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 運命の時間がやってきた。そう。昼食の時間だ。神崎春馬も呼ぶという話だったが、どうなったんだろうか。あの後、姫路さんと会話する機会はなく、この時間まで何も分からない状況のまま来てしまった。

 まぁ、いつでも機会はあるだろう。これから、一緒に食べるなんてことがあるかは分からないが、席が近いんだ。自分が誘えば機会くらいはいつでも作れるだろう。


「愛理。今日も一緒に食べよー。」

「もちろん。小牧君も一緒でいいよねぇ?」

「仕方ないから、いいわよ。」


 仕方がないから、か。毎度ながら我が幼馴染は酷いものだ。少しは取り繕ってくれてもいいものを。それを本心から答えるから。全く。ほんと、素直なのか、素直じゃないのか分からないよな。


「杏里は素直じゃないよねぇ。」

「本当のことしか言ってないわよっ。」

「杏里がそう思っているなら、そうかもねぇ。」

「そのにやけ顔は何っ?私の想いも知ってるくせに。」


 想いって言うのはあれのことだろう。神崎春馬への恋心。それを知っておきながら、姫路さんは杏里をからかっていたのか。やはり、ただの天使様なんかじゃあないんだろうな。なんだか、姫路さんも普通の人間なんだろうって、知れば知るほど思う。

 当たり前のことなんだろうけどね。姫路さんは人間なのだから。噂が先走り過ぎて神聖に感じ過ぎていただけなのか。等身大の人間。女の子か。正直、悪かったなと思う。神聖視して、崇められるのなんて普通は嫌だよなぁ。だから、敬語もやめてなのかもな。

 これも全部勝手な想像だけどね。姫路さんの心は姫路さんにしか分からないんだし。考えても仕方ないな。俺は俺らしく接するだけだな。


「拗ねないでよぉ。ねぇ?小牧君。」

「そうそう。杏里、拗ねないでさ。」

「拗ねてないわよっ。二人して何なのよ、もうっ。」


 つまり、拗ねているってことですね。うーん。相変わらず、素直じゃない奴。ちょっとでも素直になれば、そのきつい性格が緩くなるって言うのに。本人にその気がないんだから、仕方ないよな。


「まぁまぁ、神崎君も呼んでるから機嫌直して、ねっ?」

「ふんっ。もういいわよ。いつものことだし。」

「あーららぁ。本格的に拗ねちゃったぁ。小牧君、どうにかしておいてぇ。私は神崎君に話通してくるからぁ。」


 おいおい、姫路さんよ。自分がここまで拗ねさせておいて、放置かい。勘弁してくれよ。ま、今回は必殺の神崎春馬がいるから余裕だがな。それになんやかんや、杏里はちょろいからなぁ。


「はいよ。杏里、神崎が来るぞ。そんな顔してないで、笑顔で迎えなよ。」

「ふんっ。分かったわよっ。これでいいでしょ。」

「それなら神崎もいちころだよ。たぶん。」


 ほら、神崎春馬の名前を出せばこの通り。そうだよな。分かるぞ。好きな人には自分の魅力的な姿を見てほしいよな。それでこそ、って感じだもんな。そんで、失敗して笑われてネタにされるまでが、ぼっちクオリティだが。

 心配はいらんだろう。何てったて、カーストトップグループなんだから。そこらへんはぼっちとは比べ物にならないくらい上手いだろうしな。


「そこは断言しなさいよ。バカ。まぁ、いいわ。あんたに期待するだけ、無駄ってもんだからね。」

「やれやれ早速調子が戻ってるなぁ。まぁ、こっちのほうがそれらしい、か。」


 神崎春馬の前のしおらしさの一割でも、こちらに回してくればかなり平和になるってのに。いっつも我が幼馴染ってやつは、何事にも全力投球だな。それでこそ杏里だけどな。




「この四人で食べるのか?」

「そうだよぉ。」


 神崎春馬と姫路愛理。二人が並ぶと流石に絵になるな。どこかの王子様とお姫様みたいだ。お似合いというのはこういうことを言うのだろうな。普通が入っていけないような神聖な雰囲気。

まぁ、気のせいだろう。ただ、自信のない自身によって、勝手に気圧されているだけなんだろう。ちなみに駄洒落じゃないぞ。駄洒落だけど。狙っていったわけではないというか。つまり、そういうことさ。


「あはは、謎メンバーだね。僕も入ってよかったのかな?」

「もちろんだよぉ。神崎君なら大歓迎だよぉ。ねっ?二人とも。」

「そ、そうね。大歓迎よ。」

「ああ。」

「そう?三人ともがそう言うなら、大丈夫なんだろうね。それじゃあ、今日はお邪魔させてもらうよ。」




「さっきから、小牧君何にも喋ってないけど、楽しくないのぉ?」

「まさか。ただ慣れてないだけ。基本、一人で食べるからさ。」

「そうなんだぁ。これからは私たちと食べようねぇ。」

「いいの?」


 おー、完全にスルーした。強いぞ。姫路さん。ナイスだ。姫路さん。これに突っ込まれたら、ちょっと困ったところだよ。助かったあ。


「もちろんだよぉ。小牧君が嫌じゃなければ、一緒に食べたいなぁ。」

「もちろん、嫌じゃないよ。」


 その言い方で断れるわけないじゃないか。断ったら、敵が増えすぎる。特にここは教室なのだ。そんな場所で断ってみろ。明日から、否この瞬間から周りすべてが敵になるぞ。恐ろしい。


「やった。早速、明日から一緒に食べようねぇ。」

「分かった。」

「か、神崎君は、どう?」


 杏里よ。神崎君呼びなのか。裏では春馬君って呼んでるのに。そして、上目遣いはグッチョブだ。可愛いぞ。うむ。まぁ、神崎のやつは特になんとも思っていないみたいだけどな。ドンマイ。次がある。次が。


「僕かい?僕も、一緒に食べられるときはお邪魔するよ。でも、毎日は無理かな。サッカー部のみんなと食べる時もあるし、生徒会のメンバーで食べる時もあるから。」

「そうなんだ。ちょっと、残念。」

「そうだよぉ。でも、食べられるときは来てねぇ。」

「うん。皆がよければね。また、一緒に食べたいね。」


 にこっと人が好くような笑みを浮かべる。それがあたかも本心であるかのように。どうせ、本心ではないのだろうけどな。そのくらい胡散臭いくらい、奇麗な笑みだ。ああ、これは穿った見方でしかない。我ながら情けないけど、醜い男の嫉妬さ。


「うん。ぜひ来て。いつでも、待ってるから。」

「ほらぁ、こうやって杏里も言ってるからぁ。約束だよぉ。」

「もちろんさ。また、誘ってくれよ。」


 断言はしないんだな。まぁ、神崎春馬という人気者もそこまで暇じゃあないんだろうな。絶対に実現できるってこと以外は、断言しない。約束しない。というのは誠実とも取れるのだろう。


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