002
さて、どうしようか。少し場を置いたからか、落ち着いてものが考えられるようになったが、だからと言って危機的状況が変わるわけでない。どうにかして、口止めしないと。次の日には学園中が敵に回ってしまう。どうしたものか。
それはそれとして、何度見ても姫路さんは本当に美少女だなぁ。清楚という言葉をその身で体現しているみたいだ。腰まで伸ばした髪は黒く艶やかで他の人間の視線を釘付けにすること間違えなしだ。それに下品にならない程度に出るところは出ている魅惑のボディ。当然のごとく、顔は整っている。当たり前だ。言うまでもないことだ。
それらをより引き立たせているのは、姫路さん特有の空気感のようなものだろうか。ふわふわと女の子らしいというか。守ってあげなくちゃと思わせるような。だけど、近寄りがたいほどに真っ白で神聖さも感じるというか。
はっ。そんなこと考えてる場合じゃなかった。とりあえず、口封じをしないと。ふふっ。口封じってだけ聞くと、殺人を今からするみたいじゃないか。……くだらなっ。
「ねぇ、小牧君。」
「な、何でしょう。」
「大丈夫?」
何故か姫路さんから心配されてしまった。何か変なところでもあるのだろうか。うん?心当たりが多すぎて、どれの事か分かんないぜ。それよりも、姫路さんの心配する顔も可愛いな。全く、困るぜ。
「えっ……と。何がです?」
「さっき、思いっきり土下座してたでしょぉ。膝とか痛くなったりとかぁ。」
「あ、はい。大丈夫です。この通り元気いっぱいですから。」
そんなことを心配してくれるとは。寝たふりのことを怒ることもせず、そんなことをしていた輩を心配までするなんて。ちょっぴり、お兄さん心配。誰かに騙されちゃうぞ~。騙す奴筆頭が何言ってるんだって感じだが。
とりあえず。姫路さんは天使ってことで。俺の高速スクワットを披露するぜ。ふふん。実は家では地味に鍛えてるんだよな。……暇すぎて。……。ぼっちだから……。ぼっちじゃないけどっ。
「うん。なら、良かったぁ。」
「いえ、心配していただきありがとうございます。」
「むぅ。」
「ど、どうかしましたか?」
頬を膨らませているその顔もお美しい。ずっと眺めていたいくらいだ。
写真撮らせてくれたりしないかなぁ。撮らせてくれるなら、それを売ってうはうはに。って、あまりにも下種いことを考えちまったぜ。反省反省。
「何でさっきから敬語なのぉ?」
「えっ……と?それはですね。癖みたいな?」
「癖。」
「はい。癖です。」
神妙に頷いているようなその顔もお美しい。ずっと眺めていたいくらいだ。
コピペを疑われるかもしれないが、コピペじゃないぞ。だって、事実だもん。こんな天使の色んな顔を見れば、皆そう思うって、絶対。
「うーん。癖、かぁ。」
「あっ、で、でも慣れてくれば敬語じゃなくなるから。」
「じゃあ、早く仲良くならないとねっ。」
「くっそ、可愛いかよ(そうですねー)。」
「えっ?」
あまりにも可愛すぎて、建前と本音を間違えてしまったぜ。どっちも本音だけど。そして、驚いて目をぱちくりさせてるその顔も美しいぜ。
結論。姫路さんはどんな顔でも美しいし、可愛いんだな。俺もこの世の真理に到達してしまったようだな。
「あっ、間違えた。ごめん。さっきの嘘。」
「えっ?嘘、なんだぁ。」
うおぉ。姫路さんに悲しい顔をさせてしまったぜ。ファンクラブのメンバーとして失格だ。それに一人の男としてもな。
さらに言うと、この状況はちょっとした命の危機だ。この様子を誰かに見られたらと思うと。や、やばい。冷や汗出てきた。
「あっ、それも嘘。可愛いのは本当だけど。なんていうのかな。えっと。ごめん?」
「ふふふ。分かってるよぉ。さっきの仕返し。こっちこそ、ごめんねぇ。」
「あははは。すっかり騙されちゃったなぁ。えへへへ。」
仕返しの仕方が可愛すぎるんだが。どうしよう。さっきの会話、永久保存したい。今、俺の顔大丈夫かな。デレ顔晒してないかな。きもいとか思われてたり。何なら、ちょろっ。とか思ってたり。でも、それはそれでイイかも。
冷静になれ、俺。それじゃあただの変態だぞ。……。うむ。よく考えたら、あながち間違えじゃないし。否定できる要素が見当たらないな。
「姫路さん。鍵を職員室に返しに行くんだよね。」
「うん。そうだけど。それがどうかしたぁ?」
「さっきのお詫びに、俺が返しに行くよ。」
そうして、寝たふりのことは誰にも言わせないぜ。完璧な作戦だ。それに姫路さんといる時間が増えれば、それだけでリスクだけが上がるからな。ここいらで離れておかないと。モブの俺にはつらいものだしな。
「えっ。でも、私が頼まれたことだから。」
「いや、何かしらのお詫びをしないと申し訳が立たないよ。だから、お願い。俺に鍵を返しに行かせて。」
「うーん。分かったぁ。お願いするねぇ。」
ふぅ。まさか断ってくるとは。流石天使様。責任感も強いみたいだな。だが、簡単に折れてくれて助かったぜ。このまま断られ続けると困ったことになったかもしれないからな。
「任されました。だから、今日のことは二人の秘密ってことで、ひとつ。」
「ふふっ。うん。二人だけの秘密、ねっ。」
人差し指を唇の前に立ててウインクした姫路さんは、言葉を失うぐらいに今日一番可愛かった。どのような人間であろうとも、自分にだけそれが向けられたのであれば、抗うことなど出来ようはずもないだろう。
だから、仕方ないのだ。この胸の高鳴りもすべて当たり前のことで、何らおかしなことじゃない。明日には元通りさ。
「姫路さん。さようなら。」
「小牧君。また明日。」