2 前途、遼遠……?
とん、とん、という小さな足音を立てて、ひょい、と踊り場から懐中電灯と共に顔を出したのはセミロングの少しクセのある髪の少女だった。
「弘ちゃん、どうしました?」
「招かれざる客です」
「あら~」
どこかふわふわと可愛らしい見かけに違わず、少しのんびりとした印象を抱かせる声で言って、ぱたぱたと小走りに階段を駆け下りる。
服装は廃墟だからか、弘と同様にボトムはスキニージーンズにウエストポーチ。
だが、無造作に丸首Tシャツにパーカーを羽織っている弘と違って、ボートネックのTシャツに薄手のカーディガンを羽織り、一番上のボタンだけ留めている。
「お顔、真っ青ですけど、大丈夫ですか?」
毒気を抜かれる、とはこういう事なのだろうか。
なんというか、たぶん弘よりも、この子の方がだいぶ育ちが良くて、だいぶこう、可愛らしいというか、小動物感さえあるのに、この状況下で余りにも平然とし過ぎていて、少しも慄く様子がないというのは、まるでこれが当たり前のような、変な錯覚を起こしそうになる。
「えっ、あ、はい」
「だ、大丈夫です」
そのやりとりを少しばかり胡乱の乗った目で見ていた弘が、はあ、とため息をついて、彼女の肩をつついた。
「織歌、いつもながら、マイペース過ぎですよ」
「あ、はい、すみません。私、賢木織歌と申します」
そう言って、ぺこりと織歌は丁寧にお辞儀する。
「あ、藤代悠輔、です」
「島田都子、です」
警戒心というものが馬鹿らしくなるような印象を抱いたのは悠輔だけではないらしく、都子も弘の時よりは警戒が薄い。
「さっき、一応わたしから離れないように言いましたけど」
弘がきょろきょろと辺りを見回しながら口を開く。
「織歌から離れない方を第一にしてください。物理的にはわたしの方が強いですけど」
――霊的には織歌ほどの最終兵器はそうそうありませんから。
二階から五点接地法を使って飛び降りてきた自称霊能力者の口から、なんかとんでもない言葉を聞いた気がした。
「なんて?」
「織歌ほどの最終兵器はそうそうありません」
同じことを繰り返した弘の横で、織歌が若干どやっと得意げな顔をしている。
「さっき、わたしが飛び降りた時、おとりしてたって言いましたけど、わたしの役目、誰かを逃がすためじゃなくて、釣り餌ですから」
「はい、お蔭でさっきのは、ぺろりといっちゃいました!」
織歌のオノマトペがおかしい気がするが、なんかだんだんツッコんだら負けな気がしてきた。
ちらりと都子を見ると、都子も悠輔と似たような感情を乗せた視線を返してきた。
――霊能力者というのは信じてもいいけど、この二人、どうにも不安だ。




