変わりありませんし、それによって不利益を被るのも確か。であれば、部外者のわたしが正解を出せるものではない。簡単なYES/NOの二項対立でわたしが結論を出せるものではない以上、ご自身の中でのリスクの許容度他諸々を天秤にかけてもらうのが一番です」
――完全な正解も、完全な安全も、この世に存在しないのですから。
その言葉には何故だか、いやに実感が乗っていた。




