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 試験はそこそこの成績で終わり、特に何事もなく日常が再開した。試験が終われば日々の授業が、部活が始まる。そして、授業が始まれば課題が出る。明日の朝提出する課題を忘れたため、部活動が終わり生徒たちが下校する中、俺は学校に向かっている。

 二度目の登校でこちらが憂鬱なところ、生徒たちは部活からの解放感からかなんとも楽しそうである。そんな中で俺は一人。……。そう俺はぼっちだ。

 友人がなく、誘われるほどの交友関係も何もない学校生活。家に帰ったら、ソシャゲのノルマを完了して、余った時間を漫画を読むことで潰したり、録画したアニメの解消をしたりと、着々とオタクの道を突き進むのみだ。

 だけど、それも最近少し変わってきた。言わずもがな学園の天使様たる愛理さんの影響である。柄にもなく休日に外出したり、何故かイケメンの友人と話したり、昼食には誰かと食事するなど、少し前までは考えられなかった。これは、ぼっち卒業と言ってもいいのでは?




 校舎の中は校門近くの道とは異なり、静寂に包まれていた。夕焼けで廊下が赤く照らされるさまは、なんとも幻想的である。静寂さと相まってどこか別世界に迷い込んだように錯覚し、少しわくわくとしてしまう。

 


「愛理さん。寝てる?」


 姫路愛理。学園の天使様。学園で知らねものはいないと言われる学園一の美少女。それに性格もいいと来た。人を疑うことを知らず、愛と正義、平等を謳う平和主義者。人を助けることに何のためらいもなく、困っている人がいれば一番に駆け付ける。

 そんな人間の善性を寄せ集めたかのような性質は、どんな悪人であっても改心してしまうほどだ。事実、ひったくり犯が姫路に出会ったことで改心して、ボランティア活動に精を出すような人間に校正してしまったなんて話は有名だ。

 嘘か誠かもしれない話が出回っているが、関わった今ではそれが本当かどうかなどどうでもよかった。愛理さんは愛理さんである。


「……。愛理さん、本当は起きてたり?」

「……。」

「まぁ、そんな訳ないか。愛理さんが俺と同じように寝たふりなんてね。」


 反応をよくよく観察しても規則正しく呼吸する音が聞こえるだけだった。ってか、この状況まずくない?放課後の教室に男女が一組。片や学園の天使様で、片やただのぼっち。そして、学園の天使様は寝ていて、それをぼっちが眺めている。

 うん。誰かに見られたらやばすぎる状況だな。最悪、教師を呼ばれて大騒ぎになったりして、他の生徒の圧力で学園から実質的な追放なんてされかねない。まぁ、交流があるのはもはや周知の事実であるので、そこまで酷いことにはならないだろうけど。


「愛理さ~ん。起きてくださ~い。」

「……。」

「ダメか。どうしたものか。流石に身体に触れるのはなぁ。愛理さんがいい気しないだろう。」




「まぁ、いいか。はぁ~、それにしても本当に色々あったなぁ。」


 本当に色々あった。窓に近づいて教室から外を眺める。雲一つない空は赤々と染まり、美しかった。そんな光景を見ながら黄昏れてみるのもまた良いもんだ。黄昏ると言ったら、謎の語りでもしてみるか。我ながらシチュエーションに酔っている自覚はある。


「寝たふりしているのがばれた時は恥ずかしかったな。まさかそこから愛理さんと関わるようになるとは思わなかった。昼食を一緒に食べることになるとは思いもしなかった。」


「遊園地では酷い目にあった。まさか愛理さんにあんな面があったとは思いもしなかった。それも愛理さんの一部であるのは分かっているけど、なんだかなぁ。いつの日かやり返してやるとも。」


「体育祭では愛理さんのチアしか覚えていないな。あれは圧巻だった。一生忘れることはないだろう。」


「そして、寝てしまった勉強会。あれは一生の不覚だ。といか人様の家で寝るとか普通にあり得なくないか?しかも女の子の家だし。今思い出しても恥ずかしい。」


 そうして語る言葉は全て愛理さんとのことだった。自覚はあった。とうの昔に愛理さんに惚れているのは、惚れるのは当然のことだった。あんな風に接されると誰でも惚れるだろう。それも彼女いたことない年頃の男なら、仕方ないことなのだ。

 それでもどこか認めたくはなかった。なんと言うか、くだらないプライドだ。自分が特別な人間であるかのように、そんな風に思いたかったのだろう。誰でも惚れる彼女に惚れない自分。みたいな。普通に認めとけよと自分でも思う。


「愛理さんのこと、好きなんだろうなぁ。」


 ガタッ。突然、机が動くような音が聞こえる。まさかの、まさかである。嘘だろうと思いながら背後を恐る恐る見ると、微笑を浮かべた愛理さんがこちらを見ていた。嘘だろ。


「えっ?」

「……。」

「起きて……いたのか。……。」

「あはは~。」


 恥かしいってものじゃない。我ながら迂闊だったとは思う。同じ空間にいるのだし、いつ起きるかも定かでもないところで発言することでなかった。今後気まずくなるだろう。もう関わることもないだろう。少しずつフェードアウトしていく感じかな。

 いや、まだ誤魔化せるか?友達として好きとかなんとか言えば、でもいつから聞いていたんだろうか?そこが一番の問題だろう。そこだけが問題なのだ。勝機は見えた。


「いつから?」

「えっと、愛理さん。寝てる?から、かな?」

「最初からじゃん!?」

「あははは~。」

「笑い事じゃないんですけど!?」


 勝機もくそもないじゃないか。最初から勝てぬ闘いであったか。ってか、最初から?あの恥かしい語りから、今までの話まで全部聞かれていたの?えっ、もう即死だよ。即死ってレベルじゃないか。死体に鞭打って起き上がらせて、もう一回倒したって感じだよ。いや、どういう感じだよ。

 兎にも角にもそれはもう、恥ずかしくて死んでしまう。夕陽に照らされた教室だからといって黄昏てみた数分前の自分を殴り倒したいくらいだ。ふっ、夕陽に照らされて語る俺。なんてやっているところじゃなかったな。


「えへへ、ごめんね。」

「くっそ可愛いな。じゃなくて、マジですか?」

「うん。マジ。」

「くっ。マジかぁ~。」


 どうしましょうか。どうしようもないか。もうこうなったら自棄だ。どうせもう覆らぬ状況なればこそ、人は無敵になれる。だって、もう失うものがないからね。ふははは。愛理さんよ、このまま終わると思うなよ。必ずや俺より恥ずかしくさせてやる。


「聞こえていたのなら仕方ない。そういうことだ。」

「うん?どういうことかなぁ?」

「だ、だから、そういうことだよ。」

「うん?」


 ひっ、怖いよ。何を求めているのだい。そんな何も表情も変らないのは怖いよ。あれ、まさかそういう意味だと気づいていないのか?つまり、今からでも誤魔化せる?ほう。ほほう。なるほど、なるほど。くくく、天は俺に味方したようだな。


「友達として好きだから、これからもよろしくってことさ。」

「違うでしょ?」

「うえっ?」

「さて、私の求めているのはぁ、何でしょうかぁ?」


 ひっ、怖いよ。何を求めているのだい。そんな悪魔みたいな笑みは怖いよ。いや、意図は分かるとも。分かるが、どういう意図なんだ?全然わかってないじゃん。って、そんなノリツッコミみたいなことしている場合じゃない。

 して欲しい行動は分かるがそれをして欲しい意図が分からない。こっぴどく振るつもりか?それとも一生そのネタでゆするつもりか?まさか、笑いものにするつもりではないだろうか?どれにしても振られるのには変わりないじゃん!?もう覚悟決めるしかないか。




「愛理さん。」

「はい。」

「あなたのことが好きです。付き合ってください。」

「はいっ。よろしくお願いしますっ。」




 ん?何と言ったのだろうか。冗談の類だろうか。でも、それにしては花が咲くような笑みを浮かべているのはどうしてだろうか。それか、本当に本当?


「えっ、と。本気?」

「うん。本気だよぉ。これからよろしくねぇ。」

「イエイエ。こちらこそよろしくお願いシマス?」

「ふふふ。そんなに意外?」

「まぁ、意外かな。」


 今でも頭が追い付いていない。告白が断られる前提で考えていたのだ。それがこうして、受け入れられるなんて、そんなことは考えてはいなかった。夢の中にいるようである。心がふわふわと浮かんでは沈み、現状を受け止めきれてはいない。

 それでも吐いた言葉と聞いた言葉は確かに頭に入ってきて、ぐちゃぐちゃだ。


「ふーん。じゃ、これから意外ではないこと、ちゃーんと教えないとねぇ。」

「お手柔らかにお願いします。」

「うふふ。保証は出来ない、かなぁ?」


 そう笑った彼女はまさに天使の様であった。それにしては発言が小悪魔的というか、なんと言うかである。こうして劇的な何かがあるわけでもなく、ただありふれた告白で人生初の彼女が出来ました。



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