3 柘榴とご飯
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「では、まず重要なところからいきますか」
ここまでの流れの妥当性のまま、弘が場を取り仕切る。
弘が自身のリュックから取り出して地面に広げたシートに、三人とも思い思いに腰を落ち着けた状態である。
「武くん、君はご両親とはぐれてから、自分の持ってる飲み物や食料以外、つまり、その辺の木の実とか湧き水は口にしていませんね?」
「してないよ。だって、毒があるかもしれないし、水だって……ええと、しゃ、しゃ……煮ないと危ないんだろ?」
なんかもっと難しい言葉で父親が言ってたはずだが、思い出せずとりあえず自身の理解の範疇で武はそれを言語化した。
途端に、二人の張り詰めた表情が少し緩む。そして、ロビンが苦笑しながら言った。
「水のは、煮沸ね、煮沸」
見るからに外国人のロビンにそう訂正されると、武としてはあまり面白くない。
それを見て取ったロビンは、にやりと笑ってこう言った。
「イギリス人のボクに訂正されたくなきゃ、もっと勉強をがんばりなよ」
そのロビンの後頭部をぺちりと弘がはたく。
「はーい、ロビン、煽らない、煽らない。とりあえずは、安心しました。まあ、山にお詳しいお父さんでらっしゃったから、その辺り、ちゃんとしてるだろうなあとは思ってましたけど」
――それでも、万が一のケースはありますからね。
はー、と安堵のため息と共に弘は上を向いてそう零す。
単に武はお腹が少しもすかなかったし、それほど動き回らなかったから、手持ちの食料も水筒も十二分に余っているというだけなのだが。
「なあ、ひろねーちゃん、それってそんなに重要なの?」
「……」
「ヒロ?」
武のその言葉に、弘は数瞬ばかり呆けた様子で、先程頭をはたかれたロビンが怪訝そうに声をかけて、初めてはっと我に返った。
「は、はい! 重要ですよ!」
謎の意気込みと共に、弘ははっきりと言い切る。
「武くん、君、神話とかって嗜んでたりします?」
突然のフリに、武は圧倒されながらも、ふるふると首を横に振った。
「いいですか、武くん。こういう超常の場においては、その場に既にあるものでも、そこにいる誰かに渡されたものでも、絶対に食べたり飲んだりしてはいけません!」
驚いた様子だったロビンが、ははあ、と納得した顔になっている。
そして、ちらりと武に目配せすると、弘に見えないように、両の手のひらを合わせてみせた。
それを見て、武はロビンが相当に日本慣れしたイギリス人であることを察知した。そして、そのジェスチャーが弘の気が済むよう付き合ってくれと言っていることも。
「えっと、なんで?」
「神話を嗜まない、ということなので、先に慣用句で答えましょう。同じ釜の飯を食った仲、という表現、ありますね?」
それには武は素直に頷いた。
「これは、ご飯を共有するとは、すなわち共同体を一とする、同じ世界を共有するという考えです」
「いや、そういう概念の理解って、普通、これぐらいの子には難しくない?」
即座にロビンが、完全に呆れた顔でそう言ってくれる。
実際、武はよく分かっていない。
ロビンはそのまま手を上げ、指折りながら言う。
「ヨモツヘグイ、ギリシャ神話のコレーの誘拐、あとアイルランドでの妖精伝承に幾つか残ってるんだから、その辺りから説明しなよ」
「ぐ……神話を嗜んでないというので、こちらの方が速いかと思ったのですが」
弘の様子を窺う視線に、武は首を傾げてみせる。
すると、弘はすぐにその意を察してがっくりと肩を落とした。




