041
ついに来たこの日、晴天に恵まれ燦燦と太陽の光がこの身を照らす。それとは裏腹に心は薄暗く不気味な雲に一面が覆われている。そんな詩的なことは置いといて普通に憂鬱だ。何で何も知らない先輩に呼び出されているんだよ。意味わからん。
それはまあいいとしてもどういう感情でことに望むべきか。先輩に恋愛相談ってどんな状況やねん。それも特に仲もよくない先輩って言うのもね。名前も知らないくらいだし。おかしいな。いつからこんな変な状況になったんだか。
「……よく来たな。」
「まぁ、誘われたからには行かないとですよ。」
「ふっ、そうか。では行こうか。」
「その前に先輩のお名前は?」
「……秘密だ。」
なんだかなぁ。マジでこの先輩のことは何も知らないんよな。名前も知らない先輩についていくなんて普通に考えて頭おかしいだろ。と言うか、この先輩が頭おかしんだよ。弱み?のようなものを握られた俺が悪いというものかもしれないが。
「え~、何でですか?」
「ミステリアスな男の方がカッコいいだろ?」
「は、はぁ~。そっすね。」
突っ込みに困るぜ。何度も言うようでしつこいだろうが、この先輩とは対して仲良くないんだぜ?頭がどうかしているとしか思えない。と言うか、頭がどうかしているんだろうな。なんと言っても愛理さんのファンクラブのNO.2だか何だかなんだし。
「むっ。まぁいい。では行くぞ。」
「どこにです?」
「着いてからのお楽しみだ。」
秘密主義者過ぎんか?どうしたものか。今からでも逃げた方がいいのか?この状況、冷静に考えて怖すぎだもんなぁ。今更どこに逃げるんだって話でもあるんだけど。ま、なるようになるかってことで上には従いましょか。
「あっ、ハイ。」
「着いたぞ。」
「ようやくですか。ん?」
なんだか高級住宅街に入っていってるなとは思っていたが、先輩が指した家はまさに豪邸といったところ。小牧家が犬小屋に見えるくらいだとまでは言わないが、それでも一般家庭とは程遠く、金持ちの家って感じだ。
先輩って金持ちだったのか。通りで。い、いや。別に金持ちを風評したわけではないぞ。金持ちに常識がないなんて言いたかったわけではないのだ。そこのところ勘違いしないで欲しいな。って、誰に言い訳しているんだか。
「なんだ?」
「姫路?」
「ああ。俺の家だ。」
「先輩。ほぼ初対面の後輩を家に連れ込むなんて何を考えてるんですか?厭らしい。」
「断じて、断じてそういうことではないからな。」
焦ってる、焦ってる。こんな変な状況になっているのも全部先輩のせいだ。ちょっとくらいの仕返しは許されるだろう。……でも、この仕返しの仕方は自分にもダメージがはいってきているような。気にしたら負けか。
「冗談です。」
「心臓に悪い冗談はやめてくれ。」
「すみません。」
「では、入ろうか。」
「ただいま。」
「お邪魔しま……は?」
「おかえ……え?」
愛理さん……!?私服姿も麗しい。前の遊園地に来て着た服と比べてなんとなくだが気を抜いている感が出ていて、本当に家で来ている私服なんだなと見える。そんな生活感というのが垣間見えるとどこかぐっとくるところがあるものだ。
って、そんなこと考えている場合じゃない。どうしてここに愛理さんが?どういうことだよ。先輩とどういう関係なんだ?頭がおかしくなりそうだぜ。
「驚いたか?」
「お兄さん‼」
「……えっ?」
「ちょーっと待っててくださいねぇ。」
愛理さんのその言葉には妙に迫力があり怖い。従わなければならないと思わされる。愛理さんと将来結婚する人は間違いなく尻に敷かれるな。うん。それもまたいいか。……なんだか、まるで自分が将来結婚するみたいな言い方だったけど、勘違い過ぎて恥ずかしいな。
「あっ、ハイ。」
「お兄さんはこっち。」
「ハイ。」
さすがの兄といえども逆らえぬらしい。まぁ、だよな。今の愛理さんはマジで怖いし。ちょっとした冗談を言ようとしようものなら、どんな口撃が待っているものなのやら。想像するだけで恐ろしい。
えっ?お兄さん……?これが愛理さんのお兄さんだって?嘘やろ。あっ、流石に先輩に向かってこれはダメか。でもなんて形容すれば。なんてことはどうでもいい。ええ?兄。兄だって?つまりは兄に愛理さんの恋心を知られたってこと?それは死にたくなるな。
「えぇ?愛理さんの兄……?」




