013
もう、10時だ。緊張するなぁ。いやー、人に電話とかしたことないし、こんな時間にかけていいものか。相手もいいって言ってるんだから、いいんだろうけど。でも、社交辞令なんじゃないか?
だって、相手は学園の天使様だぞ。同じ人間とは言え、住むところが違いすぎるよ。ほら、下民が貴族様に電話を直接かけるよなものだぞ。あり得ないでしょ。
あー、そんなこと考えている場合じゃない。もう、10分は過ぎてるぞ。覚悟を決めろ。ええい、儘よ。ぽちっとな。
「もしもし。」
「あっ、もしもし。小牧です。」
「ふふっ。姫路ですぅ。」
「夜遅くにごめんね。」
「いいよぉ。でも、約束の時間から遅れてるよぉ。」
緊張していたからね。っていうのも、言い訳にはならないよなぁ。電話する時間が遅れたのは確かなのだし。でも、10分程度しか遅れていないのは褒めてほしいくらいだよ。だって、10分で覚悟を決めたんだから。
いや、褒められたことじゃないな。ごめんなさい。はぁ~最近、謝ってばかりよなぁ。
「ごめんなさい。その、連絡するのに慣れてなくて。戸惑ったというか。」
「私、待ってたのになぁ。もう連絡する気無いんじゃないかって思ったよ。」
「ごめんなさい。」
「怒ってないから、大丈夫だよぉ。」
姫路さんは心が広いなぁ。普通なら、怒ってもいいところを軽く流してくれるなんて。まぁ、10分の遅れで本気で怒る方も、怒る方だけどね。それはそれとして、怒られても文句は言えないけど。
「それでも、ごめんなさい。」
「真面目だなぁ。それにしても、驚いたよぉ。」
「変なことしましたっけ?」
「だって、電話かけてくるんだもん。メールで連絡するものとばかり思ってたからぁ。」
あぁ、連絡ってメールのこと。その発想がないもの。俺の中では連絡って言ったら、電話が常識なのだ。ほら、あるだろ、緊急連絡先とか言う奴。それ電話じゃないか。そこから考えたら、電話じゃないか?
「そうなんだ。じゃあ、今からメールで。」
「今はもういいよぉ。また、メールは今度の機会にでも、ねっ。」
「そうだね。それがいい。」
「……。」
「……。」
「……。」
えっと?何かこっちから話さなくちゃならないの?話題なんてないんだけど?ぼっちにはつらいなぁ。こういう場合って、何を話すものなんだ?今日のこと?学校のこと?とりあえず、今日のことをもう一度謝って置こう。
「えっと、今日はほんとごめんね。」
「もう、いいよぉ。しつこい男は嫌われるぞぉ。」
「うっ、そうだよね。」
はい。選択肢ミスったみたいです。好感度が下がっているのが見えます。いやーしかし、直接的な言い方をするね。人によってはすっごく傷ついてしまうんじゃないか?まぁ、俺は大丈夫だけど。
「他の人にしたらダメだぞぉ。私だからいいものを、本当に嫌われちゃうよぉ。」
「姫路さんには嫌われたくないんだけど。」
「えっ?あぁ。大丈夫だよぉ。私はそれだけでは嫌わないからぁ。」
「そう。安心した。」
姫路さんに嫌われるなんて、やばい。今後の学園生活が終わるのもそうだし、姫路さんに嫌われるのはよっぽどのくそ野郎って言う証明みたいものだからな。
「いきなり口説かれたのかと思ったよぉ。」
「そ、そんなことしないけど?」
「しないんだぁ。」
「いやっ。って、前にもこんな会話したような?」
確か、あれは一番最初のことだっけ。初めて話した日に口が滑って。ってほんとに最近じゃないか。なんだか、もう遠い昔のことみたいに思ってたけど、2日前のことじゃないか?この3日間が濃い時間だったからなぁ。
「そうだねぇ。したと思うよぉ。二回目は引っかからないかぁ。ちぇ。」
「ええ。本気で焦るんだから、やめてよ。」
「ごめんごめん。」
「本当にはそう思ってないでしょ。」
「あれ?ばれちゃったぁ?」
そりゃあ、分かるよ。もしかして、バカにしてる?対人関係に乏しいとはいえ、流石に分かるよ。いやー、しかし電話だと、姫路さんの声が近くて、なんだかすごいなぁ。何でも今なら許してしまえそうだよ。
「すぐ分かるよ。」
「ふふっ。ごめんねぇ。」
「全く。そう言えば、姫路さんは本屋で何か買ったの?」
「ううん。何も。」
「そうなの?欲しい本なかったんだ。」
そう言えば、姫路さんは本屋に何を買いに行ったんだろう。何を買いに行ったとかって話は、あの雰囲気ではできるわけなかったし。まぁ、イメージ的には参考書とか?真面目そうだし。
でも、最近知った感じでは、参考書とか買うタイプでもなさそうだしなぁ。
「うん。色々と見て回ったけどぉ、良さそうなのがなかったんだぁ。」
「それは残念だね。他の本屋とかも行ってみたりするの?」
「そのつもりだけどぉ。どこかいい本屋ないかなぁって。」
いい本屋か。これでも俺は色々な本屋を回っていたりする。えっ?見た目通りだって?うっさいわ。まぁ、漫画のために回ってるから、そう言われても仕方ないんだけどね。
そんなことは置いといて、近くの本屋については色々と知っているのだ。その中でも本の種類の多いところを紹介すればいいだろう。
「俺、いいところ知ってるよ。場所、教えようか。あっ、でもなぁ。」
「ん?なぁに?」
「道が分かりずらいんだよなぁ。」
そうなのだ。道が入り組んでいたり分かりずらい。ついでに言うと少し遠い位置にあるから、知らない人が行くと迷ってしまってもおかしくないのだ。分かりやすいところだったらよかったのだが、まぁそんなこと言っても仕方がない。
「あっ、じゃあ……。」
「そうだっ。姫路さん。一緒に行かない?って、何か言った?」
「なんでもないよぉ。うん。いいねぇ。一緒に行こうかぁ。」
ん?今、何かを言おうとしてなかった?姫路さんが何でもないというのなら、何でもないのだろう。それに言いたいことはしっかりと言うだろう。今じゃなくても、また別のタイミングで言うかもしれないし。
「何時行こうか?」
「私は小牧君に合わせるよぉ。」
「じゃあ、明日とかどう?ちょうど土曜だし。」
「うん。それでいいよぉ。10時くらいでいい?」
土曜日の10時か。今日のように遅れないようにしないとな。姫路さんを一人で待たせると今日のようになるかもしれないし。30分は前に付いておかないと。時間も早くないから、余裕だろうけど。
「いいね。待ち合わせは青葉学園前駅の広場でいい?明日は楽しみだね。」
「うん。そろそろ、寝ようかぁ。明日、寝坊するわけにもいかないしぃ。」
「そうだね。おやすみ、姫路さん。」
「小牧君。おやすみぃ。いい夢を。」
明日は姫路さんと二人で本屋に行くのかぁ。んん?もしかしなくても、デートじゃないか?まじかっ。さっきまでの俺は何を考えていたんだ。でも、今更やっぱ無理とかできないし。
明日、どうしよ。待ち合わせが10時からって、どう考えてもお昼も一緒に食べるってことだよなぁ。あー、なんか考えておかなくちゃ。まぁでも、もう夜も遅いし。明日のことは明日の俺に任せよう。おやすみだ。




