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怪異から論理の糸を縒る  作者: 板久咲絢芽
2-2 山と神隠し side B
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8 八尋の白智鳥

「でも、わたし、どっかで対峙(たいじ)しなきゃいけないんじゃないかなーと思ってたんですよね」


実際のところ、あれが対峙(たいじ)と言えるかというと、微妙なところだが。

ロビンが片眉を上げる。


「その心は」

「名前です。タケルと山なんて、()()()()よ。彼岸に行くという方向で」


そう言えば、ロビンもああ、と納得の声を上げた。


「ヤマトタケルか」

「そうです。(たける)くんの字、『日本書紀』での表記と一致しますし、名字の東は日本武(やまとたける)の祖、天照大神(あまてらすおおかみ)の権能たる日の昇る方角を表す字です」

「うーん、影響、皆無とは言えないなあ……その上でだけど、アレ、わざと?」


ロビンの指すアレがわからず、(ひろ)は首を(かし)げる。


「確かに先に言ったのはボクだけど、それを『楚辞(そじ)』の山鬼(さんき)って確定させたのはヒロだろ?」


楚辞(そじ)』は古代中国の()の地域の辞賦(じふ)と呼ばれる形式の詩――特にいわゆる巫覡(ふげき)による神を(まつ)るための詩と考えられるもの――を複数集めたものである。

その内、山鬼(さんき)は意中の男を待つ山の女神の恋情を詩ったものだ。


「いえ、アレは反射です」


そう言うと、目に見えてロビンががっくりと脱力したのがわかった。


「そう……そうね、ヒロがそこまで考えるって考えたボクがバカだった」

失敬(しっけい)な! ……でも何故?」


そういう所だぞ、と思われている気配がひしひしとする。


「ヤマトタケルの伝説をなぞってみな」

「えーと、斎宮(さいぐう)倭比売(やまとひめ)からもらった衣装で女装して熊襲(くまそ)平定をして、その後もいろいろ平定してから東征(とうせい)を命じられて、やっぱり倭比売(やまとひめ)から困った時に開けろって袋と草薙(くさなぎの)(つるぎ)をもらって、相模国(さがみのくに)(あた)りで火攻めにあって」


袋の中の火打ち石と草薙(くさなぎの)(つるぎ)を使って自身の周りの可燃物である草を刈り、先んじてこちら側から草を燃やすことで、火攻めを失敗させたのである。


「その後、上総(かずさ)に渡る時に海が大荒れであわや沈没というところを、(おと)(たちばな)比売(ひめ)の犠牲で助かって……で、またいろいろと平定してから草薙(くさなぎの)(つるぎ)を手放して、伊吹(いぶき)(やま)でのうっかり言挙(ことあ)げが原因で……」

「うっかり言挙(ことあ)げって」


(たま)らずにツッコんだロビンに、(ひろ)は唇を(とが)らせた。


「うっかりじゃないですか。神と神使(しんし)見誤(みあやま)って(たた)られて死んだというのが端的な結論なんですから」


伊吹山(いぶきやま)に入った日本武(やまとたける)は『古事記』では(いのしし)、『日本書紀』では大蛇と対峙(たいじ)するが、これは神ではなく使いであると判断し、この山の神を殺すまでは殺さないと言挙(ことあ)げ――霊的な(ちか)いを行ってしまう。

これに、当の神がなんだとコノヤロウ、と言わんばかりに悪天候と病を寄越(よこ)し、日本武(やまとたける)は死ぬのだ。


「……そう言われると否定できな…………いや、これボクが言うことじゃなくない?」


本来ヒロがツッコむところじゃないの、これ。

ロビンがげんなりした顔で(つぶや)く。

端的に表した言葉とは時として残酷であるし、ヘタなコメディより笑えるものである。


「それは脇に置いといて。で、どういうことです?」

「…………」

「なんで気付かないかなあ、みたいな生温(なまぬる)い目やめてください」


そう言えば、最早(もはや)何度目ともわからぬため息をロビンはつく。


「大ヒント、柳田(やなぎだ)國男(くにお)

「……ああ、なるほど、(いも)の力というやつですか?」


古くより、男女という二元論においては、女性の方が霊的能力に(まさ)るとされ、それにより血縁や相互感情において(ちか)しい男性に霊的守護を(さず)けるものと考えられた。

というのが、柳田(やなぎだ)國男(くにお)(とな)えた(いも)の力だ。

なお、この場合の(いも)(いもうと)でも、古語的に妻を指すのでもなく、それらも内包した(ちか)しい女性を指す。


八尋やひろ白智鳥しろちどり日本武ヤマトタケルの葬儀直後に現れた鳥。日本武ヤマトタケルの魂の化身と捉えられ、妻や子らはこの鳥を嘆きながら追いかけたという。

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