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今日一日も終わり、下校をしようという時に俺は憂鬱な気分である。面倒くさい学校というのも終わり、この後の時間は自由なのだ。それなのに、楽しみなどの感情が一切湧き出てくる感じはしない。
昨日までなら、確かに気分よく帰れていたのだ。最近は平和だし、この幸運がいつまでも続けばいいのにって。なんなら、スキップをするくらいだ。実際はしてないけど。
この気分にケチが着いたのも、全部我が幼馴染のせいである。本当にどうしよう。デートなんて無理だろ。あの時からずっと思い続けているし、しつこいくらいだけど無理な気しかしてこない。ため息も出てしまうほどだ。
「はぁ~。」
「あれ、小牧君、どうしたの?」
「うわぁぁああ。」
びっくりした。考え事をしている時に、突然後ろから話しかけられるんだもの。驚いてしまうよ。もしかして、邪魔だったのか?下駄箱の前にいるもんなぁ。邪魔だろうなぁ。はいはい。どきますよ。
「そんなにびっくりしなくてもいいのにぃ。」
「突然後ろから声をかけられたから。」
「ごめんねぇ。」
「それはいいけど。どうかした?」
って、姫路さんかい。本当にびっくりしたんだから。今でも動揺が抜き取れん。しかし、何のようだろう?特に俺にようなんてないだろうし。何だろ?
「小牧君こそぉ。ため息なんて吐いちゃってぇ。どうしたのぉ?」
「あー、何でもないよ。」
「そう?相談したくなったら言ってねぇ。」
「その時はよろしく。」
あー、そう言うこと。お優しいねぇ。あっ、皮肉じゃないよ。ホントホント。否定すればするほど、皮肉っぽくなるけど、本当に皮肉じゃないよ。天使様様だなぁって。それだけだよ。って、俺は誰に弁明してるんだろうか?
「うん。今から、帰るのぉ?」
「うん、そうだけど。姫路さんも?」
「そうだよぉ。途中までだけど、一緒に帰ろうかぁ。」
「そうだね。」
姫路さんと一緒に帰るって言うのも不思議なものだなぁ。それに一緒に帰る意味なんてほとんどないしね。時間にして15分ほどだし。もう歩いてから10分程経過してるけど、ただ談笑しているだけ。
別に用があったわけじゃないのか?まぁ、談笑するだけっていうのも別に構わないんだけどね。
「そろそろ、さっきのこと聞かせてくれともぉ」
「諦めてなかったんだ。」
「小牧君が元気ないと、心配だから。」
「あはは。一応元気ではあるんだけどね。」
それを聞きたかったんだ。本当に姫路さんは優しい人だな。ため息を吐いてる人がいるなら、心配するのも当然のことか。しかし、友人でもない人に声をかけるとかは普通の人は出来ないかもなぁ。
あっ、もしかして姫路さんは俺のトモダチ?そう言うことか。脱ぼっちか?そうなのか?気のせいだったら悲しいから、姫路さんが優しいってことにしておこう。うんうん。
「でもぉ、ため息ついてるからぁ。」
「分かったよ。なんでため息ついてたか言うよ。心配させるのも悪いからね。」
「うんっ。聞かせてぇ。」
「杏里が神崎春馬のことを好きだって言うのは知ってるでしょ?」
杏里が神崎春馬のこと好きだって言っちゃったけど、もちろん姫路さんは知っているよね?知らなかったらまずいんだけど。杏里にボコられる。昔、故意ではないけど杏里の秘密をばらしたら、本当にひどい目にあった。
親から総スカンを食らったからな。まじであれはトラウマ。親に何を言ったのかは知らんけど、謝ってもスルーされるんだもん。地獄だったなぁ。その後、親との関係は元に戻ったけど、代償はデカかったから。
「うん。杏里から聞いてるよぉ。」
「でさ、杏里からデートをしたいから、企画をしておくように言われたんだ。」
「えぇ、小牧君とぉ?」
「ち、違うよ。杏里と神崎春馬のデート。」
まさか、杏里と俺がデートなんてするわけないじゃん。子供の時に二人で出かけた記憶は抹消済みだ。大体酷い目にあった試ししかないから、思い出したくもないものだ。それに子供の時のことだ。デートでも何でもないさ。
「そうなんだぁ。なんだか焦っちゃったぁ。」
「こっちこそ焦るよ。浮気みたいなものでしょ。まだ付き合ってないけど。」
「まだ、なんだぁ。付き合いたいんだぁ。」
「それはそうでしょ。杏里は神崎春馬のことが好きなんだから。」
好きな相手と付き合いたいと願わない奴なんているのか?いるかもしれないけど、それは負い目があったりとか、そういうやつだろ。普通の感覚ではないのは確かだ。男と女の関係なんてよくわからんが。
「そ、そうだよねぇ。でもぉ、杏里はあんまり神崎君の前では話さないからぁ。」
「あはは。好きな男の前でだけしおらしいもんな。」
「ふふっ。杏里に言ってるの聞かれたら、怒られるよぉ。」
「大丈夫さ。怒られ慣れてるから。」
「ふふふ。ダメじゃん。」
いいんだよ。姫路さんに笑ってもらえればそれで。それに杏里は俺が何も言っていなくても、怒ってきたりするからあまり関係ないのさ。大激怒はするかもしれないけど、マジ切れよりはひどくないから。
「あはははは。」
そろそろ、楽しい時間も終わりだ。姫路さんとはここでお別れだろう。解決策は出ていないけれども、心が軽くなったようだよ。それに姫路さんがいい案をこの後にでも、思いつくかもしれないし。
「ねぇ、小牧君。デートしない?」
「えっ?」
「ちょうどいいと思わなぁい?ダブルデート。」
「あ、あぁ。確かにね。いいかも。」
なるほど。いやー、びっくりした。突然にデートに誘われるんだもん。しかし、ダブルデートか。いい案だな。途中で自然と別れられるし、誘うのも自然とできる。神崎春馬の予定さえ合えば達成できるだろう。
今日、この日ほど姫路さんに感謝した日はない。杏里の無理難題を解決できるなんて。これでここ何日かは平和が訪れるだろう。
「名案、でしょぉ。」
「うん。ダブルデートしようか。」
「さっきはドキッっとしてくれたねぇ。」
「それはそうでしょ。姫路さんに誘われたら、それは、ね。」
自分の魅力を分かっていないのかい?少し目を伏して、デートしよなんて言われたら、どんな男でもイチコロだろう。恥じらいながらも、健気に誘ってくれたんだって思ってしまうんだから。
「ふふっ。」
「何?」
「なんでも。小牧君また、明日ねぇ。」
何が嬉しいのかは分からないが、姫路さんが幸せそうならいいか。それにしても、デートに誘われたと勘違いした時のあの場面は忘れられないな。可愛すぎだ。
って、あながち勘違いでもないのか?4人でダブルデートしようって誘われたわけなんだから。今更ながら恥ずいわ。本当にデートに誘われてたんだな。
「うん。またね。」




