015
さて、約束の場所には30分以上前に着いたが、案の定姫路さんはいないみたいだな。これで姫路さんがナンパされるなんていう状況には遭わないだろう。昨日みたいなのは姫路さんも勘弁だろうし。
だが、この人通りの多いところで30分か。嫌だなぁ。土曜だし、人が多いに決まっているよな。この駅はデパートとか店舗とかも駅構内に存在するくらいだ。学生たちの遊び場として栄えるのも当然だろう。
どのくらいの時間が経っただろうか。突如として人の量が増えたような気がする。正しくは一部分の人の密度だろうか。何だか嫌な予感がする。というか確定だろう。姫路さんが来たのだ。
というか、俺は馬鹿か?学生が多いことなんて、分かり切ったことじゃないか。こんな状況になることくらい容易に想像できたはずだ。うっかりミスにもほどがある。はぁ、姫路さんをあそこから連れ出すのか。嫌だなぁ。
「ちょっとすみません。」
人の波が凄まじい。前へ進もうとも、全然前に進める気がしない。これ、無理じゃない?最初から無理だったんだよ。どうせ時間が経てば皆退散してくだろうし、もう諦めようかなぁ。時間はまだなんだし。
って、ダメだよなぁ。こうやって考えている間も人の群れは大きくなっているんだから。絶対このままじゃあダメだ。だからと言っても、どうしようもないんだよなぁ。
「通してくださーい。」
徐々に中心に向かっている気はする。それにしても、これは何だというのだ?天使様と呼ばれようが、姫路さんは所詮、人間だろう。それに美少女で性格が物凄くいいと言っても、限度があるだろう。
休日にこんなに人が集まるほどのことでもないだろう。しかも、姫路さんは誘いを断っている?のだろう。それなのにこんなに人が集まり続けるなんて、どうかしてるとしか思えない。
「姫路さん。ようやく、届いた。」
人の群れを掻き分けること数分。ようやく、姫路さんの前へと到達した。というか、本当に真ん中にいたのか。それはそうと姫路さんに何を言えばいいのだろうか。何も誘い文句も考えずにここまで来たから、どうしたものか。
姫路さんも、こちらが何か言うのを待っているようだ。どうしよう。選択肢は三つだ。選択肢なんてなんだか、ギャルゲーみたいだな。さて、ストーリーが進行しそうなのはどれだろう。
選択肢1。この場で改めてデートに誘う。
選択肢2。問答無用で手を引っ張って、その場から去る。
選択肢3。この場を離れて、おうちに帰る。
うむ。選択肢3は流石にないな。流石の俺でも、これが間違えだとすぐに分かる。というか、ここまで来て何もせずに帰るなんてできるわけないでしょ。ここまで来るのに、どれだけ大変だったか。
後の選択肢は二つか。どっちがいいんだろ?なんか、どっちも今後の学園生活が終わりそうなんだけど?でも、一番が一番いいよな。……。狙ってないぞ。前も、駄洒落っぽくなったけど、違うぞ。
「ひ、姫路さん。」
「小牧君?」
「お、俺とデートしてください。」
シーンとした空気が怖い。何、こいつ?ってすべての視線が向けられているみたいだ。そんな大きな声で言ったわけでないはずなのに、それなのにその言葉は辺り一面に響いたみたいに周りの音を消した。
姫路さんの顔を見るのも怖い。まぁでも、ちゃんと約束はしていたのだ。変な風にはならないと、願っている。変には思われてるかもだけど。アハハ(乾いた笑み)。
「いいよぉ。デート、しよっか。」
「ありがとうございます。」
「ふふっ。こちらこそぉ。誘ってくれてありがとねぇ。じゃあ、行こうかぁ。」
いいみたいだ。うえー、今更吐きそう。すごい緊張した。あんな大人数に囲まれた中であんなことを言うなんて、今までの人生で考えたこともなかった。本当に恐ろしいことだ。それに、この後のことを考えると胃がキリキリと痛み出す。
とはいえ、もう選択した後だ。この後は物語の進行に沿って、状況は変わるのみだ。って、己自身で物語を進行しないとだな。この世界はゲームでも何でもないんだから。
いまだにいくつかの視線を感じたりもするが、大方の人間はその場を散り、各々の約束相手であろう人と話をするなり、どこかへ行くなりし始めた。
姫路さん効果のすさまじさを感じる。さっきまで、広場いっぱいに人が溢れ出さんとしているように思えたのに、もう遊べないとなると気を使ったのか、広場が閑散とした様相を見せたのだ。世界は姫路さん中心に回っているのかと、勘違いしてしまいそうだ。
「さっきは姫路さんも大変だったね。いつもああなの?」
「いつものことで、慣れちゃった。それに皆に好かれているのは嬉しいことだよぉ。」
「流石だね。でも、もう少し待ち合わせ場所は考えればよかったね。ごめんね。」
ここは反省点だな。次回があるかは不明だがもし次回があるとすれば、そこらへんにも気を使わないとダメだろう。それに人がいない場所であればいいというわけでもなく、分かりやすい場所でなくてはならないのだ。難しいな。
「ううん。私も休日までこんなことになるなんて、考えてもいなかったからぁ。」
「そう言ってくれると助かるよ。」
デートと言ったら定番の服を褒める。いや、服を着ている女の人を褒める。これは外せないらしい。漫画ではそうだったのだから、そうに違いない。可愛いとか、奇麗とか、そんなことを言えばいいのだろう。たぶん。
それに本当に姫路さんは可愛いのだから、あながち嘘でもない。今日の姫路さんの装いは白のワンピースというものだろう。実際のところ、ワンピースって何?って感じの知識のなさだけど、漫画の清楚系のヒロインがよく着ているのを見る、あれだ。
「それにしても、姫路さんの私服って新鮮だなぁ。いつもは制服だからね。」
「どう?似合ってるぅ?」
「うん。姫路さんの雰囲気に合っていていいと思う。」
ひよった。クラスメイトに可愛いと口にするのは流石にハズイ。こういうところが、人間関係の少なさというものだ。杏里はそう言うことは全く聞いてこないから、そう言う部分は慣れない。話すのは割と平気なんだけど。
「ありがとぉ。小牧君もその服、似合ってるよぉ。」
「そう?恥ずかしいけど、父さんに選んでもらったんだ。女の子と二人で出かけるのは初めてだから。」
「そうなんだぁ。そう言えば、デートだって思ってくれてたんだねぇ。」
男女二人が出かければ、それはデートなんでしょ?昔の偉い人が言ってた。たぶん。しかし、もし違っていたら恥ずかしいどころじゃなくて、痛い奴じゃないか。えっ?まじでデートじゃなかったり?
「ち、違いました?なんか、勝手にそう思ってたけど、デートじゃなかったり?」
「これは立派なデートだと思うよぉ。自信持ってよぉ。」
「あはは。デートとか初めてだから。調べたりしたけど勝手が分からないんだよ。」
安心したよ。デートじゃないと言われたら、どうすればよかったか。逃げ帰っていたところだよ。デートは始まったばかり。もう、アクシデントはあんまり起きてほしくないなぁ。本当なら、それも含めて楽しむものかもしれないけどね。




