024
「はぁはぁ。うっ。」
ジェットコースターはまさにこの世の地獄だった。誰があんな乗り物を好きになるってんだ。頭はガンガン痛むし、足元はぐらつく。それに目もぐるぐると回って、きちんと地面に足をつけてるのかも分からん。
何よりも、怖いし。何なん?あのスピード。空気が全身を叩きつけるように感じるし、機械から生身が落ちたら、即死やん。恐ろしい。
「もうっ。苦手なら、苦手だと言ってくれればいいのにぃ。」
「……ごめん。」
「ふふふ。でも、私のためなんだよねぇ。だから、許してあげるぅ。」
そりゃどーも。姫路さんもそこまでの鬼畜じゃなかったか。もう一回乗ろうなんて言ってきたらどうしようかと思ったよ。姫路さんにとっては二度目の土下座を披露しないといけないところだったぜ。
「ありがとう。それと悪いんだけど、少し休ませて。」
「いいよぉ。膝使う?」
「い、いらないよ。何言ってんの?」
何を急に言ってんだ?今はそんなに余裕はないんだ。そういう冗談は元気な時にしてくれ。頼むから。それとも本気で言っているとでも言うのか?姫路さんはそんなキャラじゃないでしょ。
最初こそ天然っぽい感じかなぁ。なんて思ってたけど、全然天然じゃないし。分かっていてやってる節さえある。天然とは真逆の小悪魔じゃね?だから、今更天然アピールしても遅いんやぞ。
「えぇ、そんなに勢いよく断られると、傷つくよぉ。」
「あっ、ごめん。それで、膝を使うってどういうこと?」
「もちろん、膝枕だよぉ。」
「何が勿論なのか分かんないんだけど?」
分からん。さも常識みたいにいわないで欲しい。一瞬そうかもって思っちゃったじゃん。やめてよね。ってか、本当に天然なのか?もはや意味わからんな。姫路さんは天然なの?小悪魔なの?
まぁ、どっちでもいいか。どっちの姫路さんも可愛いし(思考停止)。はっ、こんなんだから、どっちが本当か分からなくなるんだ。でも、正直どっちでもいいしなぁ。ほら、天然も小悪魔も、厄介で可愛いのは変わらないだろ。そういうことさ。
「そう言うものなんでしょぉ?本に書いてあったんだけどねぇ。」
「どんな本読んだんだよ。とりあえず普通のことじゃないので、しない様に。」
「えぇ、小牧君になら、してあげてもいいのになぁ。」
はいはい。小悪魔ポイント一点。ついでに膝枕の件は天然ポイント一点で引き分け中だぞー。どっちが本当の姫路さんか。どうなんだ?
「ほら、もう姫路さんのおかげで元気になったから。」
「そぉお?小牧君がそう言うならぁ。」
助かった。今は構ってられないんだよ。姫路さんのおかげかは知らないけど、もう元気になったからいいけどね。グロッキーな時に変なことを言わないで欲しいよ。全く。反応に困るじゃないか。
「気遣いはありがとね。ほら、次行こ。次。」
「分かったよぉ。」
「さて、次にやって来たのはお化け屋敷です。」
「誰に説明してるのぉ?」
「もちろん、姫路さんだけど?」
それ以外にだれが居るって言うんだ?幽霊でもいるのか?お化け屋敷だけにってか。って、なんでやねーん。はー、おもんなっ。つまらんギャグやわ。急にエセ関西弁になっていることも含めて詰まらんわ。
これを口に出していたら、夢と希望があふれる楽園がつまらん現実に戻ってしまうやないか。勘弁してなー。って、勘弁すんのは俺かー。たはー。……。やめよう。うん。気温が数度下がっている気がする。
お化け屋敷だけにってか。……。二度目はないわな。うん。本当に反省するよ。
「あっ、それはどうもご丁寧に。」
「いえいえ、こちらこそ。」
「いえいえいえ。」
「いえいえいえいえ。」
日本人あるある。もはや謙遜しすぎて卑屈になっている件。謙遜は美徳とされるけどさ、謙遜しすぎると嫌味でしょ?それに謙遜ばかりしてたら、本当に大事な時に人が付いてこないんよなぁ。
自分なんてまだまだですって言う奴のどこに信用ができるって言うんだ。ってこと。まぁ、俺には関係ないけどな。ぼっちやし。……これこそが卑屈を通り越した自虐芸。真の強者しか繰り出せない必殺の一撃だ。
この勝負、勝った。何の勝負かは知らんけど。そこらへんは適当に。
「ふふっ。」
「ははっ。」
「ふふふふふ。」
「あはははは。」
なんだろう。このわくわく感。これがトモダチとのやり取りと言う奴か!?もしかして、姫路さん、俺、トモダチ?だったらいいんだけどなぁ。けど、こういう場面で友達って言って否定されたら心が折れるから、友達じゃないしって言うんよな。分かる。
「何やってるんだろうねぇ?」
「さぁ?でも、楽しければなんでもいいんじゃない?」
「それもそうだねぇ。お化け屋敷、楽しみだねぇ。」
「怖いものも行けるんだね。」
「もちろん。大好物だよぉ。」
姫路さんの気が知れん。怖いものが好きって人間として、生物としてやばいんじゃないだろうか?俺なんて、恐ろしくて、恐ろしくてちょびりそうなのに。えっ?何で来たんだって?そんなの男のプライドに決まってんだろ?
さっきのジェットコースターでは醜態をさらしてしまった。なら、挽回するのなら定番のスポットお化け屋敷だろ。きゃーこわーい。からのヒシっとヒロインが抱き着き、大丈夫とヒーローが肩を支えてやればトュンクってなるんだ。漫画ではそうだった!!
「は、はは。行こうか。」
「ん?もしかしてぇ、苦手だったりするのぉ?」
「はぁ~?そんなわけないしぃ~。」
動揺のあまり、なんか思春期の中学生みたいな反応になってしまったではないか。あっ、いや?動揺なんてしてないし?俺が動揺なんてするわけないだろ~。動揺する理由なんてないんだしな。な~?そうだそうだ~。
「なら、いいんだけどぉ。」
「ほら、いくぞ~。」
「……本当に大丈夫かなぁ?」
何か姫路さんが呟いた気がするけど、何でもないだろ。何でだろうなぁ。お化け屋敷とか非生産的なもの作るのは。無駄やろ。無駄。そんな生産性のないものを作るよりも、もっと世界に役立つものを作るべきだと思うんだよね。うん。
なお、ぼっちや陰キャが生産性とか無駄とか世界のためだとか言い出した時は、大体自分に都合が悪いからであり、そこにあまり理由はない。そう。そのことは分かってるんだ。だけど、そのうえで言わせてもらいたい。
断絶!!ジェットコースターとお化け屋敷。ついでに肝試しも。理由?もちろん、俺が怖いからだ。




