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怪異から論理の糸を縒る  作者: 板久咲絢芽
2-1 山と神隠し side A
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3 柘榴とご飯


「では、まず重要なところからいきますか」


ここまでの流れの妥当性(だとうせい)のまま、(ひろ)が場を取り仕切る。

(ひろ)が自身のリュックから取り出して地面に広げたシートに、三人とも思い思いに腰を落ち着けた状態である。


(たける)くん、君はご両親とはぐれてから、自分の持ってる飲み物や食料以外、つまり、その(へん)の木の実とか()き水は口にしていませんね?」

「してないよ。だって、毒があるかもしれないし、水だって……ええと、しゃ、しゃ……()ないと危ないんだろ?」


なんかもっと難しい言葉で父親が言ってたはずだが、思い出せずとりあえず自身の理解の範疇(はんちゅう)(たける)はそれを言語化した。

途端に、二人の張り詰めた表情が少し(ゆる)む。そして、ロビンが苦笑しながら言った。


「水のは、煮沸(しゃふつ)ね、煮沸(しゃふつ)


見るからに外国人のロビンにそう訂正されると、(たける)としてはあまり面白くない。

それを見て取ったロビンは、にやりと笑ってこう言った。


「イギリス人のボクに訂正されたくなきゃ、もっと勉強をがんばりなよ」


そのロビンの後頭部をぺちりと(ひろ)がはたく。


「はーい、ロビン、(あお)らない、(あお)らない。とりあえずは、安心しました。まあ、山にお(くわ)しいお父さんでらっしゃったから、その(あた)り、ちゃんとしてるだろうなあとは思ってましたけど」


――それでも、万が一のケースはありますからね。

はー、と安堵のため息と共に(ひろ)は上を向いてそう(こぼ)す。

単に(たける)はお腹が少しもすかなかったし、それほど動き回らなかったから、手持ちの食料も水筒も十二分に余っているというだけなのだが。


「なあ、ひろねーちゃん、それってそんなに重要なの?」

「……」

「ヒロ?」


(たける)のその言葉に、(ひろ)は数瞬ばかり(ほう)けた様子で、先程(さきほど)頭をはたかれたロビンが怪訝(けげん)そうに声をかけて、初めてはっと我に返った。


「は、はい! 重要ですよ!」


謎の意気込みと共に、(ひろ)ははっきりと言い切る。


(たける)くん、君、神話とかって(たしな)んでたりします?」


突然のフリに、(たける)は圧倒されながらも、ふるふると首を横に振った。


「いいですか、(たける)くん。こういう超常の場においては、その場に(すで)にあるものでも、そこにいる誰かに渡されたものでも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」


驚いた様子だったロビンが、ははあ、と納得した顔になっている。

そして、ちらりと(たける)目配めくばせすると、(ひろ)に見えないように、両の手のひらを合わせてみせた。


それを見て、(たける)はロビンが相当に日本慣れしたイギリス人であることを察知した。そして、そのジェスチャーが(ひろ)の気が済むよう付き合ってくれと言っていることも。


「えっと、なんで?」

「神話を(たしな)まない、ということなので、先に慣用句で答えましょう。同じ釜の飯を食った仲、という表現、ありますね?」


それには(たける)は素直に(うなず)いた。


「これは、ご飯を共有するとは、すなわち共同体を(いつ)とする、()()()()()()()()()という考えです」

「いや、そういう概念(がいねん)の理解って、普通、これぐらいの子には難しくない?」


即座にロビンが、完全に(あき)れた顔でそう言ってくれる。

実際、(たける)はよく分かっていない。

ロビンはそのまま手を上げ、指折りながら言う。


「ヨモツヘグイ、ギリシャ神話のコレーの誘拐、あとアイルランドでの妖精伝承に(いく)つか残ってるんだから、その(あた)りから説明しなよ」

「ぐ……神話を(たしな)んでないというので、こちらの方が速いかと思ったのですが」


(ひろ)の様子を(うかが)う視線に、(たける)は首を(かし)げてみせる。

すると、(ひろ)はすぐにその意を察してがっくりと肩を落とした。


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