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「皆さん、おはようございます。えー、今日はですね。皆さんに重大なお知らせがあります。」
あの適当な教師が神妙な顔をつくって、重大というものだからクラス中がざわめきに包まれている。あの自分の職務を半分くらい放棄している教師がだ。やばい。これは世界の危機レベルかもしれない。
神妙そうな顔をつくっていても、本当に重要なことかは分からないけどな。適当なこと抜かしてるだけかもしれないし。というか、そっちの方が可能性として高いくらいだし。
「……。」
「……。」
「……。」
ゴクッ。クラスの皆が一斉に息を飲んだ。な、なんなんだ、この一体感は。普段はこんなにも行動が揃うことなんて、あり得ないのに。この瞬間だけは、皆の気持ちが一つになっているかもしれない。
「なんと……体育祭があります。種目を決めるので、覚悟を決めておいてください。」
「はぁ~、そんな事だろうと思った。なっ?」
「うちの担任が神妙な顔をつくっているんだ。やっぱり、くだらないことだった。」
「ほんとに、くそ教師が。はいはい、解散解散。」
「おい。そこ、くそ教師って言うな。俺ほど職務にまっとうな教師はいないって言うのに。……全く、これだから学生は。」
クラスの全員が一斉にため息を吐いて、左右に首を振った。やれやれ、この教師は。体育祭の種目決め程度で、よくあんな風に神妙な顔ができたものだ。本当にふざけた教師だな。これだから、この教師は。
「……。」
「おい。黙るなよ。本当に今の餓鬼は生意気だな。」
「……仮面が外れてるな。」
「……いつものことじゃん。」
「……確かにな。」
「クソガキどもが。委員長。あとはよろしく。」
そして、丸投げした。教師がそんなんだから、そんな風に言われるんだぜ?それに今どきそういうこと言うと、面倒なことになるのにな。だから普段は、あの教師でも敬語で話してんだろうけど。
すぐに仮面が剥がれちゃうから意味ない気もするけど。授業中もあんな感じだからなぁ。流石に授業放棄はしないけど、HRとかは全部委員長に丸投げしてるような?
「そういうところな。」
「どこが職務にまっとうなのか。」
「やれやれ。」
「適材適所だろ。ほら、さっさとやれ。」
「はいはい。皆、静かに。いつものことでしょ。早くしましょ。」
委員長が一番酷いことを言っているような気がする。いつものことって、いや、確かにそうだけど。あの教師のことを悪く言うのは、もうやめてあげよう。たとえ事実だとしても、言っても仕方ないし。
あの教師が変わるわけがないし。……って、そうじゃないよ。今のは悪口じゃなくてね。ダメだ。あの教師のことを考えると、ダメなとこしか思いつかない。
「委員長。地味に酷いな。」
「そこ、黙る。」
「は~い。」
「じゃあ、種目を書いていくから、少し待っていて。」
「う~い。」
うん。これはもはや委員長が教師みたいだな。委員長先生だな。これから、敬意をこめてそうやって呼ぶことにしよう。そんなくだらないことは置いといて、体育祭か。嫌だなぁ。運動はそんな好きじゃないし、得意じゃないからなぁ。
適当に簡単な種目にしたいけど、そう考える奴は俺だけじゃないはずだから、じゃんけんか。この俺の黄金の左腕が唸るぜっ。
「はい。希望をとります。自分の名前を黒板に書いていってください。」
「俺から~。」
「じゃあ、次行くわ~。」
続々とクラスメイトが順番に黒板にやりたいことを書き込んでいく中、隣に座る愛理さんが袖を引っ張ってきた。愛理さんの方を向くと、愛理さんが口を開き話しかけてきた。
「ねぇ、悠馬君はなにをやりたいのぉ?」
「えー、そうだなぁ。楽なのがいい。」
「楽なの?具体的にはぁ?」
「障害物競争とか、借り物競争とか?定番のやつ。」
ここら辺が定番だろうな。でも、なんでここら辺を皆選びがちなんだろう?自分で言っておきながら、不思議で仕方がない。注目が少ないから?でも、走るのってだるいよな。まぁ、何でもええか。
「ふーん。」
「それで愛理さんは?」
「特にないかなぁ。それで悠馬君のを参考にしようと思ったんだけどぉ。」
「あぁ。それはごめんね。」
あー、そういうこと。それは本当にごめんだわ。特にやりたいとかないし、体育祭はどちらかというと、やりたくないし。なんて答えた方がよかったんだろうか?答えはない永遠のテーマやな。
「いいの。自分で考えるからぁ。」
「そう?」
「うん。」
「皆、これでいい?」
「は~い。」
はい。というわけで、種目が決まりました。俺の出る種目は借り物競争で決定した。やったぜ。これだけしか出なくていいなんて、今度の体育祭は楽勝だな。
ちなみに愛理さんはチアをやるらしい。チアって種目なのか?って疑問はあるけど、種目なんだろうな。はい。春馬は3,4つほど出るらしく、流石だな。としか、言いようがない。愛理もチアらしい。




