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怪異から論理の糸を縒る  作者: 板久咲絢芽
3-1 肝試しと大掃除 side A
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序 空から人影

最遅延投稿だから、ストックは、あるんだよ

なんて事はない。

なんて事はなかったはずなのだ。

だって、皆がやってる事。肝試しなんて。


――そりゃあ、若干法に触れる時もあるけれど。


かつん、と爪先(つまさき)に当たった石だか、剥落(はくらく)した壁の一部だかが床を()ねて(ころ)げる。

それだけで、心臓は瞬間的に大きく()ねて、暗闇を丸く切り抜く懐中電灯が揺らぎながらその様を照らし、そしてほっとして強張(こわば)った身体(からだ)から少しばかり力が抜ける。


それを繰り返してじりじりと進みながら、都子(みやこ)悠輔(ゆうすけ)はビビりコンビとサークルメンバーに(はや)し立てられた言葉に()じない様を(さら)していた。

とはいえ、(さら)している相手は現状、この廃病院に満ち満ちた(ほこり)と夜闇――と、もしもいたならば幽霊――ばかりである。


「どこ行ったんだよ、あいつら……」


ぼそりと悠輔(ゆうすけ)(つぶや)けば、都子(みやこ)の方がびくりと震える。


「ああ、島田(しまだ)さん、ごめん」

「う、ううん。(しゃべ)っててくれた方が、いい」


少しばかり垢抜(あかぬ)けきらず、同じサークル内でも無口な方の島田(しまだ)都子(みやこ)はなんとなく悠輔(ゆうすけ)的には放っておけないという印象があった。

なんで、と問われても、自分でもよくわからない。恋情かと言われても、そこまでではない。たぶん、きっと。

だから下心というものは一切、全くと言っていいほど、ない。たぶん。


そして、そんな相手に(しゃべ)ってた方が良い、と言われても、悠輔(ゆうすけ)はどちらかというと無愛想なタイプの男子大学生だ。

話のネタはあまりない。


「うーん、話のネタが、なあ」

「……そう、だよね。ごめんね」


そんなビビりの二人がこうして廃病院なんかを歩いているのは、所属するサークルメンバーのせいである。


恭弥(きょうや)勾田(まがた)さんも、マジでどこ行ったんだよ」

「……深雪(みゆき)達、先に入るって言ってたから、やっぱり、私達を(おど)かそうとしてるのかな」


肝試ししよう、と言い出した(やから)に乗っかって、いい廃墟知ってる、と言い出した(やから)

そして、じゃあ一年の怖いもの知らずコンビとビビりコンビで行って来いよ、とかいう無茶ぶり。

そして怖いもの知らずコンビは当初の予定十分前に、先に入る、後から予定通りに来い、という(むね)の連絡を寄越(よこ)して音沙汰(おとさた)ない。


「かもしれねえ……あいつら、マジでどこ行ったんだ」


今時の大学生のノリ、わからん、などと入って一年目の悠輔(ゆうすけ)は思う。四年目に(いた)っても理解できる気はない。

友達に誘われて入ったテニスサークルがこんな俗っぽいものだとは思わなかった。全国の真面目(まじめ)なテニスサークルに謝れ。


なお、今回の廃墟侵入系肝試しが完全に法に触れるやつ、という事も悠輔(ゆうすけ)は薄々知ってる。

なんなら悠輔(ゆうすけ)は法学部だ。

とはいえ、本格的に弁護士だのなんだのを目指してるわけではなく、単に法律に興味があって、将来ちょっとばかり物事がイージーになるのでは、程度のライトな考えで入ったぐらいである。


一方の都子(みやこ)は文学部で英文を(かじ)ろうとしている、ぐらいしか悠輔(ゆうすけ)は知らない。

(ほこり)の積もった受付カウンターの脇を通って、それから地面を照らしてみる。

怖いもの知らずコンビこと、恭弥(きょうや)深雪(みゆき)の足跡はしっかりと残っていた。


「こっち、か……」

「みたい、だね」


二人の足跡はその(へん)をうろうろした後、階段の方へ向かっていた。

そこへ足を踏み入れようとした瞬間、それは正に虫の知らせ以外に説明がつかないのだが、悠輔(ゆうすけ)はその場で一瞬立ち止まり、それにつられて都子(みやこ)も立ち止まった。

次の瞬間、(おり)しも満月の光が割れた窓から差し込む、時と場合によっては美しい物語の一幕にも見えかねないその階段の一階部分に、上からそれなりに大きい何かが()()()()()


「きゃああああああ!」

「…………」


都子(みやこ)がそれまで(おさ)えていた全てを解放したかの勢いで叫び、そして悠輔(ゆうすけ)の腕に爪を立ててしがみついた。

一方、悠輔(ゆうすけ)は何もかも(すく)み上がってしまって、少しも声が出ないまま、都子(みやこ)を巻き込んで、その場にへたり込んでしまった。


「あや?」


華麗に五点接地法をきめて立ち上がった人影が、悠輔(ゆうすけ)の目の前で、なんとも間抜(まぬ)けな声を上げた。


五点接地法:着地時の衝撃を和らげるための着地法。ヘタに真似しちゃダメなやつ。

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