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強制ニコイチ  作者: 咲乃いろは
第七章 追い、追われ
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訪問セールス

ノアが言うや否や、玄関のドアがノックされる。ドンドンと大きな音を立てて、決して上品ではないノックではあるが、借金の取り立てのように外から怒号が飛んでくるわけでもなく、無理やりドアを壊して入ってくる様子もない。単にガサツな客が来ているだけのようだった。

だがヴィムの怪訝そうな表情を見るに、来客の心当たりはないようだ。母と息子、二人暮らしの家、しかも親子共々家に訪ねてくるような知り合いもそうそういない。どうせセールスか何かだろ、と渋々立ち上がったヴィムを、緋彩はこの世界にもセールスとかあるんだ、と感心した様子で見送った。





「やっぱり不老不死とは関係なさそうだね」


ヴィムが来客の対応に行った後、一番にローウェンがそう呟いた。


「そうですね。どうやら栄養不足で成長がなかなかうまくいかなかったようですね」

「チッ…それだけか…」

「不謹慎ですよ、ノアさん」


舌打ちしたノアに緋彩がピシャリと窘める。ノアは不老不死に関することとなると、しばしば周りが見えなくなることがある。自分の印象など気にしない性格も相まって、奥歯に衣着せなさすぎる物言いをするので質が悪い。

そんな時は大抵、三人の中では一番社会性がある大人と思われるローウェンがノアを窘める役をするのだが、この時ローウェンは別のことを考えていたようで、ノアの暴言は聞こえていなかったらしい。顎に手を当て、さも思慮深く考えているかのようにふむ、と頷いた。


「母親もちらっと見ただけだけど、健康体ならさぞ美人で若く見える人だろうと思う。ヴィムが十四歳なら少なくとも三十は超えているだろうに、二十代前半と言われても信じるだろうね」

「お前はちらっと見ただけで一体何をどこまでチェックしてんだ」


一番社会性のある大人は女性へのチェックも念入りだ。そういえば思い返してみると、彼は緋彩に惚れたとか言って同行してきたのだったことを忘れてはならない。

だが確かにローウェンの言っていることは頷ける。今は痩せこけてしまっているが、母親は元々相当美人だ。その息子であるから、ヴィムも年齢相応の成長をしていたとしても幼く見えていたのかもしれない。見た目は幼児の身体である今でさえ顔が完成されていると思えるのに、本当に彼が順調に成長していたとしたら、どんなにイケメンになっていたことだろう。もしかしたらノアをも凌ぐ超絶美形が完成されていたかもしれない。


「…ヴィム、遅いですね。大丈夫かな?」


セールスの勧誘にしては時間がかかり過ぎている。ヴィムのあの性格なら結構だとキッパリ跳ね除けてすぐにあしらって帰ってきそうだったのに、彼が席を立ってからもうすぐ十分が経とうとしている。

緋彩はちょっと見てくると言って玄関に向かった。ノアは放っておけと言ったが、緋彩のような少女でも、一人より二人の方がお断りする威圧感は強いというものだろう。








「ヴィムー、大丈…、」


ぶ、と緋彩の声を掛けながら廊下の角を曲がると、玄関で対面する男性二人とヴィムが目に入る。人の良さそうな笑みを浮かべる男性、それに困惑したような表情のヴィムは、どう見てもしつこいセールスと迷惑がっている客だった。


「そう言わずにさ、お金取るわけじゃないんだから試してみてよ」

「これできっとお母さんの病気も良くなるから」


男性の手には小さな紙袋がある。どうやらこれをヴィムに渡そうとしているらしい。


「だから結構だっつってんだろ。母さんは別の薬飲んでるし、得体の知れない薬なんか飲ませたくない」

「大丈夫。限られた人にしか知られていないから、世間にはあまり広まっていないけど、こっちの界隈じゃ有名なんだ」

「ヴィム!」


グイグイと推してくる男性が、ヴィムとの体格差を利用してももはや家の中に入ろうとしていたので、緋彩は思わず大きな声で彼を呼び、駆け寄った。


「ヒイロ」

「どうしたの?こちらの人達、お知り合い?」


知り合いじゃないことくらい見れば分かる。緋彩はわざと壮絶な訊いて敵意を孕んだ視線を男性達に向ける。彼らから優しそうな笑顔は消えないが、それに人の心は感じない。

ヴィムは違う、と首を横に振った。


「なんか無料で薬を配っているから、母さんに試して見てほしいって」


いらないから帰れと言っても引かないから迷惑している、とヴィムは男性達に聞かせるように言う。そんなことではへこたれない営業力の男性は、薬?と疑念をぶつけた緋彩の視線ににこりと微笑んで紙袋の中身を取り出した。







「そう。一部方面で今話題の、()()()なんですよ」







見た瞬間は真っ白な、


だが見る角度を変えると赤黒い、





人の血の色の。







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