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怪異から論理の糸を縒る  作者: 板久咲絢芽
1-1 逆さまの幽霊 side A
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2 逆さまの幽霊

――西側階段の四階と三階の間の踊り場。夕暮れ時にその踊り場の窓の外を(なが)めてはいけない。

昔、この学校で飛び降り自殺した生徒の幽霊が出るからだ。

その生徒は頭から地面へ落ちたので、窓の外に現れるその幽霊は逆さまの姿をしている。


それが、真由(まゆ)小耳(こみみ)(はさ)み、織歌(おりか)が口にした「逆さまの幽霊の話」だ。


「……知って、ます。それに、さっき、その」

「靴の左右を間違えてでも走って来たのは、それを見たから、ですね」


青褪(あおざ)めた真由(まゆ)の様子を見て、察したらしい織歌(おりか)が先回りして、なるほど、と(こぼ)す。


「えっと、その、単に見たんじゃなくて、その、なんだろうってよくよく見ちゃって、目が……」

「合ったんです?」


こくり、と(うなず)けば、織歌(おりか)はさらになるほどと(こぼ)した。


「本当になるほどですねえ。そしたら、先日、この学校を出た、すぐそこで交通事故があった事は?」

「知ってます、けど」


つい一週間ほど前のことだ。

校門を飛び出した生徒が、車と接触する事故を起こした。

(さいわ)いにも車は走り出してすぐだったため、事故にあった生徒は大した距離は()ね飛ばされず、そのまま尻もちをついた時に地面についた手のせいで、運悪く手首にヒビが入った程度で済んだという。

その翌日に緊急朝礼があったので、イヤでも覚えている。


「ロビンさんがいなければ、たぶん貴女(あなた)もおんなじ風になってた可能性が高かったですね」


織歌(おりか)のその言葉に、じわりとまた嫌な汗が(にじ)む。

しかし、織歌(おりか)はにっこりと笑ってこう言った。


「ああ、()()()()。今日で、本当によかった」

「え?」

「だって、貴女(あなた)を助けることができましたし」


にこにこと織歌(おりか)は笑ってそう言う。そこには、なんのイヤミもなく、純粋な善意しかない。


「オリカ」

「あ、ロビンさん、お帰りなさい」


校舎の裏手に回って行った方とは反対側から、金髪の青年、ロビンが戻ってくる。どうやら校舎の(まわ)りをぐるりと一周してきたらしい。


「どうでした?」

「……こっちからはあんまり」


驚いた様子もなく、戻ってきたロビンは小さく肩を(すく)める。


「そもそも、話が条件付きだから、そんなことだろうとは思ったけど……」

「あ、そうだ、ロビンさん、ロビンさん、名乗ってませんよ、ロビンさん」


織歌(おりか)の独特のテンポに、ロビンはその目つきの悪い端正(たんせい)な顔をしかめるも、ため息をついて口を(ひら)いた。


「……ロビン。ロビン・イングラム」

「あ、(たちばな)真由(まゆ)です」

「マユね。で、オリカ、どこまで聞いた?」

「目が合ったそうです」


にこにこと織歌(おりか)の報告を聞いて、ロビンが片眉を上げた。

そのままロビンの眼鏡の奥の凶眼(きょうがん)見据(みす)えられて、真由(まゆ)は思わず肩を震わせる。


「目が?」


何も言えずにただ首を縦に振ると、ロビンはため息をついて後頭部を()いた。


「じゃあ、当初の通りで行こうか、オリカ。(さいわ)い案内人に適役なヒトがいるわけだし」

「あー、そうなります? まあ、ロビンさんがそう言うなら、私がいれば何とかなるってことですよね」

「オリカがいて、何ともならない方が少ないよ」


ぽん、と織歌(おりか)に両の肩に手を乗せられて、真由(まゆ)はこれ以上の何かに巻き込まれる予感を察知した。


「……あの、その、お二人は一体」


ロビンがまた顔をしかめて、青い目を織歌(おりか)に向ける。


「オリカ、説明してないの?」

「ええと、その前にロビンさんが戻ってらっしゃったので」


織歌(おりか)の困惑顔に、ため息をついたロビンが口を開く。


「例のウワサ、昔にもあったって知ってる?」

「はい?」

「昔にも似たようなウワサがあった。けど、いつの頃からか誰も語らなくなった。そして、最近また流れ出した」


端的にロビンが言う。


「まあ、この事態を俯瞰(ふかん)できる人間がそれに気付いて、僕たちのセンセイにコンタクトをとった」


ふっとため息をついて、ロビンは眼鏡を押し上げた。


「ここまで言えばわかるでしょ。というか、察してはいるでしょ、最初から」

「端的に言えばですけど、霊能力者、みたいな?」


織歌(おりか)の、のほほんとした声でそう言われて、真由は薄ぼんやりと自分の中の信頼と不安の天秤が揺らぐのを感じた。


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