014
朝起きたら、7時24分だった。これなら寝坊とかいう理由で、遅れることはないだろう。そこはよかった。でも、家を出る時間まで2時間もない。早く、準備を進めないと。とりあえず、一階に降りよう。
「母さん、おはよ。」
「あら、おはよう。あんた、今日は早いね。」
「ああ。用事があるから。9時10分ごろには家を出る。」
9時10分に出れば、9時30分前には着くだろう。まぁ、信号との兼ね合いもあるから、絶対とは言えないが、30分も時間が後ろになるなんてことは考えられない。
「そうなの。お昼は?」
「いらない。食べてくる。」
「へぇ、あんたが外食。もしかして、彼女とデート?」
「ばっ、んな訳ねーじゃん。考えてもみろよ。俺だぜ。」
デ、デ、デートちゃうし。ただ、女の子と二人で出かけるだけだし。つまり、デートか。……まぁ、でも姫路さんは彼女じゃないし。嘘はついていない。うん。
「確かに。と言いたいところだけど、なんだか怪しいわね。妙に焦ってるし。」
「気のせいじゃね?」
「そう言うことにしておいてあげるわ。」
疑われてしまった。というか、確かにって何気に酷くない?焦ってなかったら、それを信じていたってことでしょ。息子に彼女の一人や二人いることくらい信じろよ。倫理的に二人はダメだけど。
「それより、父さんは?」
「まだ、寝てるんじゃない?」
「ま、ならいいや。」
父さんの服借りようと思ったけど無理かな。実は父さんと身長、体型はほとんど変わらない。少し、父さんの方が大きいくらい。だから、同じ服のサイズなのだ。
何らかの理由をつけて父さんの服を借りれたら、多少は見られるようになったのに。父さんはいまだに母さんとデートするくらいだ。デート用の服くらいあるだろう。まあ、姫路さんとのお出かけは、本当にデートなのかは分からないが。
さて、どうしたものか。手持ちの服は全て似たり寄ったりのものだ。それに服ばかりに時間をかけていることはできない。昼食を食べるというなら、どこで食べるのかとか調べておかないと。他にも何か必要だったけ?
お金?三万もあれば十分だろう。なんだろ。他は思いつかない。デートなんてしたことないんだ。分かるわけない。もう、諦めよう。昨日の俺は馬鹿だなぁ。何が、明日のことは明日の俺に任せようだ。無理に決まっているだろう。
「ああ、どうすればいいんだ。」
「悠馬。」
「あっ、おはよう。父さん。」
「おはよう。で、どうしたんだ。」
「いや、それが……。」
待てよ。言わない方がいいか?めんどくさいことになりそうだし。絶対に母さんにまで知られて、次の日にはここら一帯に話が広がってしまうだろう。
「なんでもない。」
「なんでもなくはないだろう。ほら、言ってみ。力になってやるぞ。」
「なんでもないって。」
父さんに話せば母さんに話が渡って、絶対に話が広がる。それが確信できる。だから、父さんに話すのは嫌なんだ。両親の仲がいいと、こんな欠点もあるのか。困ったものだ。
「梨花には言わないぞ。」
「本当に?」
「本当だ。ほら、言うんだ。」
うーん。いまいち信用ならないけど、ここまで父さんが言っているんだ。言ってしまおう。ここで一人悩んでも、悪戯に時が進んでいくばかりだ。そんな事をしていると、時間がいくらあっても足りないというものだ。
「わかったよ。言うよ。今日、クラスの女子と出かけるんだ。それで服や昼食をどうしようか、悩んでたんだ。」
「なるほどな。服は父さんのを貸してやる。まぁ、昼食の方は自分で考えなさい。そっちのほうが、相手の喜ぶだろ。たぶん。」
「ありがとう。」
助かる~。最初の計画通りに父さんの服を入手できるとは。年をくっている分経験が多いはずだ。俺よりセンスの良い服を選んでくれるだろう。昼食はスマホで今から調べれば、問題ないだろう。
「息子の頼みだからな。」
「父さん。」
「たまにはお前の父さんも役に立つだろう。」
「本当にありがとう。」
「ま、頑張れよ。」
こんなカッコいい姿の父さんを見たのは初めてだ。今の父さんなら十分尊敬できる。いつもはだらしない姿しか見てないからなぁ。いつもこうならいいのに。でも、贅沢は言わないさ。今日の父さんは本当にカッコよかった。
よしっ。昼食もどこ行くか決めたし大丈夫だろ。三件くらい選んだんだ。それくらいあれば、問題ないだろう。それに本当に姫路さんと食べるかも分からないし。姫路さんがあらかじめ店を探しているかもしれないし。その時になったら考えよう。
あとは、父さんの服だけか。このくらい時間が経っていれば、決まっているだろう。どんな服選んでいるだろうか。お任せしたけど大丈夫だろう。普段来ている服に変なものはないし。
「父さん。」
「おお。来たか。ちゃんと選んであるぞ。」
「どれ?」
「ほら、これだ。これなら、間違いないだろう。」
おお。よさげ。めっちゃ気合い入れてる感じでもなく、普段着のような気の抜けている感じでもない。その中間くらいの服装。のような気がする。もちろん、俺にはよく分からないが。まぁ、いいんじゃない。
でも、中はTシャツでいいんだな。無地の方が好かれるみたいな、そんな風習?でもあるんだろうか。それに上着も、なんだか高そうなコートみたいなものでもなく、普通のジャケットだし。
「おおー、いい感じじゃん。流石、父さん。」
「まぁな。これ、店員のオススメだからな。それにネットで見た。」
「なんじゃそりゃ。でも、確かに間違いはないね。」
しかし、ネットで見たか。なんか肩透かしを食らったみたいだ。まぁね。確かにネットで調べるのが一番早いわなぁ。もちろん、間違っている可能性もあるだろうが、そんなことそうそうないだろう。
嘘をついても、見られなくなって収入とかが落ちるだけだろうし。
「だろ。店員を信じるんだ。ほい、持ってけ。」
「ありがと。」
「出かけてくるよ。」
「あんた、頑張んなさいよ。」
まさか、父さんもう言ったのだろうか?そんなわけないよね。そうだよね。父さんのそういうところは信じられないけど、大丈夫でしょ。でも、気づいていないと頑張れなんて言ってこないよなぁ。
「もちろんだよ。」
「忘れ物ないようにね。忘れ物するとダサいからね。」
「分かってるよ。ちゃんと確認した。」
「なら、いいんだけど……。」
こういうところでしつこいんよなぁ。いつもは放任主義なくせに、こういうところだけは突っ込んで聞いて来るんだから。全く。これこそが親なのかもしれないけどね。
「大丈夫だって。」
「あんたがそう言うなら、まぁいいわ。行ってらっしゃい。」
「うん。行ってきます。」




