012
「……。」
「……。」
沈黙が痛いなぁ。まぁ、正直に言って俺が悪い。この場の雰囲気を悪くしているのは、自分自身だ。さっきのことをそんな簡単に切り替えられるわけない。その思いが出ちゃってるんだろうなぁ。
「……さっきは、ごめん。」
「何がぁ?小牧君は何も悪いことしてないでしょぉ?」
「いや、助けに行くこともできなかったし。」
「それは小牧君だけじゃないでしょぉ?だぁれも助けには来てくれてないよ。それが普通のことなんだよぉ。」
普通、か。誰も助けに入らないのが普通何て、そんなのない。なんて言うのは簡単だが、ついさっき自分もやったことだからなぁ。それに、助けに入れなかったのにフォローされるのはな。ちょっと、くる。
「でも、知ってる人をだよ。知り合いなら助けに行くものじゃないの?」
「そんなことないよぉ。小牧君は気づいていないみたいだけど、あそこの場に何人か学校の人はいたよぉ。それにクラスメイトも。」
「そうなの?」
「そうだよぉ。」
そうらしい。全く見てなかった。というか、あそこの場面でそれだけ周りを見てたってことか。凄まじいな。それにしても、そうか。自分以外にもいたのか。なんて、納得できるわけないじゃないか。
「だから、普通のこと。助けないっていう選択は悪いことじゃあないんだよぉ。」
「そうなのか?本当にそうなのか?」
「第一に、助けるって言ってあの場に割り込んできて、事態をややこしいものにするよりは全然いいよぉ。前にもそんなことがあって、大変なことになったんだからぁ。」
「……。」
とは言ってもなぁ。困っている人がいたら助ける。それが道理というものじゃないのか?しかも、知人だ。それを助けに行かないなんて、それこそおかしなことじゃないのか?分からないな。
「何が不満なのぉ?小牧君は悪くないって言ってるのにぃ。」
「だからこそ、だよ。酷い目にあった方に、助けられなかった側がフォローされているんだよ。まだ、責められた方がマシってものだよ。」
「なるほどぉ、小牧君は責められたかったんだぁ。」
……っ。そう言うことか。ああ。納得だね。俺は責められたかったのか。その上で赦して貰いたかったのだ。いやー、気づきたくなかったなぁ。そんな事。痛いところをつかれたなぁ。
「……そうかもね。情けないなぁ、俺。」
「ふふっ。そんなことないよぉ。」
「いやー、まぁ。これから、直していけばいいんだよな。」
「無理をすることはないんだよぉ。」
姫路さんは優しいな。でも、これは直さなくちゃならないんだ。そうじゃないと、自分で自分を赦せない。最終的に自分のためさ。それに姫路さんも人間なんだ。誰か一人くらいは助けてあげられる人がいてもいいじゃないか。
「でも、このままじゃあ、ダメじゃないか。」
「そんなことないと思うけどぉ。」
「俺はそう思うんだ。」
というかさっき思ったけど、姫路さんってダメ男好き?あまり更生して欲しくないみたいな気配が漂っているんだけど。そんなの気のせいだよな。そうだよな。
「分かったよぉ。でも、無理をして、取り返しのつかなくなる前に他の人に助けを求めるんだよぉ。」
「うん。その時は姫路さんに一番に言うよぉ。」
「ほんとぉ?」
疑われている。まぁ、仕方のないことだよな。疑われるような行動をさっきしたのだし。これからは、信じてもらえるように頑張ろう。
「もちろん。」
「嬉しい。でも、本当に無理はしないでねぇ。約束だよぉ。」
「うん、約束。」
これでいいのだろうか。このまま、姫路さんとの話を終わらせていいのだろうか。このまま帰らせたら、今までと何も変わらないじゃないか。そんなの意味がない。変わると決めたなら、今変わらなくちゃ。
だから、何か。姫路さんを呼び止めて。何かしないと。でも、何をすれば?
「それじゃあね。今日は本当にごめんね。」
「いいよぉ。また、一緒に帰ろうねぇ。」
「うん。またね。」
「バイバイ。」
姫路さんが帰ってしまう。俺が普段やらなさそうなことで、姫路さんと話せること。そんなのあるのか?……。もう少し、姫路さんと話したいんだけどな。……。
あっ、それなら、帰ってからも話せるように連絡先を交換したらいいじゃないか。そうしたら、友達にもなれるかもだし。姫路さんもスマホは持っているだろうし。
「姫路さん、待って。」
「なぁにぃ?」
「そのぉ、連絡先交換しない?ほら、一番に姫路さんに言うって約束したでしょ。だから、連絡先持ってた方がいいかなぁって。」
我ながら言い訳がましいというか。これなら素直に連絡先が欲しいって言えばよかった。いや、でもさ。緊張するよ~。こんなの。相手は本来なら到底かかわることもできないお人なんだしさ。
「どうしようかなぁ。」
「ダメ?」
「っ~。いいよぉ。」
なんだ?姫路さんの様子がおかしい気がする。まさかっ、男が小首を傾げて、ダメ?とか言ったからか?普通に考えて、きもいもんなぁ。自分でも無意識にやったけど。
まぁいいか。とりあえず、姫路さんと連絡先交換できたし。友達ってことでいいよなっ。
「改めて、また明日。」
「うん。またねぇ。連絡待ってるからぁ。」
えっ?今日の夜、早速ですか?流石や。そんな発想なかった。そもそも、緊急時以外に用いようなんて。流石は天使様。ぼっちとはレベルが違うのです。
「あっ、はい。夜の8時ぐらいでいいですか?」
「ふふっ。なぜ敬語なのぉ?うん。それでいいよぉ。」
緊張しているからですけど?だって、相手は学園の天使様だぞ?そんな相手に連絡を約束するのに、緊張しないわけないじゃないか。約束を交わすことすら奇跡的だというのに。もはや、ぼっちのキャパシティを超えてるよ。
「その時間になったら、連絡するよ。」
「待ってるからねぇ。バイバーイ。」
「また、あとで。じゃあね。」




