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怪異から論理の糸を縒る  作者: 板久咲絢芽
1-2 逆さまの幽霊 side B
16/209

3 噂の根源

「ロビンの見立てとしては、残滓(ざんし)は?」


(ねぎら)っておいて、そういう風に好奇心の方が(まさ)って()いてくるところは、ちょっと難だよなあとロビンも思わないではない。

が、三人の中で一番付き合いの長いロビンとしては、(すで)()れたものである。

そう、何事も慣れ。


「よくある……と言っていいものかどうか、残滓(ざんし)ではあったけど、怨嗟(えんさ)があった。今回のが上塗(うわぬ)りしていたから人相(にんそう)まではわからなかったけど、あれは女の子だと思う」


真由(まゆ)という生徒と織歌(おりか)には、黒い人影としか表すことのできない何かに見えていたらしい噂の怪異の中核。

ロビンの見たソレは、まるで人影を黒いクレヨンで乱雑に、けれど目だけ丁寧(ていねい)(のぞ)いて塗り(つぶ)したかのようで、ロビンには人相(にんそう)どころか、そのシルエットすら判別が難しいほどになっていた。

けれど、それは例の踊り場だけの話であって、外とそれ以外の踊り場では、顔だけが同じように塗り(つぶ)されていて、ただ普通に()()()()()()()だった。

ついでに、外から見た時の、顔が塗り(つぶ)されてスカートを(なび)かせた人影が真っ逆さまに目の前に落下して、そのまま、ぐしゃりとひしゃげ、()れた柘榴(ざくろ)(ごと)()ぜた姿を思い出してしまい、反射的に眉間にしわを寄せる。

見慣れていようと薄れていようと、気分を害さないわけではないのだ。


「……完全に潜在化してたし、その内には消えてたやつだよ」

「そっかそっか」


ところで、と紀美(きみ)は人差し指で自身の(あご)(あた)りの輪郭(りんかく)をなぞりながら、目をきゅっと細めた。

目を細めるのは、紀美(きみ)が何かを考えている時のクセだ。


「その、()()()()()で見た塗り(つぶ)された人影、それって()()()()()()()()()()?」


紀美(きみ)が何を考えているのかが読み切れず、一瞬だけ躊躇(ためら)ったロビンだが、すぐに見たままを口にした。


「逆さまだったよ」

「……そっかあ。うん、そうだねえ」


考え込むように曖昧(あいまい)な言葉を繰り返した紀美(きみ)は、一度目を()せ、思案する。


「ねえ、ロビン」


少し待てば、そう呼びかけられた。

紀美(きみ)思案顔(しあんがお)のまま、ほんの少し、口元に笑みを浮かべる。


「今回、僕は、キミ達に意図的に()せていたことがある」

「……噂の根源と依頼主と噂の本当の関係性でしょ? オリカはともかく、ボクは気づくに決まってるでしょ」


だろうね、と紀美(きみ)(つぶや)く。

そして、立ち上がると、チェストの上、スピーカーの隣に並んだ複数の書類入れの一つからクリアファイルを取り出す。


「最初の噂が()えたのは二十年ばかり前。じゃあ、その噂が最初に出たのはいつかって、ちょっと(あさ)ったんだよ」


紀美(きみ)が差し出したクリアファイルを受け取り、ロビンはその中身を(あらた)める。

中に入っているのは、ホチキスで()められた雑誌の記事や新聞のコピーの(たば)だ。

ところどころに、紀美(きみ)(くず)気味(ぎみ)の文字でボールペンの書き込みが入っていたり、蛍光ペンで記事を囲んでいる箇所(かしょ)もある。

最早(もはや)日本暮らし何年目か数えるのも馬鹿らしいと思う(ほど)のロビンは、とりあえず、ぱらぱらとその紙束を左から右に、(めく)って、(めく)って、(めく)り終えて。


「……センセイ」

「なんだい、ロビン」


ぼすり、とソファベッドに(しず)み込んで、(ひざ)を組んだ紀美(きみ)がロビンを見上げてくる。

資料が時系列順に並べられた上で()められているのを確認して、ロビンは紀美(きみ)を見た。


「……四十年ぐらい、前?」

「そう、四十年近く前。昭和の末期から平成初期、だよ」


手を組んで、まあ、憶測(おくそく)の部分もあるけどね、と付け足して、紀美(きみ)(くちびる)が弧を(えが)いた。


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