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強制ニコイチ  作者: 咲乃いろは
第六章 響く助力
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光を宿す場所

ローウェンは一応傭兵として必要な体力だとか筋力だとか、技術も鍛えてはいる。傭兵の中でも割と強い方でもあるし、体力もある方だとも思う。けれど、所詮は人間であって、無限の体力も精神力はないのである。

龍の卵を抱えて(しかも割と重い)逃げ続けること二時間弱。ただ走り続けるだけであったら丸一日くらいは大丈夫なのだが、荷物を抱えて龍の攻撃を避けながらというのは倍の体力を削られる。龍は大きな図体の割に動きは素早く、それでも最初は簡単に避けていた攻撃は、疲労が溜まった所為でギリギリで避けるのが精一杯になってきた。

脂汗を拭い、激しい呼吸を繰り返しながら、ローウェンは今更ノアと緋彩に同行するという自分の判断が間違っていたのではないかと疑った。

強靭な兵士達数十人を集めてやっと倒せるような龍の相手を、たった一人に任せたまま一向に巣穴から出てこないし、緋彩に至っては何かを叫んだままノアを追い、こちらも戻ってこない。応援しかしていなかったので、どこにいようと特に支障はないのだが。

疲労とか苦しさとか虚しさとかを通り越して、ローウェンは遠い目をしながら逃げ続ける。




「もう卵捨ててもいいかな…」




自分はこんなところで何しているんだろうと思い始めると、してはならないことが頭に過ってくるのだ。ぽつりと呟いた声が、龍に理解されないことを願う。

そしてふと、いつの間にか自身と並んだ人影がローウェンの視界に入る。







「何してんの、お前」

「────…!?」







周りがドッカンドッカン爆音が鳴っている中で、空気を読まないような呑気な声。目線をやれば、怪訝そうな顔をしたノアがいた。


「ノア!?何って、あんたに言われて囮になってたんでしょうが!」

「龍の気を引いてろって言っただけだ。卵持って隠れてれば良かっただろ」

「あ」


逃げ続ける必要などなかった。疲労が倍になった気がして、ローウェンは思わず卵を落としそうになる。

とにかくノアが戻ってきたということは、もう足を止めていいということだ。ローウェンは卵を元の場所に戻そうと、龍の攻撃を上手く避けながら踵を返すと、そういえばノアが何かを抱えていることに気が付いた。


「…え…、ヒイロちゃん?どうしたの?」

「知らん」


ノアの背中でぐったりとする緋彩に目を瞬かせて訊ねるが、ノアもよく分かっていない。とりあえず持ってきた、とでも言いたげな表情だった。


「とりあえず法玉は手に入れた。俺はこいつ連れて先に行ってるから、あと頼むぞ」

「え?頼むって…、え…えええええええええっ?!」


荒ぶる龍の相手を一人で、しかも疲れ切ったこの身体でしろというのか。

ローウェンはすっかりノアの便利道具と成り果てた。












***











「ああああああああ疲れた……。僕もう一歩も歩きたくない…」

「それは朗報だ。ずっとここにいたらいい。俺たちは先に行く」


ローウェンが卵を元の場所に戻すと、龍はいくらか機嫌を直してくれた。それでもしばらくは気性が荒く、ローウェンの姿を探したり警戒を強めていたが、時間が経つとそれも徐々に凪いでいった。今は卵を守るようにして眠っている。

出来れば谷底から脱出したかったが、ローウェンは疲れ果てているし、ノアも緋彩を抱えたまま歩き続けたくはないという。龍の巣穴からは少し離れた、峡谷の底を通る川の上流までは歩き、そこで今晩は夜を明かすことにした。


「それで?ヒイロちゃんはまだ目を覚まさないの?」

「さっき一度目を開けたが、腹が減ったと呟いてまた眠った」

「ははっ、元気そうで良かった」


巣穴から出てきた時には真っ青だった緋彩の顔色は通常に戻り、今は規則正しい寝息と腹の虫の音色を轟かせている。ノアも緋彩のことはただ激しい頭痛を訴えて倒れたとしか分かっていなかったが、今の様子を見る限り元気そうである。


「ヒイロちゃん、ノアを追いかけて行った時に法玉の場所分かりそうな気がするって言ってたけど」

「ああ。実際、法玉を見つけたのはこいつだ。道など殆ど分からないあの中で、しかも魔法で隠された法玉を的確に捉えて見つけ出した」

「どうやって…」

「詳しくは本人に訊かねぇと分からない。気を失うほどの頭痛と何か関係がありそうだが」


ふと、緋彩に流したノアの目線が険しい。いつもの鬱陶し気なものでも、不審気なものでもなく、困惑と思慮を深くしていくことに躊躇っているような。




荷物の中で布に包まれている法玉が、それでもそこにあると分かるくらい光を宿していた。







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