021
さて、昨日はひどい目にあったけど、酷い状況は今でも続いてる。しかし、姫路さんの案で解決できそうなのはいい。まぁ、本当に俺が神崎春馬を誘うのか?という疑問はあるけどな。
別に特に仲がいいというわけでもないのに、誘うなんて変な話なんだがなぁ。逆らってひどい目に合うよりはましか。断られたら謝ろう。昼食の時にでも提案すればいいだろう。
「はぁ~。」
「また、ため息ついてるのぉ?」
「……姫路さん、おはよ。」
昨日に続いて、今日もまた姫路さんか。よく下駄箱で会いますね。同じクラスなのだから当然か。それにしても下駄箱の前って漫画の告白シーンに使われたりするけど、正直汚いってイメージしかないんだよなぁ。
もちろん、日常の象徴だとか、そういうのを表現したいのかなぁ?とか思ったりもするんだけど、現実的に考えてなしだよなぁ。俺はこんなところで告白したくないし。まぁ、告白する相手なんていないんだけど。
「おはよ。今日は驚かないんだねぇ。」
「十分驚いてるよ。ただ、声にならないくらい驚いてるだけ。」
「ふふっ。そうなんだぁ。昨日みたいに大げさに驚かれると、ちょっとショックだからぁ。」
「うっ、それはごめん。」
「いいよぉ。」
そんな風に言うくらいだから、昨日はショックだったんだろうなぁ。本当に申し訳ない。別に姫路さんだからってそんな風に驚いたわけでもないんだけどね。それでもショックなものは、ショックなのかもしれないな。
「あっ、そうだ。昨日のダブルデートって話、昼食の時提案しようと思うから、姫路さんには賛同して欲しいなぁ。」
「もちろん。」
「それはよかった。ありがと。」
「どういたしましてぇ。」
これで退路は断たれた。逃げることはもはや許されないのだ。自分で自分を追い込むなんて馬鹿なことしたなぁ。なんて思ったりするけど、覚悟を決めるためだ。仕方ない。そうじゃなければ、提案したくないし、逃げたいし。
「もう、教室だねぇ。」
「早いね。でも、話す機会はあるから。」
「そうだねぇ。楽しみにしておくよぉ。」
「こっちこそ。」
もはや、見慣れた光景になりつつあるのだろうか。姫路さんと教室に入ってきたら、前までであったならざわつきもしたのだが、今では何にも反応はない。いつの間にかこれが日常へと変わってしまっていたのか。
問題の昼食の時間が来た。授業はどうしたか?昼食の時間が気が気でなかったから、何にも聞いちゃいなかったよ。その代わりと言っては何だが、いつもより時間が過ぎるのが早かった気がする。気のせいか。
「やっと、昼食の時間だねぇ。」
「うん。例の件頼んだよ。」
「もちろん。分かってるよぉ。」
賛同してくれるらしい。いやー、よかったよかった。やっぱりやーめた。とか言われると俺もやーめた。ってしなくちゃならなかった。あれ?そっちの方がよかったんじゃね?いやいやここまで来たら、言いっこなしだ。
「何二人でこそこそ話してんの?」
「なんでもないよぉ。」
「そう?まぁいいけど。あんたも愛理に何か変なことしたら、ただじゃ置かないから。」
あなたのためですのよ?それなのにその態度はないんじゃなくって?……はっ、ついなんちゃってお嬢様語が。杏里、理不尽なり。ここは謀反でもするべきか?……考えただけでも恐ろしい。今、恐怖政治の成功を見たね。
「分かってるよ。」
「まぁまぁ、二人が何でもないって言ってるんだし、心配しなくても大丈夫じゃない?」
「神崎君がそう言うのなら。」
いつもなら、心配なんてしていないわよっ。くらい言いそうなものだけど。神崎春馬効果は凄まじいなぁ。対杏里特攻だ。はよ、くっついてくれ。そして、その狂犬の手綱を握ってくれ。頼んだぞ。神崎春馬。
「お弁当、早く食べよぉ。」
「そうね。そうしましょう。」
「「「「いただきます。」」」」
「あのさ。」
「小牧くん。どうしたのぉ?」
「いやー、この4人で出かけてみたいなぁ。なんて。」
我ながら、切り出し方変過ぎだろ。でも、しょうがないだろ?だって、緊張したんだもん。誰かを誘うとかそんなの慣れてるわけでもないし。頑張った方なんだよ。褒めてくれてもいいぐらいだ。
「いいんじゃないかなぁ。ねっ、杏里。」
「そうね。たまにはそう言うのもいいかもね。」
「神崎はどうだ?」
「いいね。行こうか。」
よっしゃー!これでクエスト達成だ。あとは適当に三人に任せておけば、話はまとまるだろう。いやー、本当に頑張った。流石、俺。こんな達成感はいつ振りかってくらい、胸の中が喜びにあふれてるぜ。
ふっ、こうやって人間は成長していくのだな。今なら何でも出来そうな気分だ。それになんでも許してしまえるだろうなぁ。わはははは。
「じゃあ、決まりだな。日程とかは後で詰めるとして、楽しみだな。」
「そうだねぇ。連絡はどうするぅ?」
「グループ作りましょ。ねっ?」
杏里も杏里でテンション上がってんねぇ。分かるぞ。その気持ち、困難を達成で来た時こそ、喜びは大きいよなぁ。うんうん。最高にハイってやつだな。
「そうしようか。」
「小牧君、日程とかの調整は任せたよぉ。」
「ええ?まじで?」
待って?ねぇ、上げて落とすのは酷ない?ほんと、勘弁してちょ。まさかのチェーンクエストだったか。ほんまに酷いわぁ。やばっ、もう憂鬱だ。こういうことがあるから、人間はやる気の欠片も出ないのさ。全く。
「うん。マジ。」
「分かったよ。」
ああ、憂鬱な日々はまだ続くようです。それにしても、さらっと神崎春馬の連絡先をゲットしましたなぁ。これどこかしらの女子に売っぱらったり出来んかなぁ?そんな伝手もないし、もう誰かしらやってそうだな。
倫理的にもダメだからな。やめておこう。犯罪なのかは知らないけど、最悪そうなってもおかしくない事案だからなぁ。うん。人の連絡先売るの、ダメ絶対。




