019
昼食の件から、数週間たったがその期間の間は物凄く平和であった。一週間に1~3回ほど例の4人で食事を共にして、ファンクラブのメンバーからは多少きつい目で見られることもあるものの、普通に談笑する程度の仲になった。
ファンクラブの三人には何故か知らないが、気に入られたようで見かけられたら挨拶をされる程度となった。もはや、友達と言ってもいいかもしれない。……いや、よく考えたら友達じゃないか。あいつら(一応、先輩)は姫路さんの話を聞きたがってるだけだし。
こんなに平和だと、外の景色を美しい心で見られるというものだ。桜も散って、その美しさはないけど散ったら散ったで、それもまた趣というものなのだろう。平和というのはやはりいい。
こんなくだらないことを考えてられるのだ。ずっと続いて欲しいものだ。
「最近は平和でいいなぁ。」
「平和でいいなぁ、ですって?」
「あ、杏里さん、何か御用でしょうか?」
げっ。嫌な奴が来た。杏里は絶対に厄介ごとしか持ってこないから。幼馴染とはいえ、よく付き合ってられると自分でも思う。姫路さんも厄介ごとに巻き込まれてたりするんだろうか?
「特集な態度をとっても遅いわよ。それにしても、暇なようね。」
「いえ、なんと言いますか、暇というわけではなくてですね。」
「何か言ったかしら?平和だと呟いてられるほど暇なのでしょう?」
違うよぉ。勘弁してくれぇ。絶対に厄介ごとだなぁ。それも最上級の。その自覚があるからこうやって杏里が責めてくるんだ。杏里も無茶ぶりだって分かって言ってきてるんだよなぁ。ほんと、質が悪い。
「それは何といいますか、……。」
「ん?」
「……いえ、暇です。」
「よろしい。仕方ないから、私があんたに仕事をあげるわ。」
仕事なんてしたくないんだけど?それも給料の発生しない仕事。ブラックもいいところだ。いままで、ブラックじゃなかったことなんてなかったんだけど。とほほ。世の仕事が杏里みたいなのばかりなら、一生ニートでいい。
「いらないんだけど。」
「何か言ったかしら?声が小さくて聞こえなかったわ。」
「いえ、喜んで。」
この地獄耳め。絶対に聞こえてただろ。小声でつぶやいただけなのに。こういうところも厭らしいよなぁ。しかし、もうとっくの昔に諦めている。そんなところは超越しているのさ。嫌なのは嫌だけど。
「最近、ようやく春馬君と昼食を取れるようになったわ。おかげで今までより仲良くなれたわ。」
「気のせいだろ。」
「なんですってぇ?あんたは私と春馬君が仲良くないとでも言うの?」
やっぱり、さっきの声は聞こえてたんじゃないか。同じくらいの声量しか出してないぞ。いや、分かってたけど。ほら、少しはやり返しておかないとだろ?
「昼食のとき杏里はほとんど話してないじゃないか。」
「だって、恥ずかしんだもん。仕方ないじゃない。」
「だもんって、そんな年でもないでしょうに。」
「何よっ。人に言っていいことと悪いことがあるでしょ。」
杏里さん。あなたが言うのですか。常に人に言ってはいけないことを言っているあなたが。主な被害は俺。んー、やめてほしいぜ。無茶ぶりも酷いし。それにしても、女というのは皆こう、なのだろうか。それは嫌だなぁ。
姫路さんもこうなら、姫路さんレベルの無茶ぶりが降りかかってくるんだろ。えぐいなぁ。凡人にゃあ、嵐が去るのを待つぐらいしかできないじゃないか。恐ろしい。杏里の無茶ぶりが可愛く見えるぜ。
「すみません。」
「ふんっ。分かったならいいのよ。それより、愛理とデートしたみたいね。そんなに仲良くもないのにデートに行けるくらいだもの。私と春馬君とのデートをセッティングするのも簡単でしょ。」
「いや、勘弁してよ。普通に考えてみ?そんなの無理に決まってんじゃん。」
これはまさしく最上級の無茶ぶりだな。俺をなんだと思っているんだ。何もかもできるわけではないんだぞ。自慢じゃないが、俺は物事すべてを平均くらいには出来るさ。でも、平均程度にしかできないんだよ。
普通の人が実現できないことは俺には出来ないのだ。なんて言ったって俺はThe・凡人。だからな。隠された能力なんてものもないのだよ。
「何?私と春馬君の仲が、あんたと愛理の仲よりも悪いって言うの?」
「そう言うことじゃなくて。」
「なら、出来るでしょ?」
「えぇ、流石に無理だって。デートだって、たまたまなんだからさ。」
そう、本当にたまたまだ。元々、デートなんて思ってもみなかったんだし。誘ったときはそんなこと考えてもなかったんだぞ?そんな男がデートなんて企画できるか。
「もう一度、たまたまを起こせばいいでしょ?」
「そんな無茶な。」
「無茶でもやるの。」
「はぁ~。分かったよ。頑張るけど、無理でも怒るなよ。」
今回ばかりは無理かもなぁ。なんやかんや運に味方されて達成できていたけれど、杏里の無茶ぶりはきついものばかりだ。年を追ってきつくなっているし。しかし、ここを頑張れば神崎春馬に押し付けられる?
ふふふ。神崎春馬。覚悟しておけ。杏里の無茶ぶりはすごいぞぉ。おまえの苦しむ顔が楽しみだ。そして、俺を救ってくれや。
「絶対よ。」
「はいはい。」
これで平和な日々ともおさらばだな。しかし、今回のは流石に無茶が過ぎるなぁ。どうしよう。しかも、二人で出かけるように仕向けろって意味だろ?現実的に無理でしょ。何で第三者が二人のデートの企画をするんだよ。
文句を言っても仕方ないからなぁ。やるしかないんだけど。でも、文句の一つや二つ出てくるよ。おのれ、神崎春馬。貴様のせいだぞ。




