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強制ニコイチ  作者: 咲乃いろは
第六章 響く助力
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コンビネーション

全身を覆う鋼鉄の鱗、蛇のように伸びた体躯に、鋭く光る爪や牙が今にも獲物を捕らえんとしている。それだけの剛堅な鎧に纏われているのに、どこか神々しさを感じるのは瞳の美しさの所為かもしれない。黄金色に光る水晶が、全てを見透かしているかのように輝いていた。


「綺麗な生き物…」

「何言ってんのヒイロちゃん」


思わず溢れた言葉に、ローウェンはぎょっとして突っ込む。人間を丸呑みするような生物に対する感想ではなかったようだ。

谷底まで降りてきて目にした龍は、離れたところからでも見上げなければならないほど大きかった。端の方に出来た巣穴を守るようにそこに鎮座している。


「この辺探し回っても見つからないのなら…、あの中だな」

「まじで行きます?」

「何の為にここまで降りてきたんだ」

「ですよね」


やっぱり怖いからやめよう、なんてノアの口から出てくるわけがない。一生かけても聞けない台詞だろう。

ローウェンが提案してくれてもいいのだが、彼も剣に手をかけ、戦闘態勢は整ってしまっていた。


「龍とは一度戦ったことあるけど、この時期の龍は産卵時期で気性が荒い。しかもあれはメスの龍だ。ちょっとした刺激でお怒りになるから気を付けないとね」

「気を付けろよ!」

「何で私にだけ言うんですか!」


ノアがビシリと緋彩を指差す。絶対に何かを起こすと疑われている。警戒は龍の方にしてほしいものだ。

表情は二人とも変わらず平和だけれど、法玉奪取の為に打ち合わせする声はどこか緊張感が滲む。


「僕が龍の気を引けばいいんだね?そんなに長くはもなたないだろうから、早く頼むよ、ノア」

「法玉の在り処次第だ。巣穴の奥、もしくは巣穴が思いの外深かったら約束は出来ない」


さすがにノアも一人では無理だと思ったのか、渋々ながらもローウェンと手を合わせて法玉を手に入れる決意をしたらしい。まだ納得はいっていないのか、ローウェンに向ける視線は敵意だ。ローウェンは気にも止めていないようだが。

ちなみに緋彩は何をすればいいかと問うたら、二人声を合わせてじっとしていろと言われた。息は合うようで何よりだ。


ノアが巣穴と言っているものは、もう殆ど洞窟だ。龍の身全てを中に入れる用には出来ておらず、頭くらいしか入りそうにはないが、それでも人間にとっては大層大きな穴だった。


「行くぞ」


ノアは短く言って動き出す。ローウェンが後に続き、龍の目を盗んで遠くから回り込んで行った。緋彩は龍から遠く離れたここで待機だ。二人の様子がよく見えるので、何かあれば力になれないこともない。意気込んだらノアに睨まれた気がした。分かりましたじっとしておきます。










ノアは東から、ローウェンは西から、龍を両側から挟むような陣形で近づいていく。龍の死角に入り、お互いに目配せすると、先にローウェンが龍の前に姿を現した。


「こっちだ!」


大きく声を上げるローウェンに、龍はまんまと意識を取られる。グルル、と喉を鳴らして、湯気を立てたような息を吐いた。黄金色の瞳が、ローウェンだけを捉えた。

途端にローウェンは走り出し、龍を巣穴から引き剥がしに掛かった。上手くついてきてくれるかと振り返りながら全速力で駆ければ、何とか龍は動き出したようだ。

だが、どうも動きが鈍い。ローウェンが全速力で走らなくても捕まらないくらいだ。


「…何でだ?」


一旦ローウェンは足を緩め、ノアの方を見る。

ノアは龍が動いた場所から巣穴に入るところだった。入って、出てくるまで何とか龍を巣穴から遠ざけておかなければならない。このままでは龍はすぐに巣穴に戻ってしまいそうだと思っていたところに、ノアの声が響く。


「ローウェン!」

「!」


次の瞬間、ブン、と何かを投げて寄越される。枕ほどの大きさもある白い玉。何を渡されたか全く分からず、ローウェンはとりあえず落とさない方がいいという勘が働き、慌ててそれを両腕で受け取る。


「なななな何っ…!…、………、な、に……」


少しだけ温かい、硬い殻のそれ。

慣れ親しんだ大きさとは全く違うので、最初はピンとは来なかったけれど、よく見てみれば形や色はよく知っているものだ。

鳥類の物とよく似たそれ。

抱き締めたままローウェンは、ゆっくりと龍に目線をあげた。


「……………まじで?」


黄金色だった瞳の色は赤みを帯び、ゴロゴロと鳴る喉の音は唸り声に変わっていた。

間髪入れずにノアの指示が飛ぶ。


「持って走れ!」

「…っ、…無茶言うな…っ!?」


龍がそれまでそこで守っていたもの。ノアに投げ渡されたそれは、紛れもなく龍の宝物。

愛する子どもたちが生まれてくる卵だ。

それを目にした龍は血相を変えてローウェンを追ってくる。全速力で走ってやっと逃げられるくらいに動きは機敏だ。

遠くで緋彩が動きだけで応援をしている。


「何っつーコンビだよ、こいつら…!」


囮を買って出たのは自分だが、他人を犠牲にして目的を果たそうとする横暴なイケメンと悪気があるのかないのか、それを応援するちょっとネジの緩んだ少女に、ローウェンは同行することを決めたことを、少しだけ後悔した。


ローウェンが龍の気を引いているうちに、ノアは空いた巣穴の入り口から中へ入る。中は暗闇で外からは何も見えなかったけれど、ノアのことなので、緋彩もローウェンも何も心配していなかった。心配なのはただ、ローウェンが龍に追いつかないかということだ。ここでは龍は羽を広げるスペースがないため飛べないようだが、もし無理に飛んで追いかけてくるようならこちらは一溜まりもない。

早く、ノアが法玉を手に入れて出てくるのを祈るばかりだった。








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