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怪異から論理の糸を縒る  作者: 板久咲絢芽
2-2 山と神隠し side B
36/209

1 旧里に帰れば

読解編。

ばきん、とちょっとむしゃくしゃした気分に任せたまま邪魔な枝を折りとって、()()()()()()()()()()()()()を追い、(ひろ)は太陽の照りつける駐車場に出た。

救急車のサイレンが遠くなっていくのは、恐らく(たける)が無事に帰れたのだろう。


未舗装(みほそう)の地面に小さな(くい)を打って細いロープで区切っただけの簡易な駐車場には、先程までの土砂降(どしゃぶ)りが嘘のように、燦々(さんさん)と日光が降り(そそ)いでいる。

というか、地面の湿り具合からして、ここには雨が降っていなかったと考えるべき状況だ。


ここまで来て、(ひろ)が後ろを振り向いたところで意味はないし、この照りつけ具合なら、雲量は十二分に晴れの程度、雨雲は見当たらないはずだ。

まあ、(ひろ)としては、異域(いいき)異界(いかい)にはよくあることだとしか思えない。


しかし、()()れから日向(ひなた)に出れば、突然の光量の多さに流石(さすが)(ひろ)の目でも順応(じゅんのう)に数瞬を(よう)した。

海賊の眼帯みたいにしておくべきだったか、とちょっと思う。


(ひろ)ちゃん、おかえり!」

「ああ、(よもぎ)さん、ありがとうございます」


そんなまだ少しちかちかする視界の中、(ひろ)に近寄ってきた女性は、今回の一件を(ひろ)とロビンの師に持ち込み、そしてさっきまで一斗缶(いっとかん)を全力で叩き続けていた高里(たかさと)(よもぎ)だ。


「ロビンくんは……」

「ああ、大丈夫です。(じき)()()()()()()()()で、すぐ近くまで来ますから」


(ひろ)(たける)少年を連れて通ったルートはあくまで、途中までは(たける)に配慮したとはいえ、最終的には人が通れる限界を攻めた最短ルートだった。これは(ひろ)自身の山という場所への慣れと、身体能力、それ以外の能力にその相性など、諸々(もろもろ)を加味した上での最短ルートだ。

しかし、(ひろ)の力だけを利用して戻ってくるロビンには、そもそも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ちょっとしたジェットコースター感覚は味わうだろうが。


「それよりも、鳴らし続けてくれたんですよね。腕大丈夫です? どれぐらいでした?」

「んー、二日ってとこやね。一斗缶(いっとかん)の方は大丈夫、うちだけが鳴らし続けてたわけじゃなし」


神隠しには太鼓や(かね)を鳴らして、神隠しにあった者の名を呼び、隠したモノに返すよう(せま)る。

各地に普遍的に伝わる()()の一端の再現を、二人は保険として(よもぎ)に依頼していたのである。


「そういえば、一時間ぐらい前にあのヘンタイから、(ひろ)ちゃんに伝言があったんよ」

「先生から?」


変態と言われて、即座にそれが自分の師の事を指すのだと気付けてしまうのは、弟子として普通はどうかとも思うが、(よもぎ)がそんな風に呼ぶのは、あの鬼才だけなのだ。

ちなみに、他には狂人とか、あんぽんたんとか、そんなとんでもない呼び方を、()()()(よもぎ)はしているし、その真意を知っているので(ひろ)もロビンも、本人ですら止める事はない。


まあ、あの師の場合、なんと言われようとそれが自分の事を指すと気付けば、最初こそ文句を言えど、受け入れそうだ。

それが悩みのタネではあるのだが。


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