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強制ニコイチ  作者: 咲乃いろは
第六章 響く助力
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闇の中の案内人

何かがおかしい。


何か引っかかる。



微々たる違和感を、気にしないではいられない。













三十分程はそうしていただろうか。

ノアは出てくる様子はなく、ローウェンは走り続け、緋彩は頑張って応援をする。緋彩の声は熱烈な声援で枯れ始めている。不毛な時間に体力も精神力も削られ続け、それは何よりもローウェンが一番顕著だった。


「これ、いつまで、逃げ、続ければ…!?」

「あっ、ローウェンさん止まっちゃ駄目です!後ろから龍が…!」

「うおっ!?」


龍の爪がローウェンを捉えようと地面を抉る。間一髪で逃れたローウェンは、ヘトヘトになりながらも何とかここまで逃げ切っている状態だった。だが、もう限界が近い。


「ヒイロ、ちゃん!ノア、はまだ…?!」

「えっ、と…、姿はまだ見えません!」

「早く、して、くれ…!」


ドカンドカンと襲ってくる爪や牙を交わしながら、ローウェンは何とか龍の気を引いている。もし龍が勘付いて巣穴に戻るようなことがあってもいけない。だが、それももう時間の問題だった。

緋彩はローウェンの必死な顔とノアが入っていった巣穴を交互に見、そしてぐっと歯を食いしばる。


さっきから何か変だ。

疲れているくらいで体調の悪さなどなかったはずなのに、妙に頭が重い。爆音に鼓膜が耐えられていないのか、目眩がして視界が歪む。


何か変だ。




その()()の答えが、緋彩には何故か何処にあるか知っている。






「ローウェンさん!わ、私!ちょっと見てきます!!」


「えっ!?ちょっ…、ヒイロちゃん!?」






行ってもきっと何も出来ないだろう。

足手まといになるだけかもしれない。


だけど、捜し物は人数が多い方がいいだろうし、一人より二人の方がきっと怖くない。


それに、




「なんか私!法玉の場所分かりそうな気がする…!」


「ええええええ!?」




根拠のない自信を吐き捨てて、緋彩は巣穴の方へ駆け出した。








***








何かがおかしい。


何かが引っかかる。



それは違和感だとしか言えないくらいに微々たるもので、目の奥と脳が繋がるその場所が僅かに痛むくらい。明日は雨かな、と思うくらいの偏頭痛で、谷底まで来ているから気圧の変化たと言われればそうだ。


緋彩自身、そう思っていた。


今でもそう思っている。







「ノ、ノアさぁぁん…、どこにいますかぁ…」


入り口から少しでも奥に入ると、光は届かなくなる。外だってそんなに明るくはないのだから当たり前だ。

少しだけ闇に慣れた目を眇めながら、緋彩はこの暗闇でも目立つであろう白銀の髪を探した。


いや、違う。


「探すのは法玉…」


ノアの様子を見てくるとは言ったけれど、本当にそれだけならただの足手まといになることは分かっている。それでも危険に飛び込んできたのは、別の理由があるから。


「…いっ…たいな、もう…」


緋彩はこめかみを押さえて、重い足を前に出し続ける。巣穴の中は何があるか分からないし、何が出てくるかも分からないし。恐怖だってあるけれど、進み続けていく度に強くなっていく頭の痛みは、何かに反応しているかのようだったのだ。

それが何なのか、突き止めなければいけない衝動に、緋彩は今駆られていた。

ザリ、と踏み出した一歩と同時に、ガラスが割られたような痛みが目の奥に走る。


「……っ!」


緋彩は思わずその場に膝を折り、手で額を覆う。そこは熱を持っているようにも、酷く冷たいようにも感じた。

今、自分に何が起こっている?

この痛みは何に反応している?

そこに心臓があるように、脈打つ痛みが視界を歪ませる。とても立てそうにはなくて、呻き声を噛み殺すように手で覆った頭を地面に擦りつけた。


段々と、痛みは強くなっていく。


段々と、意識は遠くなっていく。


何のためにここにやってきたか、忘れていく。


何のために走り出したか、忘れていく。


誰のために、痛みを我慢しているのか。


この痛みは、自分だけのものなのか。







「────…ロ、」







自分だけに許された痛みなのか。




「───…い、──イロ」




自分だけが、




「おい、ヒイロ!」

「────…!!」




止まっていた呼吸を再開させるみたいに、緋彩は大きく息を吸った。反動で酷く咽る。冷たい空気と湿った風が身体の中に入ってきて、神経を叩き起こした。


だから分かる。


背中の大きな手。




「…っげほ…っ…、ノ、ノアさ…?」

「…お前…、何でここにいる?待ってろっつったろ」

「す、すみませ…、」


暗闇でも分かる紫紺に光る瞳、白銀の髪。まるでそれは灯火のように、そこにいると示しているようで。


「ローウェンはどうした?」

「ま、まだ頑張って逃げてますけど、早くしないとローウェンさんも危な…、…っ!」

「っ?」


表情を歪ませてバランスを崩す緋彩の身体は、ノアの胸で受け止められる。互いに本意ではないけれど、そうも言っていられない状況だということも分かる。

ノアは緋彩の顔を覗き込むようにして首を傾げた。


「…どうした?」

「い、いえ…、何も…。それより、法玉は?」

「見つからない。暗すぎて視界が悪すぎる」


夜中より深い闇に、人間の目は機能しない。懐中電灯とか松明とか何でもいいから光源を用意しておけば良かった。

全ては後の祭りで、今は今出来ることをするしかない。

今感じることを信じるしかない。


「ノアさん」


ノアの胸をぐっと手のひらで押し、緋彩は自分の力で立ち上がる。

グラグラと揺れる視界も、恐怖で震える足も、痛みで不規則になっている呼吸も、全てなかったことみたいに、堂々と立っている。




「ついてきてください。私が案内します」




闇の中を。







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