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怪異から論理の糸を縒る  作者: 板久咲絢芽
1-1 逆さまの幽霊 side A
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4 疑問の提示

ロビンと織歌(おりか)のスリッパが立てる、ぱすぱすという少し気の抜ける足音と、真由(まゆ)自身の上履(うわば)きが(かす)かに立てるきゅっというゴムの()れる足音がイヤに響く気がする。

まあ、真由(まゆ)が駆け下りてくる時点で、一人の生徒にも会わなかったのだ。今残っている生徒は、この二人に連行されている真由(まゆ)だけに違いない。


「西側階段の四階と三階の間の踊り場。夕暮れ時にその踊り場の窓の外を(なが)めてはいけない」


二階を通り過ぎたところで、突然ロビンが口を開いた。


「昔、この学校で飛び降り自殺した生徒の幽霊が出るからだ。その生徒は頭から地面へ落ちたので、窓の外に現れるその幽霊は逆さまの姿をしている……そういうウワサだよね?」

「は、はい」


ロビンが真由(まゆ)の方を振り向く。

西日の()し込む窓を背に、逆光の中、眼鏡の奥の青い目がいやにはっきりと真由(まゆ)の目につく。


「おかしいとは思わない?」

「え」

「どうして四階だけなんだ? どうして明確な時間が指定されていない? その理由、君は聞いたことがある?」


少なくとも真由(まゆ)はそんな話は聞いたことはなかった。

ロビンは真由(まゆ)(ほう)けた表情からそれを察したらしく、進行方向に顔を向けて口を開く。


「階指定はまだいいとして、こういう怪談の(たぐい)は明確に時間が指定されがちだ」

「午後四時四十四分の合わせ鏡とか、階段の鏡とかよくある怪談ですよね」


織歌(おりか)のほんわりしたやわらかい声音に、場違いさを感じながらも、真由(まゆ)は安心する。


「そう、今回だって午後四時にってなっておかしくない。センセイだって、そう考える」

「そうですね、先生なら絶対そう言いますね」


でも、実際にはそうなってないのだ。

三階に辿(たど)り着いて、真由(まゆ)は見上げる勇気が出ずに視線を落とす。


「この齟齬(そご)、マユはどうして生まれたと思う?」

「ひゃ」


いきなり話題を振られて、でも(すで)に問題の踊り場に向かって階段を上っているロビンを見上げることはできない。そっと、織歌(おりか)が背中をさすってくれる。


「えっと……噂に付け足される前に、一度、噂がされなくなったから?」

「そうだね、それは正解の一つ」


ぱすぱすという呑気(のんき)なスリッパを()いた足音のリズムが、階段を上り、それから、平坦な場所を歩くそれに変わる。


「さっき、オリカがいわゆる霊能力者って言ったけど、その言い方だと誤解があるんだよね」

「そうですね、いわゆる霊能力者全般に通じることですけど」


織歌(おりか)がそう言いながら、ぽん、と背を叩いてくる。

視線を少し上げれば、織歌(おりか)は目で、ロビンの方を見るように(うなが)してきた。

恐る恐る見上げれば、窓の前に立ったロビンの背が見える。


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