表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怪異から論理の糸を縒る  作者: 板久咲絢芽
1-2 逆さまの幽霊 side B
21/209

8 真か嘘か、瓢箪から駒か

「んー……でもさ、センセイ、例の先生が『頭から落ちた』って語ってたんだから、そこって確かに推進力にはなったけど、事実なら、そこまで意味はないんじゃ?」


ロビンの眼鏡は伊達(だて)でも、人間(にんげん)嘘発見器(うそはっけんき)伊達(だて)ではない。

ロビンにとって、嘘は聞くにも見るにもノイズでしかない。

そのノイズを例の依頼人側の先生からは感じなかったのだ。

ロビンの指摘に、きょときょとと(まばた)きをした紀美(きみ)は、あっけらかんと言い(はな)つ。


「実際には一瞬だし、四十年ばかり()ってるわけだし、そんなん()()()()でしょ。ロビンの嘘感知能力って、結局本人が嘘と認識してるかどうかに関わってるし」


紀美(きみ)の指摘自体はもっともだ。

ロビンは本人が嘘と自覚していなければ、それを嘘と見抜けない。

嘘と自覚している事が視界を介してわかるから、ロビンは嘘だと見抜くことができる。


「いくら本当にそれを目撃したからって、それがどれだけ衝撃的だからって、いや、衝撃的だからこそ、都合(つごう)のいい記憶の改竄(かいざん)は発生するものだ。まして、今回みたいな明らかに心的外傷(トラウマ)ものなら、心理学で言うところの乖離(かいり)に繋がるし、()()()()()()()()()


そうだろ? と紀美(きみ)は首を(かし)げた。


「人はあくまで現実の(いち)観測者でしかなくて、時として現実は人を(おびや)かす。それから(のが)れるために健忘(けんぼう)に走るのも、記憶の改竄(かいざん)に走るのも、無理を通して道理(どうり)を引っ込ませるのも、正常な動きではある……キミは、それを一番よく知っているじゃないか」

「……そうだね。それはそう」


――人は現実の観測者に他ならない。

現実の()()は誰にも分からない。

結局のところ、感覚器官で(とら)えることができた結果の電気信号によって脳内で再現されたものを現実としているからだ。


――じゃあ、その感覚器官(Interface)壊れ(バグ)ったら?

電気信号からの再翻訳(Decode)(ミス)ったら?

そうした結果を受けて、心が拒絶(Abend)したならば?


ロビンはひっそりと、今日何度目かのため息をつく。

他人(ひと)よりも見え過ぎるロビンとて、常に全てが見えているわけではない。

見ようと思えば見えるものもあるし、望めばそれ以上もできるかもしれないが、そこまでいっては恐らく人間(ひと)に見えていいものではないし、無意識にでも人間(ひと)範疇(はんちゅう)にいたいと思っているはずだから、きっとロビンはそれを見ていないのだ。

それがきっと、祝福の範囲の限りなのだろうとロビンは認識している。


(おご)ってた」

「反省できてえらーい」


ロビンの重くなった心を見透(みす)かしたような、あえての軽すぎる答えは、後ろから頭に丸めた紙を雑に投げ当てられたような(いら)()ちをロビンに覚えさせた。


「……センセイもちょっとは反省すれば?」

「何を? 僕はいつだって自分の最善を尽くしてるから、後悔はしても、反省すべき点はないんだよなあ」


そう紀美(きみ)(うそぶ)いて、いたずらっぽく笑う。


「普通、逆じゃない?」

「んー、その場の最善を尽くすから、あれがあれば、とか、これがあればっていう()()()()()()があるんだよ。たとえば、キミと会うのがもうちょっと早かったら、なんて」


――ばさり

そう、音を立てて、ロビンが手にしていた資料が床に落ちた。

それを拾い上げる事もなく、ただ唖然(あぜん)と思考停止するロビンに、紀美(きみ)は真っ直ぐな視線を投げかけて、そして一度目を閉じた。


「……でも、それは詮無(せんな)い話だろ?」


表情に()して、わざとらしいほどに(ほが)らかな声でそう言うと、紀美(きみ)はにっこりと笑った。


「どうせ、(ひろ)織歌(おりか)も、茶をしばいてるんだろ? で、ロビンはついでに僕を呼ぶように言われてたのに、忘れてたと見た」


怒るのではなく、からからと笑いながら紀美(きみ)は立ち上がると、ロビンが落とした資料をテーブルの上に置いてから、すれ違うように戸の方へ向かう。


「先に行ってるよ、ロビン」

「……」


紀美(きみ)が戸を閉めると同時に、(ようや)くロビンの思考が巡り出す。

――なんで、どうして、そんなこと。


「……はあ」


口元を(おお)って、ため息をついて、壁によりかかってそのまま、ずりずりとへたり込んで、右手で左の肩を掴む。

服越しにそうと知らねばわからぬほどまで薄くなっている、真っ赤に焼けた鉄の火掻(ひか)き棒による古い火傷(やけど)あとに触れる。

とりとめもなく思考が流れるままに、(しば)しそのまま、ロビンは虚空(こくう)を見つめていた。

――そんなこと


ないの(No, it's )になあ(not.)……」


どう流れても、ロビンの思考の帰結はそこだ。

少なくとも、ロビンの世界(real)がこうなってから、初めて見た強い清浄な(きら)めきは、紀美(きみ)だったのだから。

――だから、あれが、遅かったなんて、ロビンは欠片(かけら)も思ってないのに。


説明にある通り現時点(2023/08/21)最遅延投稿なので、見返すと先生がめちゃくちゃシリアスくさいし、とんでもないヒキをしている。

大丈夫です、今後シリアスだけでもないです。


次は9/1〜予約投稿済みです(トータル15万字近く予約投稿してる顔)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ