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怪異から論理の糸を縒る  作者: 板久咲絢芽
2-2 山と神隠し side B
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13 全てよしではないかもしれない


「ただいまもどりましたー」

「ただいま」


口々に帰宅を告げれば、奥から飛び出してきたのは狼狽(うろた)えて半べそをかいた織歌(おりか)だった。


「あああ、お帰りなさいー……ひ、(ひろ)ちゃーん」


それだけで、(ひろ)(よもぎ)からの伝言を思い出して、そして察した。

なので、靴をとっとと脱ぎ捨てると、そのまま織歌(おりか)が飛び出してきたリビングに飛び込んで、あわあわしてる紀美(きみ)が手にした受話器をひったくる。


『だからな、葛城(かつらぎ)く……』

()()()?」


そう言えば、向こう側の刺々(とげとげ)しい雰囲気がスライムのように(やわ)くなる。


『おお、(ひろ)! 無事だ……』

()()()()()()()()()()()()()()() 自分の事を棚に上げてまったく」

「うわあ……理不尽……いっ!」


ぼそりと背後で紀美(きみ)(つぶや)いたので、(ひろ)は無言でその足を踏んづけておいた。

まず、誰のせいだ、という話である。


『いや、だって、お前、神隠しのって』

「わたしが志願したの! それに一人だけってわけじゃなかったし」

『うん? さっき電話に出たのは最近加わったとかいう女の子だったから、あのひょろい坊主と?』

「ひょろいけど紳士だよ! 父さんやお兄ちゃんよりもずっとデリカシーはあるよ!」

『な……』


何度かその事実を叩きつけているはずなのだが、父も兄も毎度のようにショックを受け続けている。

(ひろ)としては、いい加減に納得して慣れてほしい。それが父と兄のデリカシーの第一歩だとも思う。


「というわけで、これ以上何かある? わたしはこうして五体満足だよ?」

『ぐう……』

「……心配なのはわかるし、どうやっても危険な橋を渡ることがあるのは、父さんもお兄ちゃんもわかってるからだっていうのは知ってる。でも、わたしはわたしの意思でここにいるし、だからこそ()()()()()()()()の。お兄ちゃんにも言っといてね」


しかし、向こう側からは沈黙しか帰ってこない。


「もしもし? 父さん? 聞こえてる?」

『……そうか、(ひろ)、お前あのひょろい坊主にけそ』

「そういうとこがデリカシーないっつってんだよ!」


思わず、すごい剣幕で怒鳴(どな)ってしまった。

後ろからの紀美(きみ)の視線がめちゃくちゃ恐る恐るしている。


しかし、懸想(けそう)なんて我が父ながら固っ苦しい言葉遣いだ。

いや、そりゃあ、(ひろ)だって女の子だもの。

初めてロビンを見た時には、精神的に弱ってたのもあって、やたら目つきが悪い王子様っぽい人ぐらいには思った。

当時中学生の乙女の(さか)りにそれぐらい思って悪いか、チクショウ。

まあ、当時だ、当時。


そんな風に内心開き直っていると、怒鳴(どな)り声に驚いていた受話器の向こうから、猫なで声が聞こえてきた。


『……う、うん、(ひろ)、わかったから、お父さん、わかったから、ね、ごめんね』

「……わかればよろしい」


もうこんな話題は早々に切り上げるに限る。


「で、わたしが無事ってわかって、これ以上何かある? ないよね?」

『……はい』

「それじゃ、また連絡するから、お兄ちゃんにも言っといて」

『うん、気をつけるんだぞ』

「わかってますー。じゃあね」


またな、と父親の声を最後に電話が切れる。

ふう、と一息ついて振り向けば、涙目で足の爪先(つまさき)(かか)えた師と目が合った。


(ひろ)、ひどくない……? おもっきり踏んだ……」

「そもそもが身から出た(さび)ですよ、先生。ノータイム即決したのは誰ですか」

「ぐぐ……反論できない……」

「というか、反論されたらボクらとしては困るよ、センセイ」


(あき)れた顔で入ってきたロビンが追討(おいう)ちをかけている。


「それは、そのう……ごめーんね?」

「……」

「……」


やたらと軽い謝罪に(ひろ)とロビンは視線を交わしてから、互いに一つ(うなず)く。

次の瞬間、ロビンが紀美(きみ)襟首(えりくび)を、がっと(つか)んだ。


「ぐえっ」

「……ちょっとセンセイには()りてもらわないと」

「そうですね、まーた安請(やすう)け合いされるのも困りものですから」


ロビンに引き()げられるように立たされて、その上ぐいぐいと二階に連行されていく後を(ひろ)が追っていくと、玄関口でまだ織歌(おりか)があわあわしていた。


「いいんですかー……?」

「いいんですよ、ちょっとお(きゅう)()えるべきなんで。というわけで、織歌(おりか)は今日はもう帰っても大丈夫。先生の見張り、ありがとうございました」


現在、唯一の通いの弟子である織歌(おりか)にそう言うと、それでも織歌(おりか)は少し心配そうに二階を(のぞ)き込んで、それからなんとも言えない苦笑を浮かべた。


「まあ、そういうことなら……仕方ないですね」

「ええ、そういうことです」


それならお(いとま)しますねー、と織歌(おりか)(かろ)やかにスカートの(すそ)(ひるがえ)して、リビングから(かばん)をすぐに取ってきた。

そして靴を()くと、ぴっと綺麗に背筋を伸ばして微笑(ほほえ)む。


「それでは(ひろ)ちゃん、ご機嫌よう」

「ええ、また明日」


織歌(おりか)が玄関を出るのを片手をひらひらと振りながら見送って、最後に鍵をかける。


「さあて」


それから、(ひろ)(すで)に始まっているだろうロビンの説教に合流するために、二階へと上がって行ったのだった。


なお、神隠しというネタ自体には多少の多面性があるので今後再度使う可能性も無きにしもあらず

次の話は10/1から予約投稿済みです。

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