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強制ニコイチ  作者: 咲乃いろは
第三章 暗躍する不老不死
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嫌いな理由

不老不死というのは対になるものであって、本来両者は切っても切れない関係、老いない、死なないという時の流れに逆らった呪いが、互いに複雑に組み合わさることでバランスを保って存在している。そんな絡んだ鎖のような状態を無理矢理解き、不老と不死、別々の人間に分かれてしまったのだ。

影響しあって不老不死という普通では考えられない状態を保っていた呪いは、それでも健気にバランスを保とうとする。離れたお互いを保つために、共鳴することでまた互いを補い合うのだ。


「まあ、実際不老不死については不明なことが多いから、論理的な理由はまだ分かっていない」


長々とした緋彩への説教が終わった後、ノアは緋彩との関係を自分もあまり納得していない表情でそう締め括った。それもそうだろう。緋彩が怪我をすればノアには伝わるのに、ノアが怪我をしても緋彩には伝わらないのだ。




緋彩たちは、緋彩が少し休んだ後、泊っている宿の一階にある飲食店で膝を突き合わせていた。例によってノアのお金なので、ノアは香り高い茶、緋彩は無料の水を飲んでいる。


「バランスを保つためだと言うのなら、ノアさんが受けた影響も何か私に伝わらなければそれは成り立たないですよね?」

「不老不死の最終目的は不死だ。怪我や病気による死を奇跡的に避けられたとしても、人間には老いによる死はいずれやってくる。それを防ぐための不老であり、不死の為の不老と言える。バランスを保つと言っても、その影響力は互いに同じではない」

「?」

「分かんねぇなら掘り下げようとすんなよ」


きょとんと首を傾げる緋彩に、ノアは額に筋を浮かべる。

へぇ、とか、うんうん、だとか分かったような相槌をするくせに、最終的にはこうして首を傾げるのだ。せっかく丁寧な説明をしても、暖簾に腕押ししているような気持ちになるのだ。その癖緋彩の疑問は的を得ている気もするし、全く分かっていないというわけでもない。


「ううううんんん…難しくてよく分かりませんが、不死は大事だから影響がダイレクトに不老にくるけど、不老はなくてもまあそんなに困らないから影響は少ないということですか?」

「…………まあ……、そういうことだ」

「何で睨むんですか」


緋彩は大事だがノアはなくてもまあ困らないと聞こえるように言った緋彩が悪い。

緋彩は本能的に理解はしているが、解釈に多少の棘があることに自覚はないので、ノアの妙に納得いかない感情も宙ぶらりんとなる。


「でもやっぱりそれじゃあ不公平ですよねぇ。ノアさんからの私への影響とかもあるといいのに」

「馬鹿じゃねぇの。自分も苦しむ方がいいなんて、ドMかよ」

「だって、ニコイチなのに私はノアさんのピンチに気付かないかもしれないんでしょう?私だってノアさんを助けてみたい!」

「………どうでもいいけどそのニコイチってやめろ」


鳥肌が立つような嫌悪感を滲ませて、ノアは低く唸った。本当に嫌がっている。

だが、そんなに嫌がられると逆に攻めたくなってしまうというのが人の性というものだろう。緋彩は満面の意地の悪い笑みを浮かべてノアに顔を近づける。


「ええ?じゃあ運命共同体!とかの方がいいですか?」

「もっと嫌だわ!お前の運命に俺を巻き込むな!」

「ノアさんの運命に私を巻き込んだのノアさんじゃないですか」

「…………」


ご尤もすぎて二の句が継げない。

たくさん寝て体力が満タンになったからか、今日は緋彩の理屈がノアの言葉を奪う場面が多い。緋彩にノアを言い負かしてやろうだとかいつもの仕返しだとかいう悪気がないのが、余計ノアの琴線に触れるのだろう。口を噤む度に眉間の皺が増えていく。

それでも緋彩はいつも食い掛ってくるノアが黙ることに悪い気はしないようで、ご機嫌でグラスに差してあるストローで意味なくクルクルと中の水をかき混ぜる。


「ノアさんって何でそんなに私のこと嫌いなんですか?」

「嫌いなのかって訊くところが嫌いだ」

「え、じゃあ訊かなければちょっとは好きですか?」

「喋らなければあるいは」

「そんな」


腕を組んでぶすっとするノアの目からは嫌悪感しか感じない。確かに迷惑はかけたし苦しませたかもしれないけど、緋彩だって本意ではないのだ。逆に何がそんなに気に入らないのかとも思う。


「ちょっとは仲良くしてくれてもいいのになぁ。どうせノアさんはこれから私が死なないよう監視しないといけないんですよ?離れられないんなら多少の良好な関係は築くべきだと思うんですけど」

「何でお前そんな偉そうなんだよ。監視しなくてもいいように護身術くらい学べ」

「えー?学んだってたかが知れてますし。それに、ノアさんが護ってくれた方がノアさん自身の株が上がりますよ」

「そんなもん上がらんでいい」


とことんノアは自分のことに興味はないらしい。第一、世間体を気にするくらいなら、この性格はないだろうけれど。何を言っても緋彩と仲を深めようとする気はないとするノアだったが、緋彩ははたと気が付いた。

────前より無視される頻度が少ない。

罵倒だろうが悪口だろうが嫌みだろうが、一応緋彩の言葉に返ってくるものがある。八割方無視されていたあの時から比べると驚くべき進歩だろう。

仲良くはしてくれなくても、会話が出来ればまだ希望はある。緋彩は謎の確信を持って、キラキラした目をノアに向けた。



「────…何だ…」



向けられる視線に、当然ノアの表情は曇る。ウザい、と顔に書いてあるけれど、緋彩には見えていない。




「私はノアさん、嫌いじゃないですよ」

「はあ?」

「好きでもないですけど!」

「はああ?」




意味が分からん、とノアはカップに残っていた茶を飲み干し、ガタリと席を立つ。代金を机に置いて、立てかけていた剣を腰に差し、踵を返したその姿は、まるで映画のワンシーンのように様になる。


「おい」


イケメンって罪だなぁなんて思って呆けていた緋彩に、ノアは首だけを捻り、当然のような顔で言うのだ。









「行くぞ、ヒイロ」









あれは、緋彩の耳がおかしくなっていたわけでもなければ、夢でもなかったらしい。






















「ノアさん私の名前知ってたんですか!?」

「馬鹿にしてんのか」




絶妙に失礼なことを言うのだから、ノアが緋彩を嫌うのは恐らく半分以上が緋彩自身の所為。





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