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強制ニコイチ  作者: 咲乃いろは
第五章 定まる的
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待ってた人

落ち着かない。


昨日まではあんなに楽しく仕事をし、意外にもテキパキと行動して立派な戦力になっていたというのに、今日の緋彩は何だか人が変わったようにぎこちない。


「どうしたの、ヒイロちゃん。具合でも悪い?」

「ソンナコトナイデス。スゴクゲンキ」

「そう?無理しないでね」


仕事仲間の女の子も動きが怪しい緋彩を気にかけてくれる。スゴクゲンキなのも嘘ではない。だが、今日は昨日までのようなスムーズな動きを期待しないでほしいとも思う。



何故なら、緋彩限定の監査が入っているからだ。



眼鏡の中から覗くのは鋭くも艶やかな紫紺の眼光。同じ人間とは思えないほどの端正な容姿、異人を思わせる白銀の長髪とバランスの取れた体躯。目立った行動はしていないのに、そこに足を組んで座っているだけで周りの女子が色めき立っている。

毎日見ているからちょっと感覚がおかしくなっていたが、やっぱりこいつはこの世界でもおかしいくらいのイケメンなのだ。




「ちょっとノアさん!」

「あ?」


水のお代わりを持っていく振りをして、緋彩はノアに小声で詰め寄った。


「ちょっと変装するか、そのイケメンオーラしまってくれません!?目立って私が落ち着かないんですけど!」

「だから眼鏡かけてるだろ。俺が目立ったってお前には関係ないだろうが」

「関係な、いけど!なんかこう、参観日のような気分なんですよ!教室の後ろで自分の親が派手っ派手のピンクのヒョウ柄でバチバチのメイクして自分より親の方が目立って恥ずかしいやつ!」

「なんか知らんがあんま話しかけんなよ。今俺とお前は無関係だ。店員と会話しすぎると怪しいだろ。無闇に目立ちたくない」

「……っ、」


お前が言うか、と緋彩は腕を下ろしたままで拳を作った。もう既に誰よりも目立ってる奴に言われたくない。悪目立ちすることを恐れている気があったのなら、その一番目立つ白銀の髪をちょん切ってやろうか。

だが冗談ではなく、容姿の良さを増長させるようなこの髪だけでもどうにか出来れば大分場は和む。緋彩はしばしその場で考え、何かを思いつくとノアにちょっと待っててくださいと言ってバックヤードの方に下がっていった。

そして何分も経たないうちにノアの元に戻ってくると、目にも止まらぬ速さでノアの髪を一つに結い、持ってきた黒いキャップ帽を被せてその中に髪を捻じ込んだ。


「痛って…!何しやがる!」

「これで大分マシでしょ。ちなみに帽子は借り物なので用が済んだら返してくださいね」

「ふざけんな。何で俺がこんな…」

「例の人が来た時、ノアさんが目立ってたらなかなか接触しづらいでしょ。これでちょっとはイケメン感抑えられてますから我慢してください」

「………」


ノアは尚も不服げだったが、緋彩の言っていることには何も言えなくなったのか、大人しく帽子を被ったままでいた。それにしても意外にキャップが似合っている。やはりイケメンは何をしてもイケメンなのか。


それから、緋彩が気になったという人物はその後も現れなかった。また来るという保証はなかったし、当然といえば当然なのだが、この店に来たということしか手掛かりはなかったので、暫くまた訪れることを期待して様子を見るしかない。

その間、ノアはちょっとした変装で店に通い詰めることになるし、緋彩は宿でじっとしておくのも勿体無いと続けて働くことにしたので、何だかノアが緋彩目当てで通い詰めているファンのような構図になってしまった。

そうノアに冗談っぽく言ったら、その日から店の中にはいらなくなってしまった。すぐ近くにいるから例の人物が来たら知らせに来いということだ。


そして、それは4日後のことになる。





「ノ、ノアさん!来ました!あの人、来ましたよ!」

「!」


緋彩は制服のまま、店の外で飲み物を飲んでいたノアに慌てて知らせに言った。

また来たのだ。あの人物が、この間のように顔色も悪いまま、何かに怯えて、今にも倒れそうに、この間と同じ席に座ったのだ。

ノアは緋彩の知らせを聞くと、無言で飲んでいたものを緋彩に押し付け、店の中に入る。ちなみに押し付けられたカップは空で、ゴミを渡されただけである。


「どこだ」

「あ、あれです。隅の、二人がけのテーブルに座ってる…」


ノアを追う形で店の中に戻った緋彩は、反対を見ていたノアに、違うと隅の方を指差した。緋彩の指の先を追ったノアは、そこに目を眇め、そして小さく息を吸う。何かに驚いたように。


「ノアさん?」

「…あいつは…、」


何度見ても緋彩にはこの店以外では見たことのない人物だ。それが誰で、ノアの反応に心当たりもなかった。ただでさえ知り合いなんてこの世界には少ないのだから当たり前だが、今回はそういうわけでもない。





「ローウェン」





ノアだってやっと名前を思い出したくらいの人間だったのだから。





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