表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怪異から論理の糸を縒る  作者: 板久咲絢芽
3-1 肝試しと大掃除 side A
55/209

6 高山の末、短山の末


一階の西側階段を登り、廃病院の三階東側。


先行します、という宣言と同時に、ウエストポーチからミニタイプの強力な懐中電灯を取り出した(ひろ)は、二段飛ばしの(いきお)いで階段を登って行ってしまった。


なんとか織歌(おりか)都子(みやこ)悠輔(ゆうすけ)が三階まで辿(たど)り着いた時点で、(ひろ)の懐中電灯の光がすごい勢いで曲がって壁側に飛び込んでいくのが見えた。

たぶん、東側の端(あた)りで器用にスニーカーの足裏を(すべ)らせ、方向転換とブレーキを同時に(おこな)って、(いきお)いを殺し切らずにそのまま飛び込んだのだろう。


(ひろ)の言いつけの通り織歌(おりか)から離れぬよう、織歌(おりか)と並走する悠輔(ゆうすけ)都子(みやこ)は困惑の視線を()わす。


こうして走ってみてわかったが、(ひろ)は足が速い。めちゃくちゃ速い。

そもそもとして、きっと運動能力全般が高い。そして、そうでもなければ、まず二階から五点接地法なんかしない。

一方、織歌(おりか)はその雰囲気に(たが)わず、平均よりかは……うん、遅い。こうして(にご)さざるを得ない程度には。


そうして織歌(おりか)の後頭部を見つめながら(ゆる)やかに走っていると、次の瞬間、悠輔(ゆうすけ)の鼻先で獣の(にお)いがして、それから視界の(すみ)都子(みやこ)の表情が引きつった。

それを受けてか、織歌(おりか)は突然速度を(ゆる)めて立ち止まる。


「さ、賢木(さかき)さん?」

「私より前に出ないでおいてください。島田(しまだ)さんは聞こえたでしょう? (ひろ)ちゃんからの合図です」


悠然(ゆうぜん)泰然自若(たいぜんじじゃく)という表現が合うような足取りで数歩、織歌(おりか)は前に出て、大きく深呼吸をした。


「……あれさくなだりの(あらしおのしおの)たぎつ(やしおじの)はやきせ(しおのやおあい)


ぽつりと、織歌(おりか)(つぶや)いた言葉が奇妙に響く。

次の瞬間、飛び出してきた(ひろ)が飛び込んだ時のように方向転換して、こちらにまっすぐに()けて来る。

悠輔(ゆうすけ)はここまで来ると、興味の方が恐怖よりも(まさ)っていた。

一方、都子(みやこ)については、ひっと息を飲む声が悠輔(ゆうすけ)の耳に届いた。


織歌(おりか)!」


近くまで来た(ひろ)が走る勢いそのままに織歌(おりか)に呼びかけ、途中で突然別の部屋に飛び込んだ。

それを見て、なるほど、それで階段を飛び降りたのか、というのが頭の片隅(かたすみ)(よぎ)る。


「……うつしきつみ(あもるつみ)というつみのあらざれば、あれみましをもちいでん(かかのまん)


奇妙に響く理由が、織歌(おりか)の柔らかく温かな声とは別の、固く冷たい声が重なっているからだ、と悠輔(ゆうすけ)が気付いた瞬間、また空気が動くのを感じた。

しかし、(ひろ)の時とはまるっきり違っていて、獣の(にお)いはせず、少しひんやりとした、清涼(せいりょう)と呼ぶに相応(ふさわ)しい空気が織歌(おりか)の方へと――


「うわ」

「きゃ」


()()()()()

都子(みやこ)が少しよろめく程に強く吹き抜けた風の中で、悠輔(ゆうすけ)はほんの一瞬だけ織歌(おりか)の背に人影を見た。

病院内の夜闇よりも黒々(くろぐろ)としたその身長よりも長い髪を、清涼な風に広げる、織歌(おりか)自身よりも華奢(きゃしゃ)に見える人影。

白い着物に緋袴(ひばかま)という巫女(みこ)を思わせる出で立ちの上に、白く()けるほどに薄く、腰の中程までの(たけ)の短い、右の肩に赤い紐の付いた上着を羽織(はお)っている。


――薄味だな。


一瞬遅れて、先程まで、織歌(おりか)の声に重なって聞こえていた、今まで使う機会のなかった玲瓏(れいろう)という言葉の似合う声が(あき)れたようにそう言ったのが、悠輔(ゆうすけ)の耳に届いた。


(さいわ)い、好奇心が(まさ)っているからなのか、恐怖は感じなかった。


短山ひきやま

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ