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 体育祭の翌週の月曜日。体育祭なんてなかったかのように、いつも通りの日常が戻ってきた。なんだか懐かしささえも覚えてしまうのは不思議なものだ。これもイベント後特有の現象なのかもしれないな。

 さて、そんなことよりも問題がある。それも非常に大きな問題だ。朝、いつも飲むコーヒーを飲み忘れるくらいの大問題だ。ま、俺はコーヒー飲まんのだけど。


「おはよぉ。」

「あ、うん。おはよ。」

「うん?どうしたのぉ?」

「えっ?な、何が?」


 そう。問題とはこれだ。まともに愛理さんと話せる気がしない。それもこれも全部が愛理さんのチアを見たからだ。それからなんか体調はおかしんだ。家にいても落ち着かないし。意味もなく出歩いても何も変わらない。


「顔が赤いから熱でもあるのかなぁ、って。」

「そ、そうかなぁ?そんな事ないと思うけど。あっ、俺、用事あるから。それじゃあね。」

「えっ?でも……。」

「バイバイ。」


 退散退散。悪霊退散。あれ?それだと俺が悪霊か?わはは。ある意味あっているかも。愛理さんに憑く悪霊みたいなもんだもんな。さて、悪霊は退散しますよっと。


「……もうすぐチャイム鳴るけど、いいのかなぁ?」




「ハハッ、初めてサボっちゃったよ。はぁ~。」


 この日、俺はついに不良の道への一歩を踏み出した。これが伝説への一歩だとは知らずに。なんてね。そんな冗談を言っている場合じゃないよなぁ~。怒られる。絶対に怒られる。生活指導からの停学か?

 うおー、どうしようか。戻った方がいいか?今なら怒られないかも。でも、気まずいよぉおおおおお。……どうしよ。はぁ~。


「……俺はどうしちゃったんだろう。なんか、変だ。」

「……。どうしたんだ。」

「それがさ。なんだか変になっちゃったみたいなんだ。愛理さんを見ると心臓が痛むというか。なんか病気なのかなって。」


 これが病気だったらまずいなぁ。だって、心臓の病気だぜ?入院必至じゃないか。そうしたらもっとぼっちを極めて、いずれ世界に一人だけになってしまうんだ。我ながら今日はネガティブ過ぎるな。


「ほう。コイバナか。」

「えっ、いやぁ。恋なんて滅相もないよ。俺ごときがあの愛理さんに恋なんて恐れ多い。」

「ふむ。そうか?他に何か変なところはないのか?」

「う~ん。……。って、あんた誰っ!?」


 いや、こわっ。俺は今、誰と話してたんだよ。その前にこいつ気配がなかった、だとっ。こいつがヤル気だったなら、俺はヤラれていた。って、ほんと誰?知らん人なんだけど。普通に怖いな。


「そんなことはいいじゃないか。それよりも質問に答えてくれ。」

「いやいや。見ず知らずの人の質問に答えるわけないじゃないか。」

「俺と君は一応面識はあるはずだが?」

「えっ?……あっ、ああ~~~。」


 あの変な生徒会長による、変な議題の、変な会議。あそこにいた無口な変な男かっ。って、変変うるさいわっ。つーかそれは面識とは言わないんじゃないか?いや言うのか?とりあえず、お互いに会話してないんだからさ。覚えてないよ。


「……うるさいな。だが、その様子なら思い出したみたいだな。」

「ま、まぁ?でも、今日はえらく饒舌ですね。」

「……。そんなことないぞ?」

「何で本人が疑問符つけてるんですか。」


 普段無口だって自覚はあるんやな。ま、当たり前か。ないわけがない。しかし、普段無口な奴ってテンション上がったりすると滅茶苦茶話したりするんだよな。この人もそういうタイプだよな。たぶん。


「……。こう見えてコイバナが好きなんだ。テンションが少し上がってしまっただけだ。気にするな。」

「少し?」

「んんっ。そこはいいだろう。ほら質問に答えるんだ。それともなんだ。俺の質問には答えられないと?」

「……どれだけ恋バナが好きなんだ。」

「いいだろ。そんな事。」

「顔を赤くして可愛いかよ。」


 厳つい男子高生が頬を朱に染める姿何てどこに需要があんだよ。ったく。まぁ、自分そういうのも好きですが。まぁ、でも現実で見ると微妙な光景だな。やっぱり非現実だからこそだな。うん。


「……。わざとか?」

「いやぁ、あはは。間違えて本心が出ちゃっただけですよ。」

「なお悪いわっ。」

「はいはい。質問の答えですね。体育祭の時は愛理さん以外のものが眼に入らなくなったり、朝なんて登校中は今日の愛理さんはどうかななんて考えたり、会話を思い出してくすっとしたり。そのくらいですよ。」

「ふむ。下手惚れだな。」

「そうですね。下手惚れみたいです。」

「顔を赤くして可愛いかよ。」


 くっそ。やり返された。でも、はずいんだもん。くそー、こんな先輩に自覚させられるとは。嫌だな。これなら家で認めておけばよかった。漫画とかでよくあることなんだから。なんとなくそうじゃないかなとは思っていたんだよ。認めたくなかったけど。


「うっさいわっ。マジで恥ずかしんだけど。」

「自覚したようで何よりだ。」

「あー、困るなぁ。ホント、困っちゃうよ。」

「うん?何がだ?後は愛理にアタックするだけじゃないか。」

「それが出来たら苦労しませんよ。それに相手はかの天使様ですよ。俺なんて眼中にないですよ。」


 認めたくないものだよ。叶うことのない恋心なんてさ。不毛。とまでは言わないけど、やっぱり最後は辛いものになりがちだからね。それも含めて素敵な思い出。になればいいんだけどねぇ。現実はそんなに甘くないさ。


「天使様、か。……。そうだな。なら、作戦会議といこう。」

「えっ?いいですよ。そんなの。」

「いいからいいから。とりあえず、今度の土曜は空けておくように。」

「ちょっ。」

「じゃあな。」

「ええぇ?何なんだよ。それに結局あの人は誰なんだ?」


 えっ?マジで帰っていきやがったぞ、あの人。どうすんだよ。土曜は知らない先輩と二人で作戦会議なんて、どうすればいいんだよ。誰か教えてくれぇ。

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