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強制ニコイチ  作者: 咲乃いろは
第六章 響く助力
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弟子入り

寧ろ先程よりも目を爛々と輝かせ、ローウェンは緋彩の両手を取った。手が丸まるくらいに強く握りしめ、新緑の瞳の中はキラキラと光が瞬いていた。


「……え…、あの、ローウェン、さん…?」

「やっぱり僕の目は間違ってなかった!ガンドラ教の本部から帰る時、怪我してても気力を振り絞る君に惚れたんだ!世の中にはこんなに気持ちの強い女性がいるって!」

「…ローウェンてめぇ…、あの時起きてたのか…」


感嘆の溜息さえ漏らしそうなローウェンに、ノアが額に青筋を浮かべて睨む。大の男を必死に担いで歩いた地下通路。ノアは相当疲れていたし、容易に切り抜けたわけではなかった。

それなのに、緋彩の怪我からの一連の状況を知っているということは、つまりそういうことなのだ。


「いや、起きたのは途中からだし、どちらにしろ指一本動かせなかったから状況は変わらなかったよ。助かったよ、ノア」


ありがとうと手をヒラヒラと振るローウェンに、ノアの青筋は一本増える。


「…っ、っ大体、同行したいって言ってたのは苦しんでる奴らを助けたいからだろ。ヒイロと何の関係がある?」

「だからヒイロちゃんに惚れたんだよー。どんな状況でも屈しない心、弱音を吐いたと自覚し、気を持ち直す精神力。メンタルが強い女の子って魅力的だからね!」

「趣味悪ィな、お前」

「ちょっとノアさん!?」


ローウェンも確かに緋彩に変なフィルターをかけて見ているが、本気で不信感を募らせるノアに、聞き捨てならないと緋彩の額にも青筋が浮かぶ。

元凶となったローウェンが、まあまあと二人を宥める。


「魅力的な女性ってもっと長く見てみたいものだ。だから君達に同行させてほしい」

「苦しんでる人の助けはどうした!」

「え?僕は最初からそんなこと言ってないよ、ノア」

「…………………」


きょとん、とするローウェンに、緋彩もノアも動きを止めてここまでのあらすじを振り返る。巻き戻して二倍速で振り返った結果。




「「確かに」」




緋彩とノアの声が揃うなんて奇跡だろうか。今日は天変地異でも起こりそうである。

確かにローウェンは、苦しんでる人がいるんだろうと確認はしてきたが、その人達を自分が助けたいとは言っていない。


「ね?確かに、僕と同じような目に遭った人は助けたいと思うし、それも目的として嘘じゃない。けど、人を勇気づけることの出来るヒイロちゃんの側にいたらきっと僕もヒイロちゃんみたいな強い人間になれそうだと思って!」

「…いや、その…」

「是非、弟子としてそばに置いてほしい!」

「もしもーし」

「いいよね、ヒイロちゃん!」


キラキラとした目に見つめられて、緋彩は何とも言えない表情になって戸惑う。好意を寄せられることは悪いことではない。こんなに純粋に自分を認めてくれる人など、人生でどのくらい巡り合うことが出来るだろう。出来れば彼の要望に応えてあげたいとも思うけれど、こればっかりは緋彩の独断で決められるわけでもないし、ローウェンをこれ以上危険に晒すこともできない。

どうしたもんかと視線を彷徨わせながらもごもごとしているところに、ノアの顔が目に入る。


「ノアさん、どうしましょう……」

「…………………」


ノアから鬱陶しいという表情は消えていなかったけれど、ローウェンの熱量に拒むことすら面倒になったのか、どこかで何かを悟った目をしていた。

そして、短い溜息をついた後、踵を返して緋彩とローウェンを置いていきながらポツリと呟く。




「いいんじゃね…?」




もう、何でも。


声にはなってない続く言葉が聞こえた気がした。




「ちょ…!ノアさん!?匙を投げたでしょ!?ちゃんと考えて下さいよ!」

「知らん」

「ノアもああ言ってることだし、これから宜しくね、ヒイロちゃん!いや師匠!」

「師匠って言うなーーーー!!!」
















***
















アランドの町を抜けると世界が変わったかのように閑散としてしまった。住宅どころか建物の陰はどこにもなくなり、自然豊かな草原が広がっている。日は暮れてしまっていて視界はあまりよくないが、昼間なら壮大な景色が一望できるだろう。

その一角に一行は天幕を張った。拾ってきた木を組み合わせて、そこに布を被せただけの簡易的なテントだ。


「野宿かぁ。久しぶりだなぁ。ヒイロちゃんたちはよく野宿してるの?」

「まぁたまに」

「へぇ、すごいなぁ。傭兵でもないのに、ヒイロちゃんみたいな女の子が野宿に耐えられるなんて、本当に尊敬するよ」

「ハハハ、耐えられてるわけじゃないですよ」


緋彩だって出来ることなら野宿なんぞ避けたい。現実はタイミングよく宿がなかったり、金がなかったりで世知辛い世の中なのだ。令和の世になってこんなに野宿の経験をするなんて思わなかった。いや、令和の世だからこそか。キャンプとかはやってるし。日本に帰れば緋彩はきっと立派なキャンパーになっていることだろう。

といっても、野宿になった時に緋彩に出来ることは精々火を熾すことくらい。修学旅行での火熾し体験の経験が活きている(と思っている)。

料理も一応挑戦してみたが、食材を切る時点で断念した。ジャガイモの皮を剥いたらミニトマトくらいの大きさしか残らなかった。味付けもイマイチ自信がないのでノアに任せている。緋彩が任されていることと言ったら、鍋が焦げ付かないように監視しておき、いい具合になったらノアを呼んで知らせるというキッチンタイマーのような使われ方をしている。

ローウェンは傭兵職をやっているからか、野宿は日常茶飯事なのだろうが、最近はご無沙汰だったという。だが手慣れ具合はさすがと言うべきで、緋彩が火種を作るのに苦戦しているところを簡単に大きな炎に仕上げたり、ノアと同じスピードで野菜の皮をシャリシャリと剥いていた。

心強い料理男子が二人もいてくれるお陰で、今日の夕食の準備は手早く進み、いつもより早い時間に食事を摂ることが出来た。

だが、新しいパーティメンバーが増えたという気疲れがあったのか、緋彩は食事中にも関わらず激しい睡魔が襲ってきていた。中身が入ったままの器を持ったままコクリコクリと舟を漕いでいたので、スープが溢れ落ちそうになる。勿体無いことになる前に緋彩の手首をパシリとローウェンが掴んだ。


「大丈夫?ヒイロちゃん」

「…あ…、…はい、ごめんなさい…」


はっと意識を持ち上げて目を擦ったが、眠気は取り払われなかった。せっかく作ってくれたスープも殆ど口にしていない。

何とかこれだけでも食べてしまおうと、緋彩は眠気を誤魔化すように瞬きを繰り返した。スプーンを何度か口に運び、野菜の甘みを喉に通していけば目は覚めると思っていた。

だが、そんな緋彩の考えは甘い。敵は強かった。

再び瞼に強いられる重力が先程よりも強力だ。器を握る手に力が入らなくて、今度こそ器ごとスープを溢してしまうと思った。




だが、その前に緋彩の手から器は奪われる。




「!」




はっとすると、無感情の目が緋彩に落ちてきていた。





「お前もう寝ろ」


「……ノアさん」





食べながら寝るなんて子どもか、とか、勿体無いことすんな、とかそんな辛辣な言葉にならもっと対応できただろうし、眠気も覚めたのだろうけれど、睡魔と戦う緋彩を諌めるようなノアの声に、緋彩は頷くしか出来なくなっていた。






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