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 愛理さんの質問を躱しつつ走る中、ついにゴールの時だ。ゴールまでが物凄く長かった。何せ、周りの視線が痛いのだ。もう全校生徒から見られているんじゃないかってくらい。実際に見られているんだろうけど。

 そんな視線よりもただ一人の視線、愛理さんの視線の方が何倍も痛かったけどね。今からでも逃げ出したいくらいだよ。誰だよ、一位はお題を公開するなんてルール作ったやつは。バカなんじゃねぇか?


「ゴール!!おっとー、なんと借り物競争であの人を借りてくるとは!!」

「いやー、驚きですねぇ。お題は何だったのでしょうか?私、気になります。」

「わたくしも大変気になります。はーい。ではでは、早速公開してもらいましょーう。」


 こいつら、放送委員の二人は完全に野次馬根性丸出しじゃねーか。最悪だ。顔がにやけていやがるし、絶対に余分なことを言うだろうってことは目に見えている。こんなの心が荒んでも仕方ないだろ。っけ。




「どうもー、一位おめでとうございまーす。お名前は何でしょうかー?」

「あ、どうも。えっと、秘密じゃダメでしょうか?」


 聞いてくんじゃねーよ。ってか、知っているだろ名前くらい。自惚れかもしれないが、名前は結構売れているはずだ。神崎春馬に姫路愛理。この二人と一緒にいることは学園では有名な話だろうから。

 それにしても、この放送委員の二人ってどういう関係なのだろうか?男と女のコンビでやけに距離感が近い気がするし。もしかしなくても、そうなんじゃないだろうか。そういう空気感あるし。


「名前は小牧悠馬って言うらしいよ。」

「なるほどー。小牧君は何のお題を引いたのでしょうか―。」

「勝手にバラされたし。」

「うんうん。失礼するよー。おー、ふむふぬ。これはこれは。」


 不服を申し立てる前にお題の紙をパクっていきやがった。なんでもありか、こいつら?体育祭だからって、何でも許されると思うなよ?そっちがその気なら、絶対にやり返してやる。


「ちょっ。」

「えっ?何々?お題は何だって?」

「お題はですねー。一番仲良くなりたい異性。とありますねー。むふふ。」

「こいつら最悪だ。」


 ルールとはいえ、本当に晒されるのはきついものがある。この二人はニヤニヤこっちを向いてきやがるし、事の成り行きを見守っていた観客どもはヒューヒューと口笛を鳴らす。なんだ?いじめか?あまりにもあんまりな展開だぜ。


「青春ですねー。」

「ええ、ええ。青春ですともー。さて、そのお相手はー?」

「な、なな、なんと!!学園の天使様とも称される姫路愛理様ですー。どんどんぱふぱふー。」

「天使様だなんて、恥ずかしいですぅ。それに様なんていらないですよぉ。」


 本当に恥ずかしがっていそうな声を愛理さんは出しているが、俺は知っているぞ。本当は何とも思っていないってことがな。あの愛理さんがそんなことで何かを思うわけない。遊園地で痛いほど思い知ったからな。


「流石のこのオーラ。わたくしの邪な心が浄化されるようですねー。これはまさしく天使の風貌。」

「こんなインタビューやっているなんて私、死にたい。」

「えっ?死なないでください。」

「はうっ。圧倒的、天・使!!私、浄化されます。」


 はうっ。っとか言うやつ初めて見た。ってそんな場合じゃないか。本当に成仏しそうな危険な表情していやがるぞ、こいつ。どっちも恐ろしい女だぜ。ふっ、お題を晒したこと許してやろう。ちょっと、関わり合いになりたくないし。正直、引くわー。


「ちょーい、待って。まだ聞くことあるんだけど―!?」

「……さようなら。」

「だから、待てってー。……ってことで、相棒が浄化されちったのでここいらで解散といこー。昼飯の時間じゃー。」

「この学園、まともな奴いねぇな。」




 お昼。先ほどのことがあったのにも関わらず、何故か愛理さんと対面して食事をとっていた。何故かというのはまた違うか。前々から、体育祭の日はいつもの4人で食事をとろうと約束していたんだから。

 だが、気まずいにもほどがある。愛理さんと食べるのはまだいい。でも、杏奈。てめぇは許さんぞ。ずっとニヤニヤして見てきやがってぇ。余計なことしかしないなマジで。ほら、今も何か余分なことを言い出しそうな雰囲気だ。


「ねぇねぇ。」

「うっざ。」

「は?」

「すみません。」


 ガチのは?だった。怖すぎ。ここ数か月は聞いてない恐ろしい声だったよ。やはり、暴君に勝つにはまだまだ戦闘力が足りないみたいだ。ひぃ、お許しを―。


「それで、さっきのはどういう意味なのかなぁ?ねぇ?」

「別に普通だよ。トモダチとして仲良くって。」

「えぇ?うっそだぁ。ねぇ、愛理。」


 嘘って、それ以外に何があるって言うんだ?それ以外には何もないよなぁ。ホントに時たま、杏里は訳の分からないことを言うんだから。やれやれ、困ったものだよ。


「そうかなぁ?悠馬君が言うなら、そうなんじゃないかなぁ?」

「どうだか。ねぇねぇ、それより愛理は嬉しかったの?」

「それは……もちろん、嬉しかった……よぉ?」


 その微妙な間は何なんだ?まさか、仲良くしたくないってコト!?もし、そうだったら泣けるわ。でも、その朱に頬を染めたはにかむ様な笑みは可愛いなぁ。デヘヘ。


「何その微妙な反応。気、使わなくていいんだよ。」

「ホントだってばぁ。」

「ふーん。よかったねぇ。」

「はいはい。よかった、よかった。」


 嬉しいだってさ。デへ、デヘヘ。って、そんなキャラじゃないからやめるか。しかし普通に嬉しいな。これは普通になれるのでは?脈ありってことでいいんだよな。教えてくれ。どこかの偉い人。

 俺は愛理さんとトモダチになれるってことだよぁ。やったぜ。




 昼休憩も終わり、そろそろ次の競技も始まる頃になった。俺の出番はもう無いから気が楽だ。あとは適当に観戦していればいいんだからな。これから何しようか。自由時間だ。……って、あれは愛理さんか。一応、謝って置いた方がいいか?


「愛理さん。」

「あれ?悠馬君。どうしたのぉ?」

「さっきは急に呼んで悪かったね。」

「そんなのいいよぉ。」


 本当に気にしていないようである。心臓に毛が生えているのか?全校生徒から注目を浴びていたのに、平然としているなど恐ろしい。真似できそうもないな。って、そういえば愛理さんは常に人に注目されてきてるんだから、耐性ぐらい付いているか。


「そう言ってもらえると助かるよ。」

「……うん。」

「この後、愛理さんの番だよね。頑張って。」

「ありがとぉ。ちゃんと見ていてね。釘付けにしてあげるから、ねっ。」


 何故だろうな。その一瞬だけ愛理さんから目が離せなかったのは。それにどこか輝いて見えた気がする。俺も末期だな。たとえ天使様でも本当に光っているわけでもないのに。本当に不思議だな。あり得ないことだって言うのにな。


「っ。期待しているよ。」

「もう行くねぇ。」


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