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強制ニコイチ  作者: 咲乃いろは
第五章 定まる的
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疑念

結果ノア達三人は、SSランクが一匹、Sランクを一匹、Aランクを一匹の収穫した。SSランクはノアが一人で、SランクとAランクは三人で力を合わせた結果だ。正直、恐らくノア一人で三匹とも倒していたのだろうが、それではノアだけが働いていることになり、三人で分けようと言っていた報酬をラクスとローウェンがもらうのは忍びなくなる。二人はビビりながらも自分たちも闘わせろと言ってきた。

ノアの読み通り、ラクスとローウェンの実力も相当なものだった。Sランク相手にも苦戦はしたが、ノアが殆ど手を出さないまま勝ってしまっていた。

このクラスのものを三匹も倒してしまったら、問題なのは運搬だ。分割してもとても一回では持てる大きさではなかったので、二回に分けて運んだ。ノアとラクスが運び、ローウェンは野獣泥棒対策で見張り役だ。ノアが見張りをすると言ったのだが、思いの外ローウェンの筋力がなかったために結局ノアがSSランクの野獣を一人で運ぶことになる。細身の体躯にえげつない力だとラクスもローウェンも目を剥いていた。


そんな一日を過ごしたノアは、慣れない仕事というよりは人間関係に疲れ果て、宿に戻ってきた途端にベッドに突っ伏した。


「おやおや、お疲れですねノアさん」

「…………」


ノアよりも一時間遅く帰ってきた緋彩だが、一日中仕事をしていた割には大した疲れは見せず、少なくともノアよりは生き生きとしていた。通ってきた山の中とは完全に立場が逆転している。

そのことに優越感を感じたのか、緋彩はベッドに埋まっているノアの周りをチョロチョロと動き回り煽ってみせる。すぐに足を掛けられて転ばされた。


「いたぁ……。…そんなに大変だったんですか、野獣討伐」

「……お前は元気そうだな」


横に逸らして右半分だけを見せたノアの顔はどんよりと曇っている。緋彩の元気な姿が余計疲れを増長させるのだ。


「まぁ、私だって一応疲れましたけど、結構楽しかったので。山の中でのノアさんのスパルタ登山に比べたらなんてことないです!」

「どんな仕事だったんだ?」


珍しくノアが緋彩のことに興味を抱いているのに驚き、緋彩はえ?と目を瞬かせた。普段だったら良くてあっそ、と冷たい返事をされるか、平常運転だったら無視か罵倒だ。


「どんなって…うーん…、何と言うか、言葉にするのは難しいというか…」

「…言葉に出来ない仕事…」

「簡単に言えば、ニコニコして飲み物とか料理とかをお客さんに出したり、衣装?みたいなのを着ると喜んでもらえる仕事です!」

「…………」


楽しくお金稼げるっていいですねぇなんてホクホクする緋彩とは逆に、ノアは無言で訝し気な表情を濃くしていた。

ちなみに、一日で稼いだ資金はノアも緋彩もほぼ同じ、裏を返せばSSランクの野獣を倒して稼いだノアと緋彩の賃金は同等だと言うことだ。あまりに割の良すぎる仕事だが、緋彩自身は全く疑ってはいなかった。

これで野宿から免れる、とルンルンな緋彩を余所に、ノアはむくりと身体を起こして浮かない顔を滲ませていた。


「お前、明日も同じとこで仕事するつもりか?」

「え?あー、まぁはい。時間の許す限り稼いだ方がいいかと思いますが。私の布団とご飯の為に!」

「…………あ、そう」

「?」


意気込む緋彩にノアは最後まで怪訝な表情をしていたが、そのうち考えることに飽きたのか、寝る、と一言言ってパタリと意識を失った。














***














資金は充分に稼ぐことが出来たが、今後の余裕のある旅生活の為に、ノアも緋彩も翌日まで同じ仕事をする。緋彩は鼻歌を歌いながら出掛ける始末で、相当仕事を楽しんでいるらしかった。

そんな緋彩を横目で見ながら宿を出たノアも、今日もラクスとローウェンと一緒に野獣の討伐をする予定だ。予め待ち合わせをしていた森の入り口に着くと、ラクスが一人手を振って待っていた。


「あいつは?」

「ローウェンのことか?なんか今日は急用が入って来れねぇって。今朝早くに連絡あって、ノアにも宜しく言っといてくれってことだったぞ」

「…あそう」


となると今日は二人での討伐となり、戦力が減りはするが報酬の分け前も多くなる。ローウェンが来ないということにノアは箸にも棒にも掛からぬ返事をしたのだが、それがラクスには残念がっているように見えたのか、俺がいるから落ち込むなよ、と励ましてきた。都合のいい頭で何よりである。


「何かあいつ、あんな一見綺麗なナリしてて、苦労してるみたいだったぞ。話聞くと、昔はもう少し体格も良くて筋力も随分あったみたいだけど、仕事掛け持ちして忙しくしていたら痩せちまったって。何とか剣の腕だけは落ちないように努力してるみたいだけどよ、それも仕事の為にやってるだけで、趣味とか好きなこともする暇なく働いているらしいぜ」

「……そうか」


いつの間にそんな踏み込んだ話までしていたのか。ラクスとローウェンが話していても、ノアの耳には必要不可欠の情報しか入ってこなかったので全く知らなかったし興味もなかった。人が全て幸せな人生を送っているとも思わないし、不幸な人生を送っているとも思っていない。それぞれがそれぞれの理由があってその人生を歩んでいるのであって、緋彩ではないんだから他人の人生に移入する感情などノアは持ち合わせていないのだ。


「でも心配だよなぁ。そんなに働き詰めで身体壊さなきゃいいけど」


ラクスは人並みに人道的だ。大雑把で豪快で単純な脳筋だが、人の心を察することが出来、寄り添うことができる。腕っぷしも強いし、彼を頼りがいのある男だと評する人は少なくないだろう。

歩きながら帰りにローウェンのところ行ってみるか、と呟くラクスは多分面倒見もいい。ノアはそんなこと真っ平ごめんだと誘いたそうな彼の視線を無視した。



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