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強制ニコイチ  作者: 咲乃いろは
第六章 響く助力
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伸ばされた手

そんな。


いくら肉食だからと言って、あまりにも肉食が過ぎないだろうか。人肉が好きだなんて。




だが考えてみれば、龍にとっては獣の肉だろうが人間の肉だろうが変わらない。ただ好みの問題で、肉の中でも人間が好きだというだけだ。人が豚肉より牛肉が好きだなぁ!と言っているレベルの話なのである。

育った環境が違うのであれば、好き嫌いは否めない。龍を責めるつもりはないけれど、じゃあ仕方ないから自分の肉を食っていいよ、ということにはならないのだ。


「じゃあ超危ないってことですか?」

「そうだね。ヒイロちゃんなんて丸呑みだよ」

「ひいぃ!」


いくら緋彩が不死だからと言って、丸呑みされたら意味がない。寧ろ龍の胃の中で生き続けるなんてどんな罰ゲームだ。


「だからついてこなくていいっつってんだろ。お前はどっかその辺の洞窟にでも隠れてろ」

「嫌ですよ!一人にしないでください!」


足手纏いはいらんとノアは先程から繰り返している。緋彩だって好きで人を食う龍になど会いたくもないが、お留守番となると一人になってしまう。ローウェンも珍しいから見に行ってしまうらしい。


「まあまあ、女の子が襲われるのを放っておくことはないでしょ。ね、ノア」

「俺が知るか。お前がどうにかすればいいだろ」

「だって僕、自分の身を守るので精一杯だよ。龍に太刀打ちできると思うほど、僕も身の程知らずじゃないからね」


つまり、龍は凶暴だということ。ノア達についていっても危険だし、留守番をして龍からは免れても、その辺にうじゃうじゃといる野獣も怖い。ノアは大人しく隠れていれば大丈夫だと言ったが、緋彩に大人しくしている自信はないのだ。

一人で死ぬよりは誰かに看取ってもらった方がいいだろうと、緋彩はノア達についていく方を選んだ。





「ヒイロちゃん、こっち、手貸して」

「あ、ありがとうござ…うひぃ…!」

「下向かないで。平衡感覚なくなるよ」

「は、はい」


深い深い峡谷。断崖絶壁という言葉に強く頷くほどの崖を、緋彩達に三人は下へ下へと降りていく。当然人が通るための道などあるはずもなく、自然に出来た岩壁の段差を見つけながら進んでいく。ノアが先頭を行き、ローウェン、緋彩と続くが、ノアはまるでそこが整備された道かのように、難なくホイホイと足を進めていく。ローウェンも慣れた様子で殆ど躊躇など見えなかったが、問題は緋彩だ。足下はすこしでも踏み外せば仄暗い谷底。底が見えない程の高さというのは、こんなにも恐怖を煽ってくるのかと思う。今日は風が強い日でもなかったというのに、下から巻くように吹き上げてくる風が身体のバランスを奪っていく。


「っと…こ、こわ…」

「大丈夫、ヒイロちゃん大分バランス感覚はいい方だ。慌てなくていいからゆっくりおいで」

「は、はい…」


ノアはただの一度も振り向きはしないけれど、ローウェンは何かと緋彩の世話を焼いてくれていた。もしこれがノアと緋彩の二人だけだったら、恐らく緋彩は今頃谷底へ真っ逆さまである。


「すみません、ローウェンさん。余計な手間を…、」

「全然。か弱い女の子にこんな獣道は荷が重すぎる。振り返りもせずさっさと進み続ける奴の顔が見てみたいよ」

「ですよね」


そう言いながらも緋彩とローウェンはノアの背中をじっと見つめるが、気付いてないのか気にしていないのかその振りなのか、彼の足取りに変化はなかった。

寧ろ、下に降りていく度に少しだけ足を速めているようにも思えて。


「ちょっ…、ノアさん、ちょっと待って…っ、速っ…────…っ!」


緋彩の視界はガクン、と揺れる。

それからだった。踏み出した足の下が脆く、谷底に消えてしまったと理解したのは。


「ヒイロちゃん!?」

「!」


一瞬、宙に身体が投げ出され、すぐに目に映る世界が上に引っ張られていく。

いや、緋彩が落ちているのだ。




「っや───…っ!」




緋彩に出来ることはただ、驚いて息を呑むことだけ。恐怖を感じる暇も、状況を理解できる時間もなかった。

そうしている間に、肩が脱臼してしまったような衝撃が走る。


「───っつ…っ!」

「ヒイロちゃん!」


ぶらん、と振り子のように身体が宙で揺れる。パラパラと土や崩れた地面の欠片が、足の下へ吸い込まれるように落ちていった。

緋彩はローウェンが咄嗟に掴んだ片腕だけで現実と繋がっているようで、それより下は闇だった。多分抜けてしまった肩の痛さも分からないくらいの恐怖が広がっている。


「ヒイロちゃん、大丈夫!?ほら、そっちの手も掴まって!」

「ローウェン、さん…っ、駄目です!ローウェンさんも落ちちゃう…!」


ローウェンも身を乗り出している状態だ。いくら緋彩が華奢だからといって、これで支えにしているもう片方の手も緋彩に差し出してしまったら、ローウェンごと引き摺り落ちていく。

緋彩は伸ばすローウェンの手に掴まることは出来ないのに、ローウェンはそれでも早くと急かしてきた。腕を掴む彼の手が滑っていく。片腕で人一人を支えておくには限界がある。


「ヒイロ、ちゃん、早く…!」

「わ、私なら大丈夫だから離してください。最悪、落ちても死にはしな──、」

「ふざけんな」

「!」


ローウェンを道連れにしてしまうのが一番避けたいと、無理に腕を掴む手を離させようとした時だった。ローウェンのものではない、別の手が緋彩の方へ差し出される。


「……ノア…、さん」

「落ちたら死ななくても俺に影響が来るだろうが。ふざけんなよ」

「……あ……はい…。すみません…」

「分かったら早くしろ。パンツ見えてるぞ」

「!?!?!??!!」


下から吹き上げてくる風で、スカートが全開に巻き上がっていた。だからさっきからローウェンが目を逸らしていたのか。






明けましておめでとうございます。

今年も馬鹿な二人を宜しくお願いします。


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