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「……で、どうしてこうなったんだろうな。」
「何か問題でもあったのかい?」
「問題も何もこういう場合普通、男女の二組で分かれるのが定石というものだろ。」
本当にどうして男二人で観覧車なんかに乗っているんだろうな。折角、二人も連れに女がいるっていうのに。それに杏里は春馬のことが好きなんだろ。なら、なおさらのこと別れるのが道理な気がするけど。
「悠馬が前に来た時はそうだったんだね。」
「……漫画の知識だけど、何か?」
「……。なんだか、ごめんね。」
謝るんじゃないよ。もっと虚しくなるだろ。それに俺が誰かと遊園地に来ないことくらい分かっているだろうに。そんなこと言うなんて酷いよ。春馬がこんな鬼畜だったなんて、知らなかったよ。
冗談はさておいて、普通男女で分かれるものじゃないのか?野郎二人で乗っても何にも楽しくないだろ。女二人で乗るのは分からないこともないけどな。別に地上で待機でよかったんじゃないか?
「いいんだよ。」
「……。」
「……。」
「……。」
嫌な沈黙だな。ぼっちって、こういう沈黙の時に訳わからないことを話し始めて、何こいつって思われるんだよな。それで黙ってたら黙ってたで、何こいつってなるんよ。ぼっちはいちゃいけないんですかー?
うまい話をすればいいって?そうですね。でも、それをぼっちに要求するのは酷というものだろ。俺はぼっちじゃないけどね。でも、こういうの困るから。
「観覧車って言うのも、なんだか話すことがないと気まずいな。」
「なら、何か話すかい?」
「話すって言っても、話すことあるのか?」
「ちょうどいい話題があるじゃないか。」
「ちょうどいい?そんなのあったか?」
はて?何かあったっけ?何も思いつかないけど、とりあえず話を聞こう。俺の都合の悪いことじゃなければいいんだけど。どうかな。
「実際のところ、黒崎さんと姫路さんのどっち狙い何だい?」
「はぁ?狙いとかないし。それにその話題、俺が一方的に遊ばれるだけじゃないか。」
「まぁまぁ。気まずいのは嫌なんだろ?」
「そういう春馬はどうなんだ?」
ここは秘技・質問返し。とりあえず困ったら同じ質問をし返してやれば、その場しのぎにはなる。あとは嵐が通り過ぎるのを祈って、待つだけだ。質問に質問を返すなって?そんなの知らないね。
「僕には許嫁がいるから。」
「許嫁ぇ?この現代でか?」
「あはは。おかしいだろう?でも、僕はそういうのを悪くないとも思っていてね。何より僕の許嫁は可愛いしね。」
「はぁ、そうなのか。なんだか、見ている世界が違うみたいだ。普通、この年で結婚は考えないだろ。」
許嫁。……どんまい、杏里。完全に脈なしだ。しっかし、許嫁か。漫画の世界だけの話かと思っていたよ。そんなの本当にあるんだなぁ。まぁ、婚約と一緒のようなものだもんな。そりゃあ、あってもおかしくないか。
「あはは。そうかもね。それで僕は答えたけど?」
「やっぱ、答えなきゃダメか?」
「ダメだよ。秘密の共有ってやつさ。片方だけが一方的に秘密を知っているなんて状況は、不健全だからね。」
「そうか、分かったよ。とりあえず、二人とは何もない。特に杏里だけはない。」
杏里はあいつは女じゃない。獣だ。俺ではおろしきれない。大体、そういう空気感になるわけないじゃないか。春馬のことが好きって言うんだから。脈なしって分かった今、慰めればワンチャンあるかもしれないけどね。
でも、手出し厳禁だ。恋人関係になった瞬間に人生終了の鐘が鳴るのが分かっている。そんなのには流石に手を出す勇気はないよ。
「へぇ、少しもないんだ。」
「ああ。ない。」
「それで黒崎さんだけはないって言うのは、どういうことだい?」
「だってさ、あいつめちゃくちゃなんだ。一方的に命令してきてはこっちを従わせようとしてくるし、予定通りにいかないとすぐ怒るし、それに割を食うのは絶対に俺なんだ。」
というか、付き合うって言う未来が見えないな。ご主人様と下僕にはなりえるかもしれないけど。あっ、ちなみに俺が下僕ね。言わなくても分かるだろうけど。そんな未来くそくらえだ。俺はドМじゃあないんだよ。
「それで?」
「言葉は強いし、あんなのもう暴言だよ。幸いと言っては何だけど、暴力は振るわれないけど、俺の親に話が行くんだ。勝てっこないのが質が悪い。本当に嫌になるよ。恋人なんかになったら、尻に敷かれるに違いない。」
「あはは。そんなに言うのに、悠馬は黒崎さんと関わるんだ。」
「今言ったことは本心だけど、それでも杏里には助けられているんだ。だからだろうね。その在り方は真似できないし、真似したくもないけど、それでも自分に生きられない生き方をしているのを見ると、な。」
まぁね。なんだかんだ続いているのは、って前にもこんな流れやったな。つい最近。でも、なんだか変な感じだ。ほら、思うのと言葉に出すのとでは、また違ったものだろ?より実感がわくというか。そんな実感わきたくないんだけど。
「あはは。素敵な関係だね。」
「そんなんじゃない。実際、不満の方が多いし。切っても切れない関係なだけ。腐れ縁ってやつだよ。もういいだろ。この話は。」
気恥ずかしい。なんだか頬が熱い気がする。男の赤面なんて需要ないって言うのに。とりあえず、深呼吸だ。落ち着こう。もう、いつもの俺だ。よし。
「そうだね。ちょうど終わる頃だし。」
「いやー、こんなの話したの春馬が初めてだ。他の人には言わないでくれよ。頼むから。」
「もちろんだよ。」
言われたら、死ねるな。うん。学園中に広まった日には不登校になる未来が見える。そしたら、親に家を叩きだされて、行く当てもなく野垂れ死にになる。嫌な未来だな。
「なら、安心した。」




