006
「小牧。」
「ひっ、あ、杏里か。」
突然後ろから肩を掴まれたから、驚いたぜ。振り向いたら、杏里で助かった。もし、姫路さんだったらと思うと、恐ろしやー。いや、案外大丈夫な気もするけど、過度の期待はできないだろう。
しかし、ナイスだ。姫路さんも少しは空気を読んでくれたのか。まぁ、姫路さんの行動、言葉がクラスの空気みたいなものだから、逆に俺が空気を読めていないのかもしれないけど。これぞ、ぼっちの特権かな。
「何よ。私じゃあだめだって言うの?」
「いやー、そうじゃないよ。何なら杏里で助かったぐらいだよー。よっ、杏里。流石、杏里。」
「あんたねぇ、はぁ~。まぁいいわ。ちょっと、付き合いなさい。」
なんだいそのため息は。俺らの仲じゃあないか。気安いやり取りの一つや二つ、いいじゃないか。それともなんだ?もしかして、うざいのか?俺の言動はうざいとでも言うのか?ショックだ。
「えぇ?用事あるんだけど。」
「どうせ、家に帰ってもソシャゲぐらいしかやることがないあんたが何言ってんの。無駄な抵抗はいいから、さっさとしなさい。」
正論パンチはやめてください。泣いてしまいます。しかし、失礼な話だな。ソシャゲ以外にも漫画を読むとか、筋トレするとかあるのに。ソシャゲだけなんて心外だ。まぁ、何にしても、暇なのは変わりないんだけどね。あははは。
「あいあい。」
「どこか行くのか?」
「いいえ、あなたとなんか出かけるわけないじゃない。」
「えぇ、じゃあ何で誘ったってんだ。」
なんなんだ?用事もないのに誘うとか、わけわからんのだけど?まぁ、理不尽な要求をされるよりましかぁ。はっ、これフラグじゃないよな?そうだよねぁ?わーい、理不尽大歓迎。これで、フラグは折れただろう。ふふん。
「待てもできないほどの駄犬なのかしら?」
「唐突な罵倒やめてもらいます?」
「あら?事実でしょ?取り合えず、あんたは黙って従えばいいのよ。」
俺は杏里のペットじゃないワン。躾けられた覚えもなければ、芸を仕込まれた覚えもないワン。犬なんかじゃ、ないんだワン。ワンワン。鳴き声じゃないよ。ほんとだよ。心には大雨が降ってるけどね。ワンワン。
「そうっすか。」
「さて、あそこでいいかしら。」
そう言って指した場所は公園にあるベンチであった。懐かしい公園だ。ここでよく杏里と遊んだなぁ。ブランコで遊んでいたら、杏里が後ろから蹴とばしてきて、ブランコを奪われたり。滑り台を滑ろうとしたら、杏里が占領していて、使えなかったり。
あ、あれ?楽しい思い出どこ行った?な、なんだか、涙が出てきそうだ。昔からこんなだったけ?俺の少年時代って、もしかして何もなかった?
「せて、あんたも座りなさい。」
「はいはい。」
「ちょっと。何私の隣に座ってんの?」
「んな、理不尽な。」
「ほら、さっさと動く。」
この幼馴染、流石に理不尽が過ぎるのでは?暴君に過ぎるよ。もしかして、音痴な暴君なの?お前のものは俺のものって言ってたり?あれ?さっきの思い出が何故か重なるぁ?不思議だなぁ。
「さて、話はあれよ。今日、あなたのせいで私たちが幼馴染だってことがばれました。」
「えっ?自業自得では?……いえ、何でもありません。俺が悪いのです。」
すっごい怖い。ここ一番恐ろしい顔で睨まれたんだけど。ていうか、最近杏里にずっと睨まれてないか?なんもしていないはずなんだがなぁ。それにここまで険悪な仲ではないはずなんだが。
いや、よく思い出したら、昔からこうだったような。うん。そうだな。まぁ、幼馴染なんてこんなものさ。それに杏里と母さん、仲いいからなあ。勝ち目がないんだよ。それになんやかんや言って助け合ったりもしているからな。理不尽なことそれも含めて、幼馴染といういい関係みたいな。それにしては、理不尽な目に遭ってる方が多いけど。
「そう。あなたのせいで幼馴染だってことがばれたんだから、お詫びが必要だよね?」
「……そうですね。」
「不服そうね?」
キッと睨めば言うことを聞くとでも思っているのか?ふふん。我が幼馴染は甘いなぁ。どうれ、睨み返したれ。キリっと。
ビクッ、お、恐ろしい。もっと目力が強くなったぞ。すみません。すみません。反抗しないので許してください。そ~うと目を放す。君子危うきに近寄らず。よく言うだろう?杏里に逆らうのは危険なのだ。
「……いえ、滅法もございません。」
「なら、いいのだけど。それでお詫びをしてくれるのよねぇ?」
「もちろんです。はい。」
「なら、春馬君と友達になりなさい。」
「無理ですが?俺、ぼっちなんだけど?」
いやー、杏里さんも冗談が上手いですねぇ。万年ぼっちのこの俺にカーストップと仲良くなれ何て。いやぁ、ここまで無理なことを要求されると、かえって笑いが止まらないよ。わはははは。それにしては杏里さんの眼がマジなのですが……。気のせいだよな?
「拒否権はないわ。それに人間死ぬ気でやれば、出来るでしょう?」
「勘弁してください。マジで。」
「あら?私に反抗するというの?あなたの弱みどれだけ握っているか、分かってるのかしら?」
「あははは、冗談ですよー。もちろん協力させてもらいます。」
マジらしい。今までの人生の中でもトップレベルの無茶な要求だ。あの超人と仲よくなるだと?流石に無理があるでしょ。もちろん、神崎春馬という男は誰にでも分け隔てなく接するが、絶対の一線というのを引いている。それもいくつもいくつもだ。
例えば、クラスメイトの中でも、俺らみたいなかかわりのない奴であれば、一番外。部活とか、委員会で少し交流するとかなら一つ上。そして、もう少し仲良くなると三番目。とかね。そんな感じっぽい。俺など、眼中にないのだ。
それでも神崎春馬は超人であり、すべてをバランスよく回してしまっているが、だからこそ友人という関係があり得ないものだと、思わされるのだ。って、本気で仲良くなる必要もないし、こんなん考えなくてもいいか。頑張っているアピールを頑張ろう。
「ふんっ。それでいいのよ。はい、解散。」
「ういー。」
「全く、これのどこに興味を抱いたのか。」
何かを杏里が呟いたような気がするが、あまりにも小さな声であったのと突然の突風の音により、かき消され何も聞こえなかった。まぁ、どうせ失敗したら承知しないとか、ちゃんとやるようにとかだろう。
「なんか言った?」
「ちゃんとやりなさいと、言ったのよ。」
「分かってますぜー。親分。」
やっぱりね。まぁ、とはいえ、ちゃんとやるって言ってもなぁ。ほどほどに頑張るのみよ。今回のことは無理でしたでも、何とかなりそうだし。気楽にやるか。
「はぁ~。まぁ、いいわ。じゃあね。」
「ああ、またな。」
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