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体育祭の種目決めが終わった後数週間経ったが、案外にもクラスメイトはやる気なようで放課後練習までやるらしい。らしいと他人事みたいに言っているが、俺も強制参加みたいだ。
クラスの代表メンバーがやるって言ってるのに、参加しないなんて空気の読めないことは流石に言えない。クラスで立場がこれ以上悪くなるのは勘弁だし。悪くなるほどの立場はないに等しいのだが。
それに直々に春馬からお声がかかっているからなぁ。断れなかった。その場に女性陣二人もいたし。いなくても断れないことは変わらないんだがな。
立場の弱いものは辛いものだ。
放課後。練習の時間がやってきた。なんだか放課後に体操服に着替えているのは変な感じだ。運動部でもないし、運動するための服なんて着ないし。筋トレもTシャツで十分で、わざわざスポーツウェアにしたりしないからな。
「皆揃ったね。」
「それでどうするんだ?」
「まずは体操からだね。その後、各種目ごとのメンバーで集まって練習しよう。複数種目がある人は人数が少ない場所を優先して、時間で区切って練習する感じで。」
いつぞやの取り巻き君が春馬に質問している。久しぶりに見たような気がする。まぁ、同じクラスなんだけど。陰キャ並みに空気が薄いんじゃないか。……本当同じクラスなんだろうか?
それより体操するんだ。真面目やなぁ。すぐ練習に入るのかと思ってたよ。というか、どのくらいの時間、練習するつもりなんだろうか。あんまり長引かせてほしくないんだけど。
「そうか。……でも、ラジオ体操はいいだろ?」
「体操は大事だよ。」
「下校中の他クラスにラジオ体操してんの見られるんだろ。ダサいだろ。」
「あはは、確かにダサいね。」
そこ同意するんだ。よしっ。いけっ、取り巻き君。頑張るんだ。このままラジオ体操をやらない流れにするんだ。君ならできるぞ。声に出して応援は出来ないけど、心の中ではいくらでも応援を送ってやる。頑張るんだ。
「だろ。そんなことより、早く練習しようぜ。」
「でも、ダメだよ。ケガをするよりはましでしょ。」
「ああ?」
「それに真面目にやらない方がダサいよ。ねっ?」
おっと、女性陣の同意を取りに行きました。これは取り巻き君ではどうしようもないな。はい。解散解散。春馬よ。案外性格悪いなぁ。こういう手を使われると絶対に勝てないもん。
取り巻き君が最初からかませキャラっぽいのが悪いんだけどね。ナイスガッツだよ。もう少し頑張って欲しかったけどね。
「ちっ、分かったよ。やるよ。」
「ありがと。皆がケガをするのは嫌だからね。」
いつもより真面目にラジオ体操をやっている男性陣が多くいたのはなぜだろうね(すっとぼけ)。真面目にやるのはいいことやからね、ええことよ。かく言う自分はいつも通りキリっとやったからね。
別に特に理由はないけどね。真面目やからね。いつもいつも真面目にやってるだけだよ。ホントダヨ。
「……。」
「……。」
「……で、どうすんの?」
陰キャ同士、会話もなく気まずいなぁ。特に名前も知らないモブAが相手だとなおさらよ。たぶん、こっちの名前も相手は知らないだろうし。大丈夫でしょ。お互い様、お互い様。
「どうしよう?」
「とりあえず、走っとく?」
「それでいいんじゃない。めんどくさいし。」
やっぱり、めんどくさいらしい。陰キャは運動したがらない奴がほとんどだからな。ゲーム、漫画、アニメ。これだけしかやってないんじゃないか?他人のことを言えないので黙りまーす。
「まっ、そうだな。適当に走ったら、どっかで休憩しておけばいいだろ。」
「んじゃあ、走るか~。」
「うえ~い。」
二人並んで黙って走るだけの虚無の時間がようやく終わった。何だったんだこの時間は。……。考えるのをやめよう。考えれば考えるほど、虚無が広がっていくぜ。
「ふぅ。休憩休憩。」
「いい日陰だ~。」
「疲れたぁ。」
「陽キャにはやっぱり着いてけないよ。」
陰キャには辛いよな。あのノリ。結局ノリに乗せられてここまで来てるけど。半強制だからな。仕方ない。独裁政治に逆らえるほど、力を持っていないのだよ。力を持っていないからこそ、陰キャなんだけど。
「な。まさか、放課後に練習するなんて思いもしなかった。」
「ほんそれ。明日からはバイトとか言って、来ないとこうかなぁ。」
「いいんじゃね。でも、一人だけいないって言うのもなぁ。」
「ねぇ~。どうせ気づかれないだろうけど。ははっ。……はぁ~。」
か、悲しすぎるっ。泣かせに来てるだろ。乾いた笑みに、ため息。言っている内容でスリーアウト。泣けてくるぜっ。
ネガモードに入り切る前にさっさと退散しよ。めんどくさい以外の何物でもないからな。
「陰キャの辛いとこだな。」
「でも、小牧君は付き合いあるじゃないか。」
「まぁ、な。でも、着いていくのだけで精一杯だ。」
「着いていけるだけすごいよ。」
着いていけてないけどね。それっぽく振舞っているだけでさっぱりだよ。話も頷いて聞いてるに過ぎないし、自分から話すことは中々ないからなぁ。話すこともないし。出来る話は漫画の話くらい?
「そうか?あいつらが、いい奴らだからな。俺はちょっと行ってくるよ。」
「うい~。」




