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強制ニコイチ  作者: 咲乃いろは
第七章 追い、追われ
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繋がり

ノアとローウェンの二人だけではどうしたって会話が盛り上がることなどない。一応ローウェンが気を遣って一言二言、ノアに話を振ってみたものの、ノアに会話を弾ませる気があるわけもなく、緋彩が去ってから数分で沈黙が降り立った。

だからと言って気まずくなるほどお互いに気を遣う気もなく、ただただ緋彩達が戻ってくるのを二人して微睡みながら待っていたのだ。

そんな時間の真っ只中、ノアなんか後数分で寝てしまうのではないかと思う時、玄関の方で物音と、ヴィムが緋彩の名を呼ぶ声がした。


「!」


伏せていた目を持ち上げ、ノアはすっとそちらの方に目線をやる。驚いてなどいないが、ヴィムの動揺したような声に不審感は抱いているようだった。


「今のヴィムの声だね…、どうしたんだろう?…って、ノア?」


首を傾げるローウェンに返答することもなく、ノアは無言でその場を立った。

そして剣を片手に、ずんずんと玄関の方へ歩いて行ってしまう。





「…放っておけって言ってたくせに」





やっぱり緋彩の名前が聞こえたことはきになってしまうのか、とローウェンは眉を下げて笑った。














「ちょっ、ヒイロ!どうしたんだよ!」


ちょうどノアが玄関に来た時、慌てたヴィムの声がしていた。見れば俯く緋彩の肩をヴィムが支えている。

一瞬だけ目を眇めたノアは、二人に近寄って腰が砕けそうな緋彩の腕を掴んだ。

はっとした彼女の目が持ち上がると、その瞳はすぐ気付くほどに揺れていた。




「どうした」




怪訝な目つきを緋彩に向けたまま、ノアはヴィムに訊ねる。緋彩が答えられる状態じゃないことくらい、見れば分かる。


「いや…、それが、こいつらが…」


そう言ってヴィムが目線で指す男達はまだそこにいて、だが先程までの笑みは消えていた。人懐っこそうな表情と雰囲気はどこへやら、目の前のものを敵とみなし、思い通りに行かなくなった状況に、不満と苛立ちを募らせた迷惑げな顔。

それと、突然現れた長身の男が邪魔だと言いたげな目が、ノアのそれとかち合った。


「…何かしたのか」

「あ?俺らは何もしてねぇよ。その嬢ちゃんが勝手に驚いて腰抜かしそうになっただけだろ」

「何かしたから驚いたんだろうが。頭悪ぃ会話はしたくねぇんだよ、俺は」

「…っ、」


鋭い刃物のような眼が、男を穿く。答えなければ射殺すぞとでも言っているようだった。視線を向けられているわけでもないヴィムまでもが生唾を呑むくらい、凍てつく眼だった。

とは言っても、本当に男達は身に覚えなどないと、顔を引き攣らせた。何もしていないのに謝ってしまいそうなほど、ノアの眼が怖かったのだ。


「ほ、本当に何もしてねぇよ。それどころか、その嬢ちゃんとはまともに会話もしてねぇし…」

「嘘だと思うならそっちの餓鬼に訊いてみりゃいいだろ!俺らは元々この餓鬼と話してたんだから、それに入ってきたのはその女の方だろうが!」


確かに、男達の言っていることは何もおかしいことなどない。ノアが確認するような視線をヴィムに向けると、ヴィムは戸惑いながらもコクリと頷いた。


「た、確かにこいつらにしつこくされて困っていたけど、別に手を出されたわけでもないし、何か暴言を言われたわけでもねぇよ…」

「だったら何でこいつはこんなになってんだよ」


氷点下を下回るノアの目は、いつの間にか迷惑そうなものに変わっていて、面倒そうに緋彩を引っ張ってとりあえず床に座らせる。緋彩は膝の力が抜けてしまったかのように、ペタリと腰を下ろした。


「俺だって分かんねぇよ…。こいつらが薬を無理やり押し付けようとしてきて、それを見た途端いきなり…」


固まってしまったかのように顔色を青褪めさせ、倒れそうになったという。

ノアは薬という単語にピクリと眉を動かした。そしてまたギロリと男達を睨む。


「……それ、見せろ」

「なっ、何だよ…!お、俺らだって仕事でやってるだ、け…、っ!」


殆ど無理やりに男達から奪い取ったそれを、ノアは手の上で広げて見つめた。そしてそれが何なのかすぐに理解すると、目を伏せて力なく座り込んでいる緋彩に少しだけ目線をやる。何の目線だったかは分からない。ただ、前にもこれを見た時は、同じようにいつもの鬱陶しい程の元気をなくしていた。


「ヴィム、お前こいつ連れてローウェンのとこ行ってろ」

「は?何で…。ていうか、ヒイロは大丈夫なのかよ?」

「精神的なものだ。何か美味いもんでも食わしときゃ元に戻る」


人を単純馬鹿のように。…間違いではない。

ヴィムはよく理解しないままに、だが確かに緋彩は休ませた方がいいと思ったのか、分かったと頷いて、緋彩と一緒に奥の方へ戻っていった。






「で?」


緋彩とヴィムの姿が見えなくなるのを確認すると、ノアは少し笑ったような、だが目は一ミリも笑っていない顔で男達に目線をやった。顔が整っているだけにちょっとした表情でも妙に様になるし、そこから醸し出してくる空気は人並み以上に強烈だ。

唐突にそんな顔を見せられた男達はビクリと肩を揺らし、一歩退いた。


「な、何が…」

「とぼけんなよ。お前らガンドラ教の人間か?」


この町にまでガンドラ教が広まっていたとは思わなかったが、可能性としては決して低くはなかった。アラムが薬の実験台を探していて、作った薬を広めようとしているのなら

頷ける。もう世界中に広がっていてもおかしくはない。


あの、悪趣味な薬が。


「ちっ、違う!俺らは雇われただけだ…!」


男達はノアの威圧感に負け、もう取り繕う努力すらせずに正直に答え始めた。


「ガンドラ教の奴らに、この薬を配ってこいと。報酬も良かったし、配るだけなら簡単だし、俺らの他にも同じことしてる奴らはたくさんいるぞ…!」

「雇われた…」


こうなると、この男達のような末端で動いていた者達には何も知らされていない。こいつらを雇ったというガンドラ教の人間も詳しくは知らないだろう。

この薬のことも、アラムの存在も、不老不死のことも。

いくら凄んだって叩いても埃しか出てこない奴らに余計な時間を費やす必要はない。用は済んだからさっさと帰れと言いかけたところ、ノアははたと何かに気が付いて動きを止める。





「………仕事内容はそれだけか?」





何処か不審感と危惧を募らせた、


嫌悪感すら感じる目が、


男達をそれまで以上に締め上げる。






ひっと声を引き攣らせた男達は、上ずった声で必死に答えたのだ。






「かっ、少し瞳が赤味がかった小柄の、頭の悪そうな女…っ、を!白銀の髪の男といるその女を見つけたら知らせろと…!」








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